旅路の途中にて
関西旅行出発当日になった。
はじめはサトシの運転で静岡県の浜松まで行き、ウナギをいただく予定。
美味しいウナギは食べることができるのでしょうか。
「大丈夫?忘れ物ない?歯ブラシもった?タオルは?おやつは?」
サヤちゃんはこういうとこだけ、心配性なのである。
「うんうん、大丈夫大丈夫。もしなんか忘れてても、途中で買えばいいよ〜」
サトシと僕はこういうところは、気が合う。むしろ色々心配しすぎて、用意していったとしても、結局使わないとか、ただ荷物になるだけのことが多いからだ。
「とりあえずしゅっぱぁ〜つ♪」
前に話し合って決めていた通り、前半はサトシの運転で静岡の浜松あたりまで向かうことになった。
理由は、先に運転の順番をこなしといて、後半は飲みたいから、だそうだ。まぁサトシらしい。
「わーいわーい!なんか旅行なんてすごく久しぶりな気がするな〜」
サヤちゃんはご機嫌だ。普段仕事で色々考えたり、神経使ったり、大変なのもあるかもしれない。こういう時に、リフレッシュして目一杯楽しめたらサヤちゃんも喜ぶだろう。
運転はサトシで、僕とサヤちゃんは後部座席に2人で並んで座っている。
「うんうん、元々旅行っていう旅行もそんなに行ってない気もするしなぁ〜。静岡っていえば何があるかなぁ〜?せっかくだから美味いもん食べれたらいいなぁ」
「静岡、ってか浜松はウナギでしょ〜?あとはお茶かな〜?本場のウナギ食べたーい!あと本場の抹茶ソフトクリーム食べたーい!」
もう本来の目的は関係なく、ただの旅行となっている。
「そういえば、サヤちゃんは仕事の休みは普通に取れたの?」
「うんうん、うちの会社は特にゴールデンウイークとかは関係ないんだけどね、でも、適当に普段使ってない有休とか使って連休取ったよ♪だってせっかくの旅行だもん」
普段は仕事を頑張って、生活をして、少しずつお金を貯めて、たまにこうやって贅沢できるのもいいなぁ。今回は完全にサトシに便乗の旅行になってるけども、いつかサヤちゃんを色んなところに連れていってあげれたらいいな。
「シンくん、どしたの?考えた顔して」
「うん。いつかサヤちゃんと2人で旅行いけたりしたら楽しいだろうな〜って、考えてたんだ」
「それって…新婚旅行のことかなぁ〜!」
え。そこまで言ってない…。でもなんとなく笑顔で応えておいた。
途中トイレ休憩とかをはさみながら、運転すること3時間ほど。サヤちゃんは序盤にはしゃぎ過ぎたのと、日頃の疲れからかスヤスヤ眠っていた。
「よく眠ってるね〜、前半飛ばしすぎたのかな?」
「あはは、そうかもですね。幸せそうな顔して寝てます」
「たぶんあと30分くらい走ったら浜松なんだけど、もうちょいで牧之原っていう少し大きめのサービスエリアがあるから、そこで給油と、小休憩してから浜松にウナギ食べに行こうか」
「はい、わかりました。任せます」
僕自身がほとんど遠出はしたことないので、あまり地理感もないので、行程はサトシに全任せする。あとはサヤちゃんのリクエストかな。
牧之原サービスエリアに着いて、サヤちゃんを起こす。サヤちゃんが先ほど言っていた、抹茶ソフトクリームが露店で売っていたからだ。
「抹茶!濃厚抹茶!食べる!」
確かに、普通の抹茶ソフトではなく、濃厚抹茶ソフトクリームと書いてあった。なんでも濃厚ならいいってもんじゃないとは思うが、こういう言葉の力というのは凄い。サトシは甘いものいらないみたいなので、1つだけ買って、僕は少しだけサヤちゃんにわけてもらうことにした。
「わーい、本場の抹茶ソフトだ〜。んんっ!ホントに濃厚だっ!さすが本場の抹茶ソフト」
僕も一口いただいたが、どの抹茶を基準に濃厚なのかはわからなかった。でも、美味しかったのは美味しかった。
「お腹あけとかないと、うな重食べれなくなるぞ〜、サヤ」
「うんうん、甘いものは別腹だから大丈夫。あっ、なんかあそこに変な人いるよ〜」
サービスエリアの駐車場から見える位置に、確かに変な人はいた。
白いボードに「OOSAKA HELP!」と書いてある。金髪に真っ黒のサングラスをかけていて、肌はよく焼けている。歳は50になるかならないかくらいのおじさんだ。
「ヒッチハイクかな〜?なんかでも危なそうだし、関わらないほうがいいかもねー」
僕もそう思う。思ったのだが、なんとなく気になってしまった。そして、目が合ってしまった。
「ヘーイ!オオサカ!イキマスカ〜?」
へ、僕に聞いてるのかな。
「えーと、奈良県には行きますけど、大阪はまだわかんないです…」
「オー!ナラケンハシカイッパイダネ〜!ソレニオオサカチカイネー。ヘルプオッケー?」
なんというか片言の日本語っていうんじゃなく、そもそも喋り方がロボットみたいだ。もう見るからに怪しい。
「シンくんシンくん、そんな怪しい人としゃべったらダメだよ!お父さん早く出して!」
「あ、そうだな。ゴメンナサイネー、ノーサンキュー」
ロボット語で答えるサトシ。
「イヤイヤ、ソンナコトナイヨー。チョットダケヨー」
車のドアに手をかける、変なオジサン。
「あっ、危ない!お父さん早く!」
「いや、今出したら余計に危ないでしょ」
「ソウダヨ、アブナイヨー!…あっ!」
ん?なんか今、変なオジサンの普通に素の声が聞こえた気がする。かなり近距離で、まじまじとオジサンが僕を見る。
「あ…もしかして、シンじゃねーの?」
普通に日本語で変なオジサンが喋った。え、え、誰ですかあなた。
「俺だよー、伯父の修二だよー」
「え、え…誰ですか??」
いきなり現れた変な外国人風に装ったオジサンは、僕の伯父さんだと名乗った。




