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Heart〜生まれつき心の声を聞く能力を持った僕は、神様のまねごとで人との絆を紡いでいく〜  作者: くろくまくん


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まったり天川村散歩♪

ついに父親トオルのことを打ち明けるサトコ。そして、色々な思いをシンに話す。


星空を思い出し、サトコのことを思い、天川を思うシン。

 帰ってきて、サトコちゃんの働いている旅館の従業員用の部屋で、布団をしいて寝ころんだ。


 サトコちゃんに見せてもらった満天の星空が強烈で、なんだか寝ころんでいる間も、ずっと星空の中で浮かんでふわふわしているような、そういうイメージだった。


 今まで食べるものだったり、飲むもの、水とかってそんなに意識ってしたことなかったんだけど、あ、健康とかってことね。天川村に来てから口にした、お水、アイス、うどん、お魚、ごはん、色々なものが、なんだか僕の体の中ですんなり浸透していくっていうか。これは僕の思い込みもあるかもしれないけども、なんか体が浄化されてるような、そういう感覚があった。


 小さな頃から両親や、まわりにいる人間の、心の声をずっと長い間聞いてきた。前にも話したように成長するにつれ、ある程度心の声のボリュームは調整できるようにはなっていったんだけど、それでもゼロになることはない。楽しいこと、嬉しいこと、喜んでいること、好きなこと、愛してること、正の感情の時はいいんだけど、この世の中、心に閉まっている感情は負の感情のほうが多いみたいで、苦しい、辛い、憎い、嫌い、うらやましい、おとしめたい、いなくなりたい、死にたい…それはまるで、洪水のような、負の感情に飲み込まれそうになりながら、びくびくしながら、生きてきた。


 もう死んでしまったけども、自分の両親とでさえも、一緒に住むのが辛くて出てきたくらいだ。それは後になって、アルバムの声を聞くことができたおかげで、お互いのすれ違いもあったことに気付いたんだけどね。


 いつからか僕の体の中、いや心の中は、どす黒いヘドロみたいなものが。ひとつ、またひとつと溜まっていって、そのうち自分が汚れていても、気づかないくらいに当たり前のようにヘドロにまみれて生活していた。


 去年の秋にサヤちゃんとたまたま再会して、実はサヤちゃんと再会する前から出会っていた、お父さんのサトシにも再会して、サヤちゃんの後輩のコウヘイくんや、ストーカーに追われていたユキちゃん、あとは便利屋をはじめてから出会ったタケばあちゃん。サヤちゃんと出会えてからの僕は、出会えたみんなの優しさのおかげで、少しずつ、少しずつそのヘドロがはがされていって、今まで息苦しかったのが、少し息をするのが楽になってきたんだ。あと、感情が前よりも出せるようになった気がする。


 サヤちゃんに。そして、みんなに感謝しないと。


 ここに、天川村に来れてよかったな。タケばあちゃんの息子のトオルさんには会えなかったけど、その娘のサトコちゃんに出会えた。サトコちゃんも色々な葛藤を抱えて、辛さを抱えて生きてきたんだろうな。僕なんかが立ち入ることじゃないんだろうけど、もしできれば、タケばあちゃんとサトコちゃんを会わせてあげれたらいいな。


 なんか色んなことをぐるぐる考えてるうちに、眠ってしまっていた。




◆◆◆◆◆◆◆




 ん…なんか少し重い…


 目をあけると、サトコちゃんが僕の寝ころんでいる上に座っていた。これどういう状況?


「よー寝れたんかな?ウチもうぼちぼち仕事はいるし、あまり構ってあげれへんけど大丈夫?」


 座ってることを気にすることなく、普通に話しかけてくるサトコちゃん。


「あぁおはよう。うん、なんかすっごくぐっすり寝れたと思う。もう仕事はいるんだね、頑張ってね。あ、昨日はありがとうね」


 サトコちゃんが満面の笑みで答えてくれる。


「ウチも楽しかったで〜。あ、昨日言うてたけど、夕方17時くらいになったら上がらせてもらうから、その時間くらいになったら、またこの旅館まできてくれへん?」


「うんうん、わかったよ。もうそんなに行くところもないかもだけど、昨日行った温泉にもう1回入ってこようかな」


「あっ、温泉のほうに行くんやったら、あの近くらへんに、天河テンカワ神社っていう格式高い神社があるからいってみ。なんか正式名はもっと長ったらしい名前なんやけどな、神様に呼ばれた人しか参拝できないっていう、言い伝えのとこやで。あ、言うてるだけで普通に入れるけどな」


