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Heart〜生まれつき心の声を聞く能力を持った僕は、神様のまねごとで人との絆を紡いでいく〜  作者: くろくまくん


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さようなら、天川村

最寄り駅までサトコちゃんが車で送ってくれることになり、天川からの帰路につくシン。


帰りの車の中で、シンはサトコとの別れを惜しむように言葉を交わす。

 車の中で、僕の仕事の名刺を渡した。簡単な名刺だけど、番号と一応住所(サトシの自宅)も書いている。


「東京のほうやて、なんやカッコええなぁ〜。また電話もメールもするわな」


「うんうん、僕も連絡するよ」


「そういえば、天河神社ちゃんと入れたん?」


「うんうん、普通に入れたよ。あ、そういえばね〜。なんか不思議なお告げがあったよ」


「え。お告げってなんなん。シンくんそういう系の人かいな」


「いや、まぁ聞き流しといてくれたらいいんだけどね、ちょうど神社でお参りしてたら神様からのお告げがあってね。もし、サトコちゃんの部屋にお父さんの荷物が残ってたら、その中にフィルムがあるから、現像するといいことがあるってさ」


「はぁ〜!?おちょくっとん、シンくん!てか父ちゃんの荷物なんか…あー、わからんけど、段ボール箱にツッコんでそのままの荷物があるかもやわ。まぁでもフィルム見つかっても現像なんか出さんけどな!なんやその神様、父ちゃんとグルなんかいな」


