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Heart〜生まれつき心の声を聞く能力を持った僕は、神様のまねごとで人との絆を紡いでいく〜  作者: くろくまくん


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42/54

ある晴れた日の午後

ユキちゃんはコウヘイのライブで見た楽器、カホンに興味を示し、自分で購入して練習を始めた。


相談所の営業活動をユキちゃんに手伝ってもらい、そのあと、以前ユキちゃんからカミングアウトを受けたあの三角公園に二人で行く。


 公園に行く前に、おにぎりとお茶をコンビニで買って行った。公園に着いて新しくなったベンチに座る。


「ふぅ〜、おつかれさま。結構依頼取れたね〜。ほんとに助かったよ」


「いえいえ。これも日々の営業活動や、日頃の街のみなさんへの奉仕のたまものなのです」


 たまにボランティアで簡単な手伝いとか、電球変えたりとか、そんな事もしてたりするからね。


「そういえば、年明けくらいにユキちゃんにカミングアウトされたのも、この公園だったね〜」


 ユキちゃんが、僕の異母兄妹であるという話だ。それからその話は全然してなかったけど、もちろん他の誰にも言ってないけども、たまにふと思い出すことはある。


「そうでしたね〜。そういえば私のお母さんの死んだ時のこと、ってシンくんに話したことありましたっけ?」


「うーん。なんか病気で亡くなったっていうくらいしか聞いてないかも」


「あー、確かそんな感じで言ってたと思います。亡くなったきっかけは病気だったんだけど、直接の死因は自殺なんですよ」


「え、どういうこと…?」


「その日の朝は普通に仕事に出て行ってて。で、夕方くらいに急に入院って連絡が来て。で、過労かなんかだから、何日か入院したら退院できそう、って聞いてたんですよ。で、その日の夜中に病院の屋上から…」


 そんなことって…。


「それはショックだったよね…」


「うん…でね、あとで病院から聞いたことなんだけどね。お母さん治らない難病になってたらしくて、もし自殺をしてなくても持って1年の余命。もし、寝たきりでも延命措置を取れば、何年も生きれたかもって説明があって。ただ普通には生活は不可能だったらしくて」


「えっ…」


「たぶん…私が思うにはなんだけどね。お母さんは、私に負担をかけたくなかったんじゃないかな。どっちにしても治る見込みのない病気で、ただただ寝たきりの状態で。私に残酷な選択をさせたくなかったのかもしれない。気持ちの問題だけでなくて、お金のこともあったかもだけど…」


「うん…」


「お母さんの優しさがそうさせたんじゃないかな。それにきっと、勇気もいったと思う。自分が苦しい、辛い、逃げたいとかで命を断つのって、自分のためじゃない?でもそうじゃなくて、誰かのために自分の命を断つのって、なかなかできることじゃないと思う」


 そう言われればそうだけど…


「でもね。それでも、私はお母さんの口から、できれば説明を聞きたかったな」


「ユキちゃん…」


「だって、お母さんが悩みに悩み抜いて決断をしていたのに、私はそんなことも知らなくて。それを聞いて一緒に悩んだり、苦しんだり。それに泣いたりしたかったよ…」


 ユキちゃんも色々辛い経験をしてたんだな。こんなことが自分に起きたら、きっと辛いだけじゃ済まないよね。僕はそんなことも知らず…


「あっ、ごめんね、暗い話ばっかりで。これだけを話そうとしたんじゃなくてね、このあとのことなんだけど。前に日記帳が出てきてって言ったよね?」


「うん、覚えてるよ。それで僕のお父さんとの関係がわかったっていう」


「そうそう、お母さん、私を産む前の時、シンくんのお父さんと知り合った時は、スナックで働いてたみたいで」


「へぇ〜、そうなんだね。どんな出会いだったんだろ」


「あ、私には直接話してくれたことはなかったから、日記帳だけの話になるんだけどね。シンくんのお父さんが何度か、お母さんが働いてたスナックに飲みにきてたみたいで。その理由が面白いんだけどね」


「え、そんな面白いことが書いてたの?」


 ユキちゃんは笑いをこらえきれなかったのか、吹き出す。


「うん…そうなの。シンくんのことで悩んでたみたいだよ。シンくんが笑わないって」


 へ。なんだそれ。


「なんの悩み、って思うよね。で、お母さんもそれを聞いててはじめは変に思ってたみたいなんだけど、真剣に悩んでるシンくんのお父さんを見て、色々アドバイスをしてあげたみたい」


