コウヘイの憂鬱
サトコの歓迎会はサトシとタケばあちゃんを除く5人で2次会に突入。
コウヘイが夜にバイトをしている、ライブハウスで飲んでいると…
「マスターおつかれ〜!おっ、コウヘイちゃんじゃーん!何してんの?」
なんかすでに酔っ払ってるのか、ふらふらした足取りで入ってきた。コウヘイくんに話しかけた男と、あと2人同じ年くらいの男があとに続く。
「あっ、サヤちゃんもいるじゃん。俺達が来るのわかってて来たのかな〜?」
もう1人の男が言った。あきらかにサヤちゃんが嫌な顔をしている。
「サヤ、久しぶりだな。元気にしてたか?」
1番後ろから入ってきた男が、サヤちゃんのことを呼び捨てにして話しかけている。
「うん、まぁ別に普通だよ。今日は遠くから友達が遊びにきてて、その打ち上げで来てるから、ちょっとゆっくりさせてくれるかな?」
「えぇ〜、いいじゃん俺達も混ぜてよ〜。それとも元カレと今カレが一緒にいると困るのかな〜?」
元カレと今カレ。
「うわ、ウッザ!なんやせっかく楽しゅうなってきたのに、この気持ち悪い男たちのせいで台無しやわ〜!」
サトコちゃんが敵意むき出しで男たちにつっかかる。
「なんだとこのブス!」
男の1人がサトコちゃんに暴言を吐いて向かっていこうとした、その時。
「お前らいい加減にしろよ!」
コウヘイくんが席を立って、叫ぶ。
「ゆっくりさせてくれって言ってるだけだろ。頼むわ」
普段穏やかな話し方のコウヘイくんが珍しく声を荒らげていた。僕がコウヘイくんをなだめる。
「コウヘイくん、もういいよ。そろそろ帰ろ?また違う日にゆっくり来たらいいよ」
マスターも、気まずそうにしながらも、会計の準備を始める。こっちのほうに、カウンターを越えて小さな声で、
「ごめんな〜、あいつらめんどくさくて。ほんと申し訳ない。あ、2杯目のはナシでいいから、1杯目のドリンク代だけもらっていい?ごめんね〜」
「いえいえ、大丈夫です。また寄らせてもらいますね。今度はライブがある時に来たいと思います」
男3人組も、何か言いたげにはしていたが、これ以上揉めてしまう前に、店を出ることにした。
「すんません、なんかせっかくの楽しい時間を…」
コウヘイくんが頭を下げて謝る。
「コウヘイが気にしなくていいの!だから私あの店嫌だって言ったんじゃーん!あ、せっかくだし飲み直そ?シンくんがたっぷりお給料もらってるはずだから、おごってもらっちゃお〜」
サヤちゃんはホント優しいな。こういう時に気づかいができるのって、素晴らしい。
「そうだそうだ〜!シンくんのおごりでぱぁっといくぞぉ〜!!」
ここに酔っ払いが1人。
「おっしゃ、今日はとことんまで行くでぇ〜!」
ここに酔っ払いがもう1人。
「あはは。2人とも酔っ払いすぎだろ。あ、サトシ、じゃないや、お父さんにもせっかくだから連絡してみよっか」
「パパ、もう寝てるかもだけどね〜」
結局サトシは寝ていたので、僕、サヤちゃん、ユキちゃん、コウヘイくん、サトコちゃんの5人で、近くのカラオケに行くことにした。
「シンくん、HANAって知ってる〜??最近流行ってる7人組なんだけどね」
「あっ、それなら知ってるよ。さぁよなーら、だーいすきな、ひとぉ〜♪てあの曲好きだよ」
「それは、花*花だね。シンくんって、若いのに年代まぁまぁ昭和だよね〜」
どうせ、僕は昭和だよ。というか、それにちゃんとつっこめるサヤちゃんも昭和なんじゃないの。
思ったよりカラオケは盛り上がった。あと、気づいたのはコウヘイくんがめちゃくちゃ歌が上手かった。
「コウヘイくんって、歌上手いのに、そう見えないのがすごいよね〜」
普通に失礼なことを言うユキちゃん。
「えっ、コウヘイくんはボーカルをしてるの?」
「あ、はい。一応ボーカル&ギターっす」
なんというか、普段の喋りと、歌の時のギャップがありすぎて、余計にびっくりした。すごく高い声が出るとか、声量があるとか、というわけじゃないんだけど、説明しにくいんだけど、雰囲気がある歌い方っていうの?そんな感じ。うわ、プロっぽいな!ていうのが素人の僕の感想だった。
「コウヘイは元々芸能系を目指してたからね〜、でも学校卒業してからも、なかなか上手くいかなくて、結局フリーターをしてるってわけ」
「はい〜、そうなんす…」
「めちゃくちゃ上手いと思うんだけどな〜!わたし」
こうやって、みんなでワイワイ楽しくするのも、たまにはいいなぁ。カラオケの途中、トイレにいこうと外に出たときにサヤちゃんも一緒に出てきた。
「シンくん…さっきはごめんね。バーのあの男達」
「ううん、全然いいよ。あれ以上揉めなくてよかったよ」
「シンくん気になったかもしれないけど、あの3人の中で1番背がでかいやつ。あいつ私の元カレなんだ…」
うんうん、そう言えば男の誰かがそう言っていたな。
「あ、でも別れてから全然会ってもないし、連絡もしてないからね。番号も消したし」
「うん、うん。大丈夫だよ。あ、でももし、困ったことがあったりしたら、いつでも頼ってきてよ。サヤちゃんだけで解決しようとしたらダメだよ」
「うん、ありがとね」
カラオケでしばらく過ごしてから、さすがに次の日に差し支えるので、お開きにすることにした。
コウヘイくん以外は同じ家に向かって。
「えっ、サトコちゃんはばあちゃん家には行かないの?」
「え〜、嫌やわそんな全然知らんばあちゃんち行くのん。明日のお昼くらいには帰るし、今日は泊めてほしい〜」
まぁ、僕が同じ立場でもきっとそう思うに違いない。まったく面識もないのに、急におばあちゃんだよ、って言われても困るよね…
「いいじゃん、シンくん。こんな女の子を1人でほっとけないでしょ?私の部屋で今日は一緒に寝ましょ♪あ、明日は私仕事だから、ちょっと寝かせてもらうけど、ごめんね」
「さすがサヤ姉は話がわかるわぁ〜♪もう一生ついていきます!」
まぁ、喧嘩してるよりは仲いいほうがいいんだけどね。というわけで、僕も明日はゴミ出しの日だからとっとと帰って寝ることにした。
「じゃあみんなおやすみなさい。また明日」
「おやすみなさ〜い」




