この力の秘密
天川村を満喫したシン達3人。
このあと、サトシとサヤは大阪観光へ、シンは伯父のシュウジの元へと行くことにする。
シュウジから聞いた話は、シンが予想もしていなかったことだった。
鳥の鳴き声で目覚めると、もう朝だった。あー、サヤちゃんに星空見せてあげるの忘れてたな…まぁでも、今度来た時に一緒に見ることにしよう。
朝ごはんを食べたあと、今度は旅館の温泉にはいらせてもらった。サトシは少し散歩がてら撮影をするようだ。
天の川温泉よりは少し劣るものの、旅館の温泉も良かった。前にも話したが、僕は熱いお風呂は苦手なので、露天風呂に浸かる。
お風呂あがってから、サイダーを飲む。やっぱり美味しい。水が美味しいって素晴らしいな。今回は夕方から次の日の朝までとバタバタした滞在だったけど、またゆっくり天川に来たいな。
「お世話になりました。またゆっくり来ますね」
「一晩だけやと物足りひんやろ〜?また今度日にちあるときにゆっくりしに来てやぁ〜」
おかみさんとサトコちゃんにお別れを言って、天川を出発した。
「天川村、めちゃいいとこだったね〜!ほんとにまたゆっくり来たいな〜。シンくんまた来ようね」
「予想してたよりも、すごく良かったな〜。綺麗な景色もたくさん撮れたよ。お酒のお土産もしっかり買えたし」
相変わらずのサトシである。
天川村から大阪市内まではだいたい1時間ちょいくらいだった。やっぱ車だと、電車バスよりも小回り聞くし早いな。途中シュウジに連絡を取って、正午くらいに本町のオフィスに行く約束をした。大阪の、なんば駅の近くのパーキングに車を停めて、それぞれ別行動をとることにした。
なんば駅から、本町駅までは地下鉄で5分もかからない距離だった。シュウジのオフィスは駅から少し歩いたとこにある、古びたオフィスビルの1室だった。お世辞にも綺麗とは言えなかったが、元々そこに人を招くようのオフィスではないような感じみたいだ。ノックをして中に入る。
「おぉ〜、わざわざ来てくれてありがとうね。ちゃんと1人で来てくれたね」
今日のシュウジは昨日に見たチャラい感じとは違って、スラックスにワイシャツを着て、上にラフなジャケットを羽織った、なんか仕事できそうな感じだった。
「はい、ちょっと色々気になることもあったので来ました。あっ、昨日はたくさんのお金ありがとうございます。助かりました!」
「うんうん、全然大丈夫。むしろ俺のほうが助けてもらったんだし。昨日も言ったけども、IT関係って上手くやると割と儲かるんだよ」
話を聞くと、シュウジは元々システムエンジニアの仕事をしていて、そのうち独立して今は、ほぼ1人でやっていて、たまに知り合いに頼んだりという感じのようだ。システムを作る、システムを売る仕事というのはピンキリらしく、簡単なホームページ作成や、システムの作成なら数十万〜数百万。大きい企業の複雑なシステムとかになると、何千万とかの仕事になることもあるようだ。もちろん会社の規模にもよるみたいだけど。まったく想像はつかないが、とにかくお金は稼げる仕事らしい。うらやましい限りだ。
それよりも、気になることが…
「あー、あれでしょ?気になること」
やっぱり聞こえている。
「シュウジさん。昨日も思ってたんですけど、シュウジさんも僕と同じ…」
「うん、そうだよ。俺も、君と同じ。人間の心の声が聞こえる」
今まで生きてきて、はじめてのことだ。生まれてから、そして小さい頃から、ずっと悩んでいた。苦しんできた。今はそれも少しマシにはなっているが、もしシュウジにもっと早く。もっと早くに出会えていたら…
「俺も、少しはそう思ったんだよ。できればお前にアドバイスしてあげれたらって。でも、それも今から話すけども、能力者同士は、あまりずっと近くにはいないほうがいい」
僕の心の声が聞こえてるから、会話もスムーズにいく。ほとんど話さなくてもいいくらいだ。でもそれだとシュウジの独り言みたいになってしまうから、一応声を発する。
「あの、色々聞きたいことはあるんですけど、まずこの、心の声を聞く力っていうのは何なんですか?何のためにというか…」
「んー、何から話したらいいかな。まぁ1つ言えるのは、俺自身もこの力がなんのためにあるのかはわからない。ただ、昔から…ずーっと昔から受け継がれてきた力だ、ということは言えるな」
受け継がれてきた力?