 僕もそう思う、だってトオルさん本人だからね。

トオルさんは、そのうちみんな忘れていくって言ってたけど。たぶんそれは大丈夫な気がするな。次来た時にまた、あの神社にからかいにいくか。


「あはは、どうだろうね。まぁもし荷物ありそうなら一度見てみたらいいんじゃない?」


「まぁ気ぃ向いたら見とくわ〜」


 それからしばらく2人とも無言だった。


「あっ、そうやわ、もう今日は仕事あがらしてもらったから、シンくん大阪からバスに乗るんやろ?ウチ大阪まで送ってあげるわ」


「えっ、大丈夫だよ。時間もかかるし大変でしょ?」


「全然平気やもん。それともそんなに早くウチとお別れしたいん〜?」


「そんなことないんだけどね。あ、えーと一応帰る時に連絡するって言ってたから電話1本かけていいかな?」


「あっ、彼女やんね?うんうん、ええよ」


 昨日の夕方からサヤちゃんに連絡してなかったんだった。もしかしたらまだ仕事中かもだけど、一度かけてみる。


「あっ、サヤちゃん?おつかれさま。今日の晩の夜行バスで帰ることにしたよ」


「シンくん、おつかれさま〜、あっ依頼されてた息子さん、見つかったのかな?」


「んーと、そのあたりは色々あったんだけどまた帰ったら話すね。あ、それで大阪までは、村で知り合った人が送ってくれることになったよ」


「あっ、そうなんだ。よかったじゃん。優しい人だね〜」


「シンくん大阪でなんか美味しいもん食べよっか〜!ウチお好み焼きが食べたいわぁ〜♪」


 サトコちゃんがいつもより大きめの声でしゃべる。これは絶対わざとだな。


「ん!?なんか女の子の声が聞こえるけど!シンくん!どういうこと?」


「あっ、いや…あっ、なんか電波が!声が…遅れてるような…」


 これは話せば話すほどややこしくなる気がしたので、無理やり電話を終わらせた。ごめん、サヤちゃん。


「シンくんの彼女、なんやキツそうな女の人やなぁ〜。シンくん尻にしかれとんちゃうの?」


 バレてる。色々ツッコミどころはあったけど、言い返せない自分が嫌だ。


「あ、さっきも言ってたけど、車で送ってくれるぶん、だいぶ時間に余裕があるから、どこかでご飯たべよっか。お好み焼きがいいの?」


「あっ、さっきのやつ。ううん、ウチなんでもええよ、シンくんとおりたいだけやから」


 結局、あまり大阪付近だと車を停めるのも大変だからということで、奈良から大阪の南のほうに向かう途中で、ラーメン屋さんでラーメンを食べた。


「ラーメン美味しかったんだけど、天川の食べ物が美味しすぎて、何を食べても、それ以上にならない気がするよ」


「ウチもそう思ってた。そやねん、外食のチェーンてやっぱ味が濃いいんよ〜、それを美味しいって思うかは人によるんやろけど、ウチは天川の食べ物がおうてるわ」


「ね。サトコちゃん、ほんとにありがとうね。はじめにバス降りた時、サトコちゃんが、声かけてくれなかったら、こんな楽しい時間過ごせてなかったと思う」


「そりゃそうやろ!ウチとおって、楽しない言ったらその場でお仕置きやわ!」


「ありがとうね。また天川遊びに行くね」


「絶対やで!ウチ社交辞令って嫌いやからな。またいつか、とか嫌やで」


僕も社交辞令は嫌いだからわかる。


「うんうん、じゃあ紅葉が綺麗って村の人が言ってたから、秋に行こうかな」


「秋やて!半年後くらいやんか〜。あかんあかん、もっと早くやわ」


「う〜ん。じゃあ夏の間かな?」


「4ヶ月くらい先やんか、全然変わらんわ、もっと手前〜」


 サトコちゃんもなかなかしつこい。でももう少しこのやり取りを楽しんでもいいかなと思ってる僕がいた。


「じゃあ5月!」


「あかーん」


「えっ、来月くらい?」


「来週くらいかな〜」


 それは早すぎるだろ。


「来週にすぐはちょっと無理かもだね〜…でも、きっと連絡するし、また来るよ」


「ウチ絶対な、バス見送ったら寂しなるのわかってるねん。あんな、昨日おうたばかりで軽い女やって思わんとってほしいんやけど…」


「うんうん、サトコちゃんのこと、そんなふうに思ってないよ」


 色々話してると、あっという間に大阪に着いてしまった。途中ラーメン食べたり、コンビニに寄ったりしたから、結局大阪に着いた頃には20時半くらいだった。高速バスの乗り場の少し離れたところにパーキングがあったのでそこに停めて時間までゆっくりすることにした。


「シンくんがバス停のベンチのとこに寝てる時あったやん?はじめは、なんや変なヤツおるでーって思ったんよ」


 まぁ普通はそうだよね。


「はじめての遠出だったのと、バスやら電車やら、色々乗り換えとかで、たぶん疲れてたんだと思う」


「そうやんな〜、で、ちょうど休みやからってのもあったんやけど、てかいつも暇なんやけど、シンくんと温泉行ったり、アイス食べたり、星空見たり、なんかデートみたいですっごく楽しかったで♪」


「うんうん、僕もすごく楽しかった」


「ウチ、シンくんのこと、ちょっと好きになってしもたかもやわ…」


「うん、うん。僕も好きだよ」


 サトコちゃんが僕のほうを見る。


「シンくん、優しすぎるのも残酷なんやで…なんとも思ってへんかったら、いっそのことなんとも思ってへん!ってはっきり言ってくれたほうが、すっきりすんねんから」


「うーん…さっきサトコちゃんも言ってたけど、僕も社交辞令とか、表面だけの付き合いとか、お世辞とか、嫌いなんだ。だから素直な気持ちで言ってるよ。サトコちゃんのことは好きだし、また天川にも行くよ」