 普通に入れるんかい。


「へぇ〜、せっかくだから行ってみようかな。ありがとうね」


「うんうん、ほないってくるで〜。はいっ、シンくん」


 サトコちゃんが僕からおりて、手を広げている。なんのポーズかな。


「シンくんは鈍感やなぁ〜、そんなんやったらモテへんで。ハグやんハグ!はいっ」


 完全に仕切るタイプだな〜、まぁそういうところもかわいいな、って思ってしまう僕が情けない。

軽くハグして頭をぽんぽんとした。


「鈍感と思ったらそういうとこはなんかツボついてくるやんなぁ〜、ウチ頭そうやってされんの弱いんやけど〜」


「なんかぽんぽんしやすい頭だったからね〜」


 笑いながらサトコちゃんが部屋を出ていった。


 部屋を軽く片付けてから、おかみさんに、帰るまでのお土産とかの荷物だけそのまま部屋に置いといてもらうようにお願いと、泊めてもらったお礼をして旅館を出た。


 スマホのナビで調べると、昨日連れてってもらった温泉は天の川温泉というところみたいで、サトコちゃんが教えてくれたように、その温泉のすぐ近くに天河神社はあった。この旅館ははじめに僕が天川村に来た時の降りたバス停からすぐくらいなんだけど、温泉までへの道のりは、昨日はサトコちゃんの車で移動だったから5〜10分だったけど、歩くとなるとまぁまぁ遠い、だいたい40分くらいかな。まぁでもここを出る夕方くらいまで時間はあるし、のんびり歩きながら温泉まで行くことにしようかな。


 天川村は基本的に1本の大きい道が、川沿いにずっと続いている。この川は天の川って言うんだって。星空の天の川と同じ名前なんてなんかロマンチックだよね。それで、その1本の道の道路の左右だったり、たまに川の向こう側に、建物があったり、お店があったり、少し奥まったところに住居が並んでいるといった感じだ。昨日は車でぴゅーっと走ってたからそこまで町並みというか村並みというか、ひとつひとつの建物までは見てなかったけど、歩いてみるとだいたい10分置きくらいに小さな商店があったり、定食やさんみたいなご飯屋さんがあったり、住んでる人の少ないこういう村でも、それぞれの生活のことを考えた配置というか、上手く暮らしていけるようになっているんだなぁと感心した。


 天の川温泉に着いてから、温泉に浸かってから何か食べてもよかったんだけど、朝から何も食べてなかったからか、途中めちゃくちゃお腹が空いてきて。小さな定食屋さんがお昼前の早めの時間で開いていたから、そこで腹ごしらえをすることにした。


 うどんとか蕎麦とか、定食、丼物色々あったんだけど、僕はカツ丼にした。昔からカツ丼が好きなのだ。理由はお腹いっぱいになることとか、おいしいってのもあるんだけど、自分で家でカツ丼を作るってなると、結構大変だよね?まずトンカツを作ることからはじめて、ようやくトンカツができたと思ったら、それを更に調理というか、卵とじにするわけだ。他の炒めるだけとか、乗せるだけとか、そういう丼物に比べて、カツ丼は僕の中ではひとつ格上になるわけである。


 そういうわけで、色々見ながらも結局カツ丼を頼んでびっくりした。値段は900円だったからまぁそこそこの値段なんだなーという感じだったんだけど、割と大きめのお盆で出してくれたのを見ると、カツ丼、漬物、冷奴、そしてうどんが付いていた。


 え、普通になんとかセットみたいなボリュームじゃん。メニューにはなんの説明もなくカツ丼とだけ書かれていた。お店の人に聞いてみると、


「カツ丼だけやと腹いっぱいにならんやろ。ごはんって大事やんか。もちろん味の美味しい、不味いもやけど、食べてから、あーお腹いっぱいやなぁ〜って、満足やなぁ〜ってなるんが嬉しいやんか。あ、そやけどじいちゃんばあちゃんとか食べれんくなってきた人にはそれなりの量で調整して作るんやで。どや!多いやろ!まいったか!みたいなんは嫌やからな」


