その日を共に祝う
ユキとサヤとの修羅場の中、
またもやサトシにアドバイスを乞うシン。
シンはサヤと仲直りできるのか。
そして、秘密の会話の内容は…?
そんなわけで土曜日の夕方。僕は早めに仕事を切り上げ、自宅でサヤちゃんの帰りを待っている。
「ただいま〜!あれ、シンくんだけ?」
「サヤちゃんおかえり。あ、うんうん、お父さんとユキちゃんはなんかまだ仕事が残ってるみたいだよ、今日1日おつかれさま」
「あ、そうなんだね〜、シンくんもおつかれさま」
サヤちゃんは、あれからまだ少しぎこちない感じだ。そりゃ仕方ないよね。全部僕のせいだ。
「サヤちゃん、少しだけ2人で話したいんだけどいい?ごめんね、仕事帰ってきて疲れてるのに」
「え、ううん、いいよ〜。話ってなーに?」
「この前のこと、きちんと謝りたくて…」
サヤちゃんの顔が曇る。
「うん。もう…それはいいよ…」
「ううん、きちんと僕の気持ちというか、お互い思ってることを話さないままだと、ダメだと思うんだ」
「シンくんはずるいよね…私そんな話聞きたくないよ。余計に私がみじめになっちゃう…」
「サヤちゃん、たぶん…というかきっと。あの時のことサヤちゃん誤解してると思うんだよ。あの時マックで休憩してたのは、仕事中にたまたまユキちゃんと会って、仕事終わりに少し休憩しよっか、ってなった流れでモールに行ってただけなんだよ」
サヤちゃんは疑わしげな顔をして言う。
「ふーん…たまたま会って、たまたま行ったモールのマックで、たまたまイチャついてたの?」
「いや、そのことなんだけどね、ユキちゃんにもあのあとちゃんと話したんだけども、妹みたいってサヤちゃんにも言ってたことあったでしょ?それをユキちゃんも、僕とかサヤちゃんのこと、お兄ちゃんお姉ちゃんて感じで思ってくれてるみたいで。その延長の悪ふざけみたいな感じだったみたいなんだ」
「そうなんだ…これからもその悪ふざけは続くの?」
サヤちゃんの返事は厳しい。
「ううん、そんなことはないよ。正直に言うと、ユキちゃんのことかわいいと思ってるし、妹みたいな感じには思う。でも、女の人として恋愛感情というのはないし、これからもそれはないよ。サヤちゃんに嫌な思いさせてごめんね」
「信じれないよ…去年も同じようなこと言ってたのに。シンくんはね、めちゃくちゃ優しいんだ。その優しさが私は好きなんだけど、その優しさが辛くもあるんだよ」
そうだよな…サヤちゃんの言うことももっともだ。
「うん。そうだよね。サヤちゃんにしたら、誰にでも優しく接したり、親しくしたりしたら、嫌な気持ちになるよね」
いや、これは素直な言葉じゃないな。もっと自分に素直にならないと。
「サヤちゃん、少しだけこっちに来てもらってもいい?」
「えっ…」
少し強引にだけど、サヤちゃんを自分のほうに引き寄せて、両手で抱きしめた。
「僕は、サヤちゃんのことを、1番大事に思ってる。ごめんね、嫌な思いさせてしまって。ほんとに悪かったと思ってる」
「うん…」
「頼りない僕だけど、まだまだダメなことばかりの僕だけど、すごく尊敬してるサヤちゃんみたいに、僕もちゃんと頑張れたらって思うよ。サヤちゃんに心配かけてばかりにならないように頑張るよ」
「がんばらなくても、いい」
「えっ?」
サヤちゃんの体が震えてる気がした。
「頼りなくても、ダメダメでも、心配かけてばかりでもいい。私のことずっと見てくれるシンくんなら。どんなシンくんでも私は好き」
「うん、うん。ずっと見てる」
「ユキちゃんの方を見ちゃだめ!ほかの女の人も見ちゃダメ!私だけを見ててほしい!私だけを抱きしめてほしい!」
「うん。そうするよ。不安にさせてごめんね。ほんとにごめんね」
サヤちゃんを抱きしめる腕に少し力をこめた。
「私、めちゃくちゃヤキモチ焼きで、すごく嫌な女なの。そのくせ素直になれなくて、シンくんのこと大好きなのに、嫌な言葉を出してしまうの。4日前のあの時も、マック投げつけるだけじゃなくて、ほんとはぶっ飛ばしてやりたかった!」
「うん、うん。ほんとごめんね。嫌だったよね。ぶっ飛ばされても仕方ないよね」