「うんっ、ほんまに待ってるで。あ、バスもうちょいで来るかな?」


「ごめんね、遅くまで付き合ってもらって。帰りも遅くなるよね」


「そんなん、かまへんよ。普段あまり遠出もせーへんから、気分的にも新鮮やし、たまには大阪のきったない空気も吸うとかなやで」


「あはは。あ、そろそろバス来る時間だ。サトコちゃん、いっぱいありがとうね」


「今な、めっちゃぎゅーしたいんやけど、してしもたら離したくなくなってまうから、我慢してるねん」


 こういう時だな、男はオトコらしく。サトコちゃんを僕の方に少し強引に向かせた。


「シンっ…」


 そして、強く抱きしめた。


「ホントにありがとうサトコちゃん。またね。帰り運転気をつけてね」


「うんっ…」


 停留所に停まっていた高速バスに乗る。ほんとによかったな。サヤちゃんにバスに無事に乗れたメールだけ送り、目を閉じた瞬間、寝てしまっていた。


 目をあけたら、もう少しで新宿の手前だった。かなり熟睡していたみたいだ。サトシの家は練馬区なんだけども、新宿からは地下鉄で20分くらいでいける。


 駅に着いて、歩きながらサヤちゃんに電話してみた。まだ早すぎるかな…


「おはよう、シンくん。もう着いた?」


「うんうん、今最寄り駅だよ〜。ごめんね朝早くに電話して」


「ううん、大丈夫だよ。もう起きてたから」


 サヤちゃんには色々心配かけてしまったかな…たぶんあまり寝れてないような感じだった。


「あ、昨日の帰りのことなんだけどね…あの送ってくれた女の子って、タケばあちゃんの息子の子供、孫なんだよ」


「えっ!!」


「また帰ってから、っていうか今日の晩でも話すけどね、タケばあちゃんの息子はもう亡くなっていたんだ、事故で。で、たまたまその娘に出会えたっていう感じ」


「な〜んだ…私またシンくんがかわいい女の子ひっかけて!ってすごく心配してたんだよ…」


う。少しだけ、サヤちゃんに罪悪感はあった。でも、それはあえて言わないでおく。


「ごめんね、ちゃんと説明できてなくて。もう少しで着くけど、まだ朝早いし寝ときな」


「ううん、起きてる」


 サヤちゃんをまた不安にさせてしまったな。歩いてると、少し先に、スマホで電話してるサヤちゃんの姿が見えた。手を大きく振る。


「見えたよ〜!」


 電話を切った。お土産とか荷物が多くて走れない。サヤちゃんのほうがこっちに向かってくれた。


「ただいま、サヤちゃん」


 両手がふさがってる僕のかわりに、サヤちゃんが両手で僕を抱きしめてくれた。


「おかえり、シンくん」


「心配かけてごめんね、あっ、みんなにお土産買ってきたよ」


「うん、心配だったよ…もうあまり遠くに行かないでほしい」


「うん、うん。あまりしょっちゅうは行かないようにするね。一緒に帰ろ」


 サヤちゃんはそのまま動かない。


「もう少しこうしとく」


「うん、わかったよ…」


 お土産と荷物を、そっと地面に置いた。そして、あいた両手でサヤちゃんを抱きしめた。


「ただいま」


 サヤちゃんが仕事に行くのを見送って、午前中のうちにばあちゃんに報告に行かないとと思って、家に向かう。タケばあちゃんに、息子のトオルさんは亡くなってしまっていたこと。でも、そのトオルさんの娘のサトコちゃんに村で会えたこと。そのことを伝えた。天河神社でトオルさんと会話したことは話さないでおいた。


「そうかぁ、トオルは死んでしもたんやなぁ〜。まぁ連絡できんかったワシも悪かったしなぁ。兄ちゃん、遠くまでありがとうな」


「うんうん。天川村、すごくいいところだったよ。孫のサトコちゃんも元気に過ごしてた」


「うん、うん。あぁ、帰ってきたら残りの報酬払う言うとったんやった。これな、少ないんやけど取っとき。ありがとうな」


 報酬の入った封筒をタケばあちゃんからもらう。20万もはいっていた。


「えっ、ばあちゃんこれは多すぎじゃない??いいの、こんなに貰って?」


「旅費の分とかも込み込みでそれにしてくれるかい?ややこしいからな、細かいのんは。遠慮するんなら渡さんけど」


「いえ!ありがたくいただきます!」


 もちろんお金のためだけではない。ためだけではないんだけども。このボーナスはすごく嬉しい。サヤちゃんと美味しいもの食べにいこ〜!


「タケばあちゃんありがとうね」


「うんうん、こっちこそありがとうな」


 ばあちゃんは、トオルさんが亡くなったことを聞いても、そこまで悲しそうにはしてなかった。なんとなく予感はしてたんだろうか。サトコちゃんのこともそこまで詳しく聞かれなかったな。


 天川から帰ってきてから、1週間くらい経った。留守中のゴミ出し依頼は1回だけだったんだけど、その分の報酬1万円は、コウヘイくんに丸々あげた。


 サトコちゃんからはあれから連絡は来なかった。連絡するって言ってたのにな。僕から連絡するか迷ったんだけど、結局しなかった。


 今日はゴミ出しもなく、いつものように商店街でチラシ配りや、住人みんなの様子うかがいをしていた。2ヶ月くらいも経つと、ぼちぼち顔も売れてきたのか、いつもの兄ちゃん、ていうくらいには認知されてきたみたいだ。


 あと1週間くらいしたらサトコちゃんに連絡してみようかな。これは僕の中のプライドみたいなもんで、凄くちっぽけなプライドなんだけど、僕から連絡すると、寂しいって自分から言ってるみたいで少し抵抗があったのもある。ほんとに男のプライドなんてしょうもない。携帯に表示されたサトコちゃんの電話番号を、少しだけ見ていた。


 と、その時。背中を思いっきり平手で押された。


「いっ!何するん…」


 振り向いたらそこにいたのは。


「ほら言わんこっちゃないやんか!1週間後って言うてたのに、来るどころか、連絡もよこさん。どないなってんねんな」


 懐かしい関西弁だ。


「えっ!えっ!てか、サトコちゃん、仕事は?え、連絡僕もしてなかったけど…サトコちゃんもくれなかったじゃん」


「あほ〜!なんかウチから連絡したら負けたみたいやろ!そんなん男から連絡すんのがフツーやろ」


 思わず吹き出してしまった。お互いに意地張ってたんかい。サトコちゃんのほうが何枚も上手だな。


「おかみさんに言うて少しだけ休みもらったわ。せっかく来たから1泊か2泊くらいはするつもりやけどね。てかお腹すいたわ〜、なんか食べさせて〜な」


「うんうん。ありきたりのものしか食べれないし、天川に比べたらおいしくないかもだけど、食べにいこう。来てくれてありがとうね」


「なんか美味しいステーキが食べたいわ♪高級なやつ!あっ、ウチが今回来たんやから、今度はシンくんが天川に来てや〜」


「うん、わかったよ。絶対行くね」


 

 来てくれてありがとう、サトコちゃん。



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― 新着の感想 ―
お父さんは死んでいるのに軽いですね〜w こういった死生観は、作品が暗くなりすぎないので好きです。 外食でカツ丼はちょっとした贅沢ですよね。 うどん付きとは……カロリーが……。 (^~^;)ゞ 一泊…
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