「そ、そうなんだ…」


 なんか自分の父親ながら、なんか恥ずかしい。あ、それも元々は僕が原因なんだけど。


「シンくんが仮面ライダー好きだったみたいだから、全力で仮面ライダーごっこをしなさい!ってお母さんアドバイスしたんだって。ウケるでしょ」


 あっ…それって…


「仮面ライダーごっこ…」


「シンくんそんな小さい時だと覚えてないよね〜、でも、それが実は大成功したらしくて、遊び過ぎて熱出したっていうオチまで書いてた」


 めちゃくちゃ覚えてる…


「それ、すごく覚えてるよ…なんでかって言うと、僕のお父さん、普段からあまりそういうはしゃいで遊ぶとかは苦手なタイプで。でも、その時はなんかいつもより張り切って、怪人役も妙に鬼気迫る感じだったんだよね」


「え、そうなんだー」


「なんかその仮面ライダーごっこのために、番組を録画したのを見て、動きとか練習してたと思う。うわぁ、なんか恥ずかしいな」


「あはは。でも、なんかそういうのって、今だから言えるけど、微笑ましいっていうか、青春だよね〜」


 青春のひとことで終わらせていいものかどうか、わかんないけども。まぁ嫌なドロドロエピソードではないな。


「でね、なんやかんやで結ばれて、私が産まれたみたいなんだけど。あ、私を産んだ時には、もうお母さんはスナックもやめて、シンくんのお父さんとも会ってなかったみたいなんだけどね」


 なんやかんやで、ってのは割とそういうとこは詳しくないんだな。まぁ、あまり詳しく書き残したくないこともあるのか。それともユキちゃんが気を使ってわざと言わないでくれているか。


「でも、私自身が物心ついた時から、ずっとお母さんと暮らしてた時にも思ったんだけどね」


 しゃべるのを少しとめて、お茶を飲むユキちゃん。


「お母さんは、ずっと幸せだったんだなー、って」


 そうか…なんとなくでしか僕はわかってなかったんだ。僕の父親がユキちゃんのお母さんと知り合って、恋に落ち、ユキちゃんが生まれた。ただその事実だけを聞いて、なんとなく複雑だとか、うちの父親は無責任だとか(知らないこととはいえ)、ユキちゃんのお母さんは大変だったし、苦労したんだろうなとか、僕が勝手に思う物差しで測っていただけなのだ。だから、誰にも言えず伏せてたのもあるわけだし。


「ユキちゃんのお母さんは、幸せそうだった?」


「うん、元々あまり多くは語らない人だったから、結局シンくんのお父さんのこととかも、あとで知ったくらいだし。でも、私すごく大事にされてた。あと、楽しかった」


「前に、はじめて話してくれた時って、なんとなくだけど、親達が勝手にしたことに振り回されないように…て感じで話してたような気がしたから、てっきりユキちゃんは、お母さんのことあまりよく思ってないのかなって、そう思ってた」


 現に、悪いことをした報いを受けたんじゃない、みたいな言い方をしてた気もする。


「あはは。たぶんその時は少し悪ぶってそういう言い方をしちゃったかも…でも、今シンくんに話してることが本音だよ。さっき言ってたみたいに、私に何も言わず死んでしまったことはもちろん寂しかったけど…でも、それも私のことを思ってなのかなって思うと、やっぱりお母さんのことは責めれなくて」


 ユキちゃんはやっぱり優しいな。賢くて機転が利くだけでなく、心が優しいんだ。それにとても強い。きっとそれは、お母さんからの惜しみない愛情を受けていたからなのかもしれない。僕なんか勝手に拗ねて、独りよがりで、周りの人たちや、親の事を遠ざけていた。


「ユキちゃんは凄いね。僕は自分が置かれている環境を悲観してばかりで、ずっと自分は不幸だと、決めつけていた。去年にサヤちゃんやユキちゃんに出会うことで、やっと救われた気がしたくらいだったんだよ」


僕なんかより、ユキちゃんのほうがよっぽど大人だ。


「んー、まぁでも、それはそれでいいんじゃない?今までのことは今までのことで。今はそうじゃないんでしょ?それでいいじゃん」


「そう、なのかな…」


「うんうん。てか、いつまでもクヨクヨしても、良いことないでしょ?さっき話してたみたいに、みんなのおかげでこうなれた、ってこと。これからなるべくたくさんの人に、シンくんがしてあげればいいと思うよ」


