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Heart〜生まれつき心の声を聞く能力を持った僕は、神様のまねごとで人との絆を紡いでいく〜  作者: くろくまくん


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シンとサヤ

淡々と過ぎていく日常。


淡々と過ぎていく毎日。


出会いはある日突然にやってくる。

 僕が26歳の秋。


 今までもそうだったんだが、人の心の声を聞きすぎることに疲れ、なるべく多くの人と関わることなく、たとえばスーパーの買い物でも、セルフレジを使うようにし、配達をしてもらうことは少なくしているが、やむをえず頼む時でも、置き配か、宅配ロッカーを使うことにしている。そこまで人と会わないようにすると、それはそれで寂しいのかもしれないけども、まぁなんというか、クセみたいなものなのかもしれない。

 現に、直接の会話があまりスムーズにできなかったりもする。心の声と生の声はもちろん聞き分けることはできるんだけど、どうしても変な違和感があったり、直接の声と心の声のギャップに耳がキーンとなることもあるからだ。うむ。


 これはある日の仕事帰りのことだ。


‐あぁ…もうダメ…死んじゃいたい…


 ネガディブな感情の心の声というのは、その声の性質からか、聞こえ方も普通の心の声より重くなる。楽しい心の声は逆に軽い。重い軽いというのが実際ずっしりと耳に来るっていうわけじゃないんだけども、感覚みたいな感じね。ふいに聞こえてきたこの声は重かった。


‐私ってなんでいつもこうなんだろ…あれだけ先輩にも気をつけるように、って言われてたのに…あーもう私のバカー!


 なんとなくだった。なんとなくだけど気になって、たまーにやる、なんちゃって神様になることにした。


『人間よ、聞こえるか人間よ…』


‐あーもう、せっかく大きい仕事任されて、これからって時に、なんで私ってドジなんだろ、ほんと小さい頃からずっとこうなんだから…ホントに嫌になっちゃう…


『あのー、聞こえてる?もしもし?』


‐あーもうホント!死んじゃいたい!


『人間よ、人間の女よ。おーい!女!聞こえてる?』


‐あーもううるさいっ!聞こえてるわよ!てか何?この頭に響く感じの声!


 なんちゃって神様にこんな態度をされたのは初めてである。


『ごほんっ、聞こえてたのだな。人間の女よ、わしは神だ。何か悩んでおるのか?』


‐もう何よ!神様?なんかすごくウザいんだけど!人が悩んでる時に話しかけないでくれる??


 なぬー!ウザいと来たか。てか、僕も気まぐれで声をかけたのはいいけど、なんか普通に街中で女の子にナンパしたのを、ウザがられてるおっさんの心境なんだけど…


『いやー、まぁ別にいいんだけどね。なんか死んじゃいたいって言うから、どうしたんかなーて心配になって声かけただけなんで。大丈夫ならもういいよ』


‐普通に喋れるんならはじめから普通に喋りなさいよ!なんか怪しげな言葉づかいされたら気持ち悪いって。声からして若いんだから尚更ヘンでしょ?


『あー、まぁそうなんだけどね。てか心の声に返事されて、何も思わないの?普通びっくりしない?』


‐びっくりするけど、それよりも大変なことがあるから、それどころじゃないの!ていうかあなたは誰なの?顔見せなさい!


 普通に会話をされた上に、顔見せなさいときた。これはこちらがびっくりだ。この状況にびっくりしない上に、なんか空から声かけてるような、そんなイメージなんだろうか。


『えーと、んー…まぁ顔見せれないこともないんだけど近くだから…でもいきなり心の声を聞かれて、それに返事してきた変なヤツとかの顔みたいとか思うのって、なんか変じゃない?』


‐変なヤツに変だなんて言われたくないんだけど〜。ていうか、あなた近くにいるの?もしかしてストーカーみたいなヤツ?


『いやいや!決してストーカーではないよ。むしろ君のことも知らないし、たまたま仕事帰りに、声が聞こえただけっていう、行きずりの感じだよ』


‐行きずりに心の声が聞こえるなんてあるわけ?なんか怪しいな〜…まぁでも近くにいるならとにかくこっちに来てよ!


 なんか嫌な予感しかしないんだけどな…まぁでもなんだか自分の中でも、今までにない展開というか、そもそもこの状況に普通になじんでいる相手がいるというのも新鮮で。で、もうひとつは声からして、悪い人じゃないな、って純粋に思ったんだ。


『あー、わかったよ…でも仕事帰りだからくたびれてるし、まぁ僕がくたびれてようが君には関係ないかもだけど、それはごめんね』


‐はいはい、わかったからどーぞ!


「こんばんは」


 まぁまぁ近くまで心の声を探って歩いて来てたので、すぐわかったのだ。場所は、僕が仕事帰りに20分ほど歩くルートから少しだけはずれたとこにある、小さな公園だった。そこにいたのは、キツイ感じの喋り方とは少し想像できなかった、可愛らしい女の人だった…


「えっ、割と同じくらいじゃん。何歳?私は26歳だけど」


たぶん同じくらいかなーとは思ったけど、ホントに同い年だった。


「あっ、うん。僕も26歳」


 言葉が…いつものことなんだけど、直接話すことがほとんどないから、心の声で会話するより言葉が出ない。


「あれ?なんかさっきは神様だぞよ!とかペラペラしゃべってたのに、意外とおとなしいの?てか、その心の声聞けるってなんなの?なんか超能力みたいな感じ?」


 よく喋るな、というか初対面の、しかも心の声聞けるとか意味わからんことを言ってくる男に、そんな馴れ馴れしく喋れるもんなのか?


「えーと。直接話すこと少ないから話すのは苦手かも。心の声を聞くのは僕もよくわからないけど、気づいたらできてた」


「へぇ〜、そうなんだ!私はサヤっていうの。さっきも声聞かれてたから、知ってるかもだけど、仕事でヘマして凹んでたとこ。あ、そういえばあなたの名前は?」


「僕はシン。松岡マツオカ シンです」


 神様が本名を名乗ってしまった。普通ならそこまで言わないんだろうけど、なんかこの子はなんか喋りやすいというか、大丈夫って気がした。


「あぁ〜!!!シンくん??暗くてあまりわかってなかったけど…シンくんだったの!?」


 え?えぇ?シンくん?僕のこと知ってる?


「え、シン、だけど…知ってるの?」


「わたしわたし!サヤだよ。ひばり幼稚園の!ていうか久しぶりじゃん!」


 マジか…!なんとなく心の声聞いた時から、なんとなく聞いた声のような気がしてたんだけど。今回の神様のまねごとで出会った可愛らしい女性は、僕が幼稚園の時に思いっきり避けられてしまった女の子、サヤちゃんだった。



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