「そう。聞いたことあるかもしれないけど、陰陽師とかって知ってるかな?安倍晴明とか。それもその1種みたいだけど、祈祷師と言って、神様に祈り、その力を行使するという感じだな。安倍晴明とかは1000年くらい前になるんだけど、それよりもさかのぼると、これは実際のところ日本の歴史書には記録ないことなんだけども、邪馬台国の卑弥呼様ってわかる?」
ヒミコは知ってる、学校の歴史でも習った。
「あの卑弥呼様も、同じような人種だな。ただ、それが演技での神の力か、本物の力か。実際にその力がなくて、演技でそういうリーダーや支配者として君臨してきたやつは、相当の詐欺師だな。で、俺やシンの血筋というのは、ホンモノってことだ」
ホンモノ…
「もちろん俺もすべてを知っているわけじゃない。これは古くからの言い伝えみたいな感じで、聞いただけのことだから、まずホントかどうかは怪しいことなんだけどな。この力を持っている人は限られている。簡単に言うと一世代に1人ずつしか発現しないらしい」
ん?どういうことだろ…
「ややこしいよな。たとえば俺。そしてシン。俺の兄弟や、従兄弟の中では、俺と同じ力を持つ人間は出てこない。シンの場合も同じで、シンはひとりっ子だけども、もし遠縁の従兄弟などがいた場合でも、この力は発現しない。同じ世代に一人ずつということだな」
なんとなくはわかった。
「まぁでも、代々というか、何代くらい続いてるのかもわからんけど、はじめの始祖がいて、その子供、そのまた子供、そのまた更に子供、となっていくと、兄弟や従兄弟ではなくても、同じくらいの年齢でも、能力を持つ人間は出てくることもあるかもしれない。要は世代さえ違えばいいっていう理屈ならな。ただ、それでも人間の寿命を考えるとそこまでは増えることはないということだな」
「なんとなくはわかったんだけど…どうして伯父さんは僕にそのことを話そうと思ったの?」
「まぁそうだよな…今更って感じだと思う。基本的に俺たちの血筋は、誰にその能力が発現したかワザとわからないようにするために、親戚づきあいも基本しないようになっている。シンジと奥さんが死んだ時も、誰も来なかっただろ?」
それはそういうことだったのか…
「俺はシンジと歳も近かったこともあって、直接は会うことはほとんどなかったけど、やり取りはたまにしていたんだ。お前のこと聞いて、すぐピンと来たよ。あー出たのかって」
力のことか。
「伯父さんも…色々苦しんだんですか。この力のせいで」
「あ、これも言ってなかったんだけど、俺の場合は途中で発現している」
え。
「あ、途中でって言っても、20歳になったくらいだったから、30年くらい前のことだけどな。これも言い伝えによるとだけども、一世代に1人っていうルールは、その人間が生きていたらということらしい」
死んでしまったら、次の誰かに移る…ということか。
「そう、よくわかったな。能力を持った人間が死んだ場合、同じ世代の誰かに力が急に発現したり、そのタイミングで生まれた子供に力がうつったりするみたいだ」
そうなんだ。
「だから俺の場合、急になったのはびっくりしたけども、たぶん、お前よりは少しマシだったかもしれないな。元々人間の汚いところは知っていたあとだったからな」
「伯父さん。僕は、これからどうしたらいいんでしょう?」
シュウジは少し考えこむ。
そして、口をひらいた。
「何もするな」
え…
「これは意地悪な言い方だな。普通に生活しろ。そして、目立つことはするな。まぁ簡単に言うと今のままでいい」
「僕は、もちろんこの力を使って、大きいことをしようとか、そんなことは思ってません。でも、もし誰かの役に立つなら、そういう使い方もあるのかなって思っています」
「まぁ…今くらいの感じならいいぞ。でも、だいそれたことをするんじゃない。人助けだとか、とにかく目立つようなことはするな。なぜこんなことを言うかわかるか?」
なんでだろう…
「目をつけられたら終わるからだ。まぁ滅多にはないと思うが、どこにでもそういうことに敏感なやつはいる。そして、自分の欲望や目的のためには手段を選ばない、その人間がボロボロになろうが、苦しもうが、のたれ死のうが、何も気にならないやつもいる」
そんなこと、これまで考えたこともなかった。僕自身があまり人と、関わらないようにしていたこともあるかもしれないが。でも、もしかしたら。僕のこの力が誰か悪い人間に知られたら、そういう可能性もあったんだろうか。
「うん。ごめんな、嫌な言い方をしたが。でもそのくらいで考えていたほうがいい。こんなはずじゃなかった、ってあとで後悔しても遅い時もあるからな。現に俺もやばかった時は何回かあった」
シュウジは僕よりも何歳も年上だ。力が発現したのは遅かったとはいえ、そういう問題にも直面する可能性は高いはずだ。
「俺はこの力を持ってから、というか、発現の可能性を聞いてから、結婚をしたり、子供を作ることを望むことはやめた。なぜかというと、家族がいると、問題ができる確率が上がるからだ」
悲しい考えだが、それも仕方ないのかもしれない。
「今はシン、お前は力を持っているが…これからどうなるかわからないだろ。俺の子孫にその力が発現してしまった場合、俺がそいつを助けてやれるかはわからないからな。だからそもそも作らない」
シュウジは、なぜか、辛いような顔をしていた。
「まぁ、そんな感じだ。ホントはお前の近くにいて、見守ってやりたいところなんだが、はじめに言った理由もあって、そうはできない。ただ…何か困ったことがあったら、いつでも相談してこい。わかったな?」
「はい、わかりました」
「あっ、そうだ、腹減っただろ?近くに美味い蕎麦と天ぷらが食べれる店があるから一緒に行くか?」
「はいっ、お蕎麦好きです。天ぷらも」
蕎麦も天ぷらも大好きだった。
でも、シュウジの話を聞いたあとでは、何かものすごく重いものを背負ってしまった気分になって、
素直に喜べなかった。




