ユキちゃんの新しいがらくた
登場人物紹介と、ユキと母親ハナの物語、番外編をはさみました。
今回から本編に話が戻ります。
コウヘイのライブで、弾き語りを聞いたそのあとのお話です。
コウヘイくんのライブが終わって、1週間くらいが過ぎた。今日はゴミ出しがない日なので、少しだけゆっくり寝ていたい。
ポンッポンッ
ん、なんだろ、なんか太鼓みたいな、妙な音が聞こえる。
ボン、ボボンッ、ポンッ
なんかアマゾンの奥地とかで聞こえて来そうな、そんな感じなんだけど…
ボンボンポポンッ!ボンボンポンッ
「あぁ!うるさーい!!」
今日はゆっくり寝たいんだよ〜、てかどこからだろう、この音。隣はユキちゃんの部屋だけど…
ノックをしてから、ユキちゃんの部屋のドアを開ける。
「あー、うるさかったですか〜、すみません…」
ユキちゃんは、木の箱にまたがっていた。え、なんだこれ。
「ユキちゃん、何してるの?」
「あっ、これあれですよ!カホン。コウヘイくんのライブの時に、2人組で1人がギター、1人がこれを叩いて歌ってたのあったじゃないですか〜」
なんとなく、思い出した。四角い木の箱で、イスみたいに上に座って、たたく場所で高い音や低い音が出る、面白い打楽器だ。
「あ、それはなんとなくわかったんだけど、なんでそれがここに?」
「え、買ったんですよ〜。楽しそうだったので」
「へ、へぇ〜。まぁ楽しそうだねぇ。あーでも、朝イチとか夜遅くとかは、やめようね」
「すみません、昨日の晩届いたもんで、叩きたくてウズウズしてたんです」
「それこそ、コウヘイくんとこのライブハウスだったりとか、外の公園とかだったら、大丈夫かもね」
「ほんとですね。あ、でもこれまぁまぁ重たいんですよ〜、私1人じゃ持てないの」
じゃあなんで買ったんだ。こういうところは、ユキちゃんは前の引っ越す前からそうだったんだけど、なんか本やら変なものを集めるクセがある。まだインテリアとかならいいんだけど、今回のは厄介だな〜。
「あはは。まぁ運ぶようの台車とか、カートを買えばいいんじゃない、そのうちでも。でも、そういう楽しめる趣味ができて、良かったよね」
「カートあれば楽かもですね。そうなんですよ、コウヘイくんのライブ観に行って、すごくいいなぁって思って。ギターはなんか押さえたりとか、複雑そうだから厳しそうだったけど、カホンならなんとなくでいけるんじゃないかなーって」
きっと、1週間で飽きるだろう。そんなガラクタたちを僕は見てきた。
「カホンっていくらくらいしたの?」
「これは2万円くらいですね、中古なんですけどね。もっと安いのもあるんですけど、コウヘイくんに一緒に楽器屋さんに見に行ってもらったんですけど、下手に安いやつ買ってすぐやめてしまうより、少しだけ高いのにしたほうが、続くし、ものもいいからいいと思うって」
なるほど、それは言えてるかも。値段値段ばかりで買い物をして、結局よくなかったりして、使わなくなったり、耐久力悪くて傷んでしまったり、ということもありそう。楽器でもそういうことはあるんだな。
「 またちゃんと叩けるようになったら、コウヘイくんとユニット組んで演奏できそうだね。楽しみにしてるね」
「はいっ、そのつもりで買いました」
そのつもりだったんかい。まぁ楽しみがあるにこしたことはない。
僕のほうはというと、特に毎日に楽しみがあるわけじゃないんだけど、前にコウヘイくんと相談してた、ゴミ出し効率化作戦を、進めていたのだ。
これはどんな作戦かというと、今のところ、前の日の晩に依頼を受けたお客さんの自宅に、ゴミを受け取りに行く。そして、次の日の朝に、指定の場所にゴミを捨てにいく。1件あたり月額4000円ほどという感じだ。今の現時点では20件の依頼で、月額8万円の報酬がある。
ただ、これがどんどん依頼を増やしていった場合、まず人手が足りない。あと時間も足りない。そのうちキャパオーバーになってしまうということだ。そこで、考えたのが、ごみ処理センターに一括で持っていくこと。調べると重さ単位での処分料になるんだけど、50kgまでで300円で、それ以降は10kgごとに60円加算という、割とリーズナブルな処分料なのだ。持ち込みをするという手間がいるかわりに、その価格というわけ。ゴミはその日によってもちろん重さは変わるんだけど、だいたい一袋5kgくらいとして、10袋で50kg、20袋だと100kgという計算だ。
これによると100kgのゴミの処分料は600円。それぞれのお宅に回収に行って、センターまで運んでいく手間はかかるものの、1回あたり1万円の報酬だから、9400円の儲けが発生することになる。