 店主の考えを聞いて、納得したのと、あぁ、商売って、こういうもんなんだなぁって、妙に納得してしまった。来てくれるお客さんを幸せな気持ちにしてあげれたらなって、そういう気持ちでこの店主は毎日おいしいごはんを作ってくれてるんだ。


 カツ丼だけだと…て言ってたけど、カツ丼自体もまぁまぁボリュームあって、全部食べたらお腹いっぱいになってしまった。


「ごちそうさまでした〜、美味しかったです」


「おうきになぁ〜、また来てや〜」


 今まで食べた中で1番おいしいカツ丼だったな。味ももちろんだと思うけど、店主のこころざしにすごく共感してしまった。最近、というかもう何年も前からかもだけど、飲食店に限らず、小売店だったり、サービスを提供するお店の商売のやり方に、疑問を感じていたところだったのだ。


 安いからおトク、量が多いからおトク、いっぱい買ったらおトク、今買ったらおトク、なんだかその商品やサービスそのものよりも、どれだけ安く買ったとか、お得になったとか、そっちのほうに重きを置いてるような商売のやり方が増えていってるような。もちろん高いより安いほうがいいし、まずいより美味しいほうがいい。でも、それだけじゃなくて、気持ちのいい買い物ができたり、何か長く使うものだった場合は、それからの暮らしが快適になったり、という後々の幸せを提供できてるんだろうか、っていう話。


 前にサトシが言ってたような、なんでもデジタルになっていってるけども、結局はアナログなところに人と人の繋がりはあるんじゃないかな。スマホの普及で、ネットの中の世界で、オンラインでつながることがすごく簡単になった。直接面と向かってはできなかったことも、オンラインなら顔をあわさないからできる。もちろんいいところもあるんだろうけど、それ以上に落とし穴があるような気がしてならない。ネットの、オンラインの世界にはまってしまったがために、知らぬ間に犯罪に手を染めてしまった人達もいるかもしれない。


 まぁそう言いながら、僕も便利だからスマホは使っているから、デジタルに支配されてる人間の1人なんだけどね。


そんなことを考えながら歩いていると、ようやく天の川温泉にたどりついた。今日は1人でゆっくり温泉を楽しもう。と言っても熱がりなので、そんなに長くは浸かれないんだけどね。


 露天風呂に入ったり、少し上がって休憩したりを繰り返しながら、1時間くらい温泉を堪能した。昨日少し気になっていた、木の香りの正体は、ヒノキだそうだ。すごく心が落ち着いて穏やかになる感じ。温泉から上がって、お蕎麦屋さんがあったんだけど、さっきのカツ丼でお腹はいっぱいだったので、かわりにサイダーを買って飲んだ。


 めちゃくちゃ美味しい!普通のサイダーなんだけど、やっぱ水が美味しいとこんなに違うのか。たぶんこの2日でかなり天川村に洗脳されてる感が自分でもわかるんだけど、ほんとに全部が素晴らしい。


 このまま昼寝をしててもいいなぁと思ったんだけど、せっかくサトコちゃんが教えてくれたこともあって、温泉の向かいの神社に行ってみることにした。ただ正直に言うと、神社とかお寺とか、どうでもいい、っていうわけじゃないんだけども、そんなには興味はないんだよね。お正月の初詣とか、まぁお葬式とかでも親族の宗派によっての法事をしたりだとかもあるんだけども、なるべくなら関わりたくないなと思うほうだ。


 お参りとか、おみくじも、したい人がしたらいいと思う。ただ、それを他人に強制をするのはどうかと思う。と言いながら、僕もサヤちゃんに誘われたら行くんだろうけどね。


 というわけであまり気乗りはしてないんだけど、少しだけ行ってみることにした。そのあとに、旅館のほうに帰って、昨日も行ったジェラート屋さんに行こう。


 天河神社に着くと、入り口に大きな朱塗りの鳥居が立っていた。そういえばサトコちゃんが、神様に呼ばれた人だけしか入れないって言ってたな。入れない人がいっぱい出たら、神社も大変だな。


 と、鳥居をくぐった瞬間、何か変な感覚があった。

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