「うん。それは僕もそう思う」


「それにね。シンくんは自分ではあまり思ってないかもだけど、とても優しくて、気づかいもあって、そして、とんでもなくお人好し!バカがつくくらい」


 ユキちゃんが舌をペロッと出して言う。褒めてるのかもだけど…バカは余計だ。


「私は直接見たことも会ったこともないんだけど、シンくんのお父さんのシンジさん。シンくんはお父さんのシンジさんと似ているのかもね」


 そう…なんだろうか。自分ではそうはおもわないんだけど、そうなのかな。


「まぁお父さんと似てるかどうかはともかく。シンくんはシンくんのしたいようにこれからもしたらいいと思うよ。私も、私のしたいように生きていくから」


「うん、ユキちゃんありがとう。あと、色々話してくれてありがとうね。聞けてよかった」


 と、僕の携帯が鳴った。サトシだ。


「シンくん、次のゴールデンウイークあたりに、関西の方に旅行いこうか」


 え。また急だな。


「えーと。旅行、ですか」


「うんうん、なんで急に、って思うだろうけど、詳しくは赤ちょうちんで話すわ」


「え、そんなこと言って、ただおでん食べながら飲みたいだけじゃないんですか」


「旅行の話は、赤ちょうちんでって、昔から決まってるんだよ〜、じゃあ夕方17時に赤ちょうちんでね。ユキちゃんとサヤも呼んだらいいよ〜」


 まったく…ただ飲みたいだけだろ…


「お父さんなんて言ってたんですか?」


「んー、なんかゴールデンウイークに関西に旅行いくぞって。詳しくは何も。あ、ユキちゃんもおでん行く?夕方17時からだけど」


「あっ、その赤ちょうちん、前から行ってみたかったんです。じゃあいったん会社帰って、メールとかチェックしてから、着替えて行きますね」


 ユキちゃんは敬語とタメ口の使い分けがほんとに上手だと思う。僕はそういうのが苦手なだけに、余計に凄い。意識しても僕には無理かも。


「うんうん、じゃあ僕はもう少し商店街あたりうろついて、それからそのまま行くね。サヤちゃんには僕から連絡しとく」


「はーい、じゃあまたね!おに〜いちゃん♡」


 こういうおふざけはやめてほしいと思う。でもかわいいので許してしまう。


 商店街で、アテを買わねばと思ったが…赤ちょうちんに行くなら今日は大丈夫か、と思い直す。今の時間なら、もしかしたら外に出てるかもと、サヤちゃんに電話する。


「おつかれさま〜、どうしたのシンくん?」


「サヤちゃんおつかれさま。なんかサトシが赤ちょうちん集合って行ってるんだけど、サヤちゃん17時くらいなら来れる?」


「あいつまた〜!うんうん、もう今日はそろそろ切り上げようかなーと思ってたとこだし、17時くらいなら行けるよ。なんか話あるのかな?」


「僕も詳しくはわかんないんだけど、関西に旅行だ!って」


「え〜!旅行いいじゃん。あ、じゃあ私、いったん帰って、着替えてから行くね」


「うんうん、わかったよー。じゃあまた後でね」


 サヤちゃんも旅行いきたかったんだな。それにしても、サトシ、急に旅行ってなんなんだろう?まぁでも、楽しみは楽しみだな。


 あ、三角公園に来たついでに、あの鉄塔にも寄ってみよう。前に確かユキちゃんのお母さんの声が聞こえたよな。


 2〜3分歩いたとこにある、僕が小さい頃住んでた家の近所の鉄塔まで行ってみた。


 相変わらず鉄柵で覆われており、昔も今も、すごい存在感を放っている。そっと、その柵に触れてみた。


‐ユキ…どうかあなたも、幸せでありますように…


 ん。前に聞いた時と、少し変わったような。前はなんて言ってたかな…


 お母さん、ユキちゃんは大丈夫ですよ、僕が守ってみせます。


‐ありがとうね、シンくん。ユキのこと見守ってあげてね


 え。シンくん?もしかして、天川の神社の時みたく、亡くなった人と話せてるのかな。


‐短い間だったけど、すごく、すごく楽しかったよ。シンくん、愛してる


 あ、勘違いだった。シンくん違いだ。これは父親のシンジだな。なんだか自分のことのようにドキドキしてしまった。名前が似ているからややこしい。ユキちゃんのお母さんは、ここで長い間、父親やユキちゃんに対しての想いを綴っていたのかもしれない。


 鉄柵から手を離す。


 ユキちゃんのお母さん。僕の父親はもう死んでしまったけども、その代わりに、僕がユキちゃんを守ります。だから、安心してくださいね。




 それは4月の、ある晴れた日の午後のことだった。



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― 新着の感想 ―
カホン、カホンですか! いいですねぇ〜!
ユキちゃんが新たな音の鳴るガラクタをゲットしてしまったのか~。ってあれってカホンっていうんですね。全然知らなかったです。 (^~^;)ゞ ゴミ収拾業務の事前回収は効率が良さそうですけど、生ゴミの事前…
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