さらに依頼を増やせば、更にあがる。ゴミを運ぶのが少し大変なんだけども、さとしに相談して軽トラを借りるか、もしくはリヤカーを買って、人力で運ぶか、その両方か。なんか便利屋とか言って、結局ゴミ処理ばっかりか、と言われてしまうとそこまでなんだけど、短時間でここまでの稼ぎがあるのはとても効率がいい。
他の掃除とか、片付けとか、ペット探し、人探し、モノ探しなど、色々するが、どうしても時間給として換算すると、労力と報酬が見合ってない気もする。なので、なるべくゴミ出し業務を拡張して行きたいと思うのである。まぁとにかく、自分自身の生活のためもあるけども、人の役に立つことができれば、それが1番である。
「シンくんおはよぉ〜♪」
サヤちゃんが起きてきた。
「サヤちゃん、おはよう。サヤちゃんはアマゾンの奥地の演奏に起こされなかった?」
「え、アマゾンの奥地てなに」
ボンッポポンッボンッポポンッ
「これ」
まだ叩いてるんかい。よっぽど嬉しかったんだな。でも、ユキちゃんが音楽というか何か新しいことを始めるって珍しいな。よっぽどライブが楽しかったんだろうな。そのカホンの演奏に釣られるように、のっそりとサトシが起きてきた。
「ん〜、なんか進藤家の目覚ましが、新しいBGMに変わってるぞ…こんな打楽器系のんだったっけ」
昨日も飲んでたのか、すこし顔がむくんでいる。休肝日とかこの人にはあるんだろうか。
「昨日から生演奏になったみたいよ、目覚まし。気まぐれで鳴ったり鳴らなかったりするかもだけどw」
どんな目覚ましだ。
「お父さんおはようございます、今日はユキちゃん借りてもいいですか?できれば営業に連れていきたくて…」
「あ、うんうん、今日は特にWebの依頼も詰まってないし、俺は知り合いのとこに行く予定だから、全然大丈夫だよ」
そうなのだ。最近はユキちゃんが空いてる時は一緒に営業に行ってもらったりしている。理由はもちろんユキちゃんが声をかけたり、対応するほうが依頼が増えるからだ。もちろんユキちゃんだけに任せてるわけじゃないけどね。でも1人だけで回るより、2人のほうが都合がいいこともある。その日の緊急の依頼だったりも、二手に分かれてこなせたりするからだ。短時間で出来るような仕事だけだけどね。
「ありがとうございます。帰りにいつものやつ、ちゃんと買って帰りますね」
酒のアテである。サトシは酒と酒のアテがあれば、食事はいらない。
「そんな気ぃ使わなくていいよ〜。じゃあ生スルメと、鮭とばと、味玉でよろしく」
いいよと言いながら、ちゃっかりリクエストを言う。まぁそのくらい素直に言ってくれたほうが、こちらも迷わなくて済むのでいい。
「はーい。じゃあ家の掃除だけしてから、出ますね」
朝ごはんをして、サヤちゃんを見送って、家の掃除、トイレ掃除などを済ませてから、ユキちゃんと家を出た。商店街の方に向かいながら、ユキちゃんと話す。
「シンくん、最近は依頼も安定してきて、いい感じになってきましたか?」
「うんうん、まだ言っても2ヶ月そこそこだから、安定とまではいかないんだけどね。はじめたての時よりは、おかげさまでマシになってきたと思う」
「そっか〜、それならよかったです♪」
「これも、サトシやサヤちゃん、ユキちゃんやコウヘイくん、タケばあちゃんも含めて、みんなのおかげだよ。僕1人ではなんにもできなかったし、ほんとに感謝してる」
「へへへ。そこまで言われると照れるなぁ〜。でも、前にも言いましたけど、お互い様ですよ。私だって、シンくんに助けてもらったし、お父さんやサヤちゃん、色んなみんなに助けてもらって生きてる。
そして、お父さんやサヤちゃんも、私達を助けてくれながらも、他の色々な人のおかげで生きてる。1人で何もかもをできる人なんていないもんね」
そう言われればそうかもしれない。前のライブでコウヘイくんが歌っていたように、お互いの少しずつの優しさで、人は助けられ、幸せになってるのかも。僕も、自分が受けた優しさを、少しでもみんなに返していけたらいいな。そうしたら、良い連鎖は生まれるだろうか。
「あっ、シンくん。午前中少し営業と仕事してから、前にも行った、三角公園に行きませんか?」
「あっ、うん、いいよー。今日は差し迫った仕事は特にないから、キリのいいところで休憩がてら、散歩に行こうか」
というわけで、商店街での定期巡回と、タケばあちゃんちにも行ってみて、とりあえずゴミ出し依頼の追加を5件と、掃除の依頼を何件か受けた。ユキちゃん様々である。




