シン、天川村へ行く
タケばあちゃんからの依頼で、東京から奈良県の天川村へ、初めての遠出をすることになったシン。
バスの中で眠りから覚めると、大阪キタの中心部だった。
目覚めると、ビルがいっぱいの賑やかな道路を走っていた。眠っている間に、もう大阪についたみたいだ。夜行バスは、大阪の梅田というところに停まる。朝の6時前くらいだったから早いかなと思ったけど、サヤちゃんも早くてもいいからと言ってたし、連絡した。
「しんくん、おはよぉ…着いた〜?」
少し寝ぼけているサヤちゃんの声を聞く。
「サヤちゃんおはよう。うんうん、今着いたとこだよ。まだ会社いく時間には早いしもう少し寝てね」
「うん、うんわかったぁ…おやすみなさい」
サヤちゃんは朝起きるのが苦手だ。でも、それでも心配してくれてるのが嬉しい。
えーと、事前に調べたところでは、大阪からJR環状線に乗って、天王寺駅でおりる。そのあと少し歩いて阿倍野橋という駅から近鉄電車に乗って、下市口駅というところで降りる。そこからバスで40分くらい行くと天川村だ。2時間半くらいで着くのかな、あ、でもその最寄りの駅からのバスが、時間帯によると2時間に1本くらいしかないので、注意しないと。バスの時間のこともあるけども、都会って朝の通勤時間だったり、日中になるとめちゃくちゃ人が多くなりそうだ。そのため、最終の最寄り駅は無理でも今のうちに阿倍野橋駅までは行っとこうかな。
普段電車は乗らないことはないけども、近所の駅を数駅乗るくらいだから、1時間も2時間も乗り継いだりするのは初めての経験である。天王寺駅まではたぶん通勤時間帯はすごく混むんだろうけど、幸いまだ朝早くだったので、電車は空いていた。車内には、朝まで飲んでこれから帰るところなのか、それとも環状線で1週まわって2週目をしてるのか、座席に横になって、完全に寝ている人がいた。まぁそのうち誰か起こしてくれるか。
天王寺について、少し歩き、大阪阿倍野橋から近鉄電車に乗る。前の晩にサヤちゃんの作ってくれたおにぎり弁当は食べたんだけど、お腹が空いてたので、電車に乗る前にコンビニでパンとコーヒーを買った。
近鉄電車は、1本で吉野まで行けるわけじゃなくて、途中橿原神宮というとこで乗り換えて、そこから下市口駅までまた30分くらい電車に乗る。
ここ最近はなんでも相談所のことで毎日仕事や営業や、体あいてるときはさとしの手伝いをしたり、まぁまぁ忙しくしてたから、ぼーっと電車にゆられて移動するなんてなんか久しぶりな気がするな。なんか仕事の依頼で来たのを忘れてしまいそう。
とまぁ、朝ごはんのパンを食べたり、コーヒー飲んだり、のんびり外の景色を眺めたり、途中ウトウトしながら、なんとか下市口駅まで着いた。ここまでおよそ2時間くらいかかった。で、やっぱりというか、はじめにも調べてたはずだったんだけど、駅から天川村まで行くバスが、あまりなかった。今は朝の8時なんだけど、1番早いバスが9時20分だった。んー、結局着くのが10時頃だから、大阪から待ち時間も含めると4時間くらいかかるのか…なかなかの距離だな。
ほんとは車があれば車で行くのが早いし楽なんだろうけども、レンタカー借りても何日滞在するかわかんないし、経費も無駄に使うわけにもいかないもんね。
バスの乗り場だけ確認してから、暇つぶしに少し駅の周りを歩いてみる。駅からまっすぐの道を5分くらいかな?歩いたところに、小さな喫茶店があった。最近はコーヒーを飲むのもマックとか、ドトールとかチェーンを利用するのが多くなったからか、個人でやっている喫茶店にいくことがほとんどなくなった。元々ホットコーヒーが好きなのもあるけども、ちょうどオープンしたところで、コーヒーのいい香りに誘われて、その喫茶店に入った。
「いらっしゃい、どうぞ〜」
優しそうな顔のおじいさんが店主だった。
「あ、えーと。このモーニングセットをください」
コーヒーだけでも良かったんだけど、ついセットを見るとセットにしてしまう。でも、トーストと目玉焼きと、デザートの果物もついて、500円は安い。最近は外食も高くなってるもんね。
「はい、どうぞ。ゆっくりしてね」
「ありがとうございます。9時20分のバスに乗るので、それまで少しゆっくりさせていただきます」
「あ、天川村に行くのかな?あそこはいいとこだよ〜。景色も綺麗だし、水もいい。夜は星もめちゃくちゃ綺麗だよ」
「あっ、そうです。天川村に知り合いを探しに行くんです。いいところなんですね〜、景色楽しんできます」
モーニングセットは美味しかった。コーヒーもちょうど僕好みの、あまり苦くない、すっきりした味だった。こういうこじんまりした喫茶店もたまにはいいな〜、すごく落ち着く。
「天川村に知り合いがいるんだね〜、あそこは人が少ないからたぶんそこに住んでる誰かに聞いたら、だいたいすぐ見つかると思うよ」
「人口すごく少ないんですよね?ネットで調べただけなんですけども」
「うんうん、天川だけじゃないんだけども、このあたりの村はほんと年々、住む人が減ってるよ…すごくいいところなんだけどね。観光で来てくれるお客さんはいても、結局そこに住むっていうわけじゃないから、観光だけの場所、っていう住むこととは別になってしまってるね」
地元で住む人にとって、自分が小さい頃から住んでいたところがさびれていって、なくなってしまうかもというのはどんな気分なんだろうか。僕が去年に散歩で行った、小さい頃に住んでた家のあたりが、全部新しい家に変わってしまっていたり、公園も綺麗になって、面影がなくなってしまった時の寂しさと少し似てるんだろうか。いや、実際はもっと悲しいものに違いない。僕の住んでいたところは新しくなっただけで、無くなったわけじゃない。でも、この近くの村は、村そのものが無くなってしまうという可能性もあるんだ…。
「都会だけでなく、もう少し人がいい具合に分散して、村も賑やかになるといいですね」
「まぁそうだね…元々小さい村だから、あまり多くなりすぎてもキャパを超えてしまうけど、でも今の状態だと人が少なすぎるし、そもそも年寄りばかりだから、子供が産まれない。人口が減る一方だと、新しくよそから来てくれる人がいないと、なかなか厳しいね〜」
「そうですね…あ、そろそろバスの時間だ。ごちそうさまでした、とても美味しかったです」
支払いをして、店を出た。駅に向かうと、ちょうどバスが来たところだった。今のところ順調に村に向かえてる感じだな。バスに乗って、少し時間もあることだし、お腹もいっぱいなので、眠ることにする。