「もう!もっと言い訳してよ!シンくんも怒ってよ!そんな優しくするから、みんなシンくんのこと好きになっちゃうんだよ」
「大丈夫だよ。これからはサヤちゃんのことだけずっと見てるよ。もう誰にも目に入らない。サヤちゃんのことだけ、ずっと大事にするよ」
サヤちゃんが体を震わせて泣いた。サトシが教えてくれた通り、サヤちゃんはとても不器用で、そして、とても一途なんだ。
「サヤちゃん。愛してる」
「シンくん!シンくんシンくんシンくん!」
「なぁに?サヤちゃん」
「私もずっとずっと前からあいしてる」
ずっとずっと前…?再会したのは最近のような。でも、今はそんなことはいい。
「うん、ありがとうねサヤちゃん。大好きだよ。これからも仲良しでいようね」
「うん。ずっと仲良くする」
よし、今だ。携帯でサトシに合図を送る。
「サヤちゃん、あのね、実はサヤちゃんに見せたいものがあって」
「ん…なに?見せたいものって」
部屋の電気を消す。
「えっ、え、どうしたの?急に電気消して」
「ぱぱぱぱーーん!ぱぱぱぱーーん!ぱぱぱぱ、ぱぱぱぱ、ぱぱぱぱ、ぱぱぱぱ」
え、なんか嫌な予感。この歌声はサトシである。
「あーいらーーびゅう〜、ふぉーえーばー♪」
「おいっ!それ結婚式のやつ!」
「まさか、結婚式!!」
僕とサヤちゃんが同時につっこむ。
「あれ、間違えた。じゃあ仕切り直して…はっぴばーすでーい、つ〜ゆ〜♪」
ユキちゃんも出てきた。
「はっぴばーすで〜、とぅー、ゆぅ〜♪」
「えっ!」
僕も加えて、3人で歌う。
「はっぴ、ばーすで〜〜い、でぃあ、サヤちゃ〜〜ん♪はっぴ、ばーすで〜い、つ〜〜ゆ〜〜♪」
暗闇の中、サトシとユキちゃんが、ロウソクの火が灯るバースデーケーキを運んできた。
「パパ!ユキちゃん!」
「はいっ、ロウソクふーして、ふぅ〜して!」
びっくりしながらも、サヤちゃんがロウソクの火に息を吹きかける。
「サヤちゃん、誕生日おめでと〜!!」
「えっ、えっ、これってはじめからみんなで計画してたの??めちゃびっくりしたよ〜」
「うん、そうだよサヤちゃん。あ、でもお父さんの歌は、完全にアドリブだと思う。結婚式はちょっと早まりすぎだよね」
「いやぁ、なんかサヤが結婚して、シンくんと一緒になる夢をみてしまってね〜、自然に歌がそれになってしまったみたいなんだよ」
「お父さん、完全にワザとでしたよね」
「あはは。でも、嬉しいよ、なんか誕生日のお祝いなんて久しぶりな気がする。てか、シンくんずるーい!こんなサプライズあるなら先に言ってくれたらよかったのに〜」
「いやいや、先に言っちゃうとサプライズにならないでしょ。それにね。サヤちゃんと2人でしっかり話してからにしたかったんだ。2人できっちり話して、ちゃんと仲直りしてから、お祝いしたいです、ってお父さんにお願いしてたんだよ」
「シンくん…大好き!」
「あ、えーと、これ大したもんじゃないんだけどね、サヤちゃんにプレゼントだよ」
小さな包みを渡す。
「えっ!プレゼント!?ありがとう…わぁっ、かわいいピアス♪」
小さなハートの形に、石がはめ込まれたピアスだった。
「うんうん、サヤちゃんに似合うかなと思って、一生懸命選んだよ」
「ありがとう!ありがとう、シンくん」
ユキちゃんがもじもじしながら言う。
「サヤちゃん今回はごめんね、私、ただ妹みたいに甘えたかっただけなの。サヤちゃんのこと傷つけちゃって、私最低だよね…ごめんなさい!」
「ううん、ユキちゃん大丈夫だよ。私もユキちゃんの立場なら同じことしてたかもだもん…あっ、でもね」
「うん」
「私、ユキちゃんより年上だし、賢くないし、要領も良くないし、ワガママだし、可愛げないし、ダメダメなんだけど…」
「ううん、ううん…」
「それでもね、シンくんはユキちゃんには渡しませーん!私専用のシンくんなので、そこんとこよろしくね!」
ユキちゃんが笑顔になる。
「うんっ、ありがとう。うんっ、大丈夫。あっ!でも…私も負けません!」
「なぬっ!」
ユキちゃん、それは今はダメだね〜。
「あー!サヤちゃんもユキちゃんも、さぁみんなでお祝いしようね!ほらほらお父さんも」
「サヤ、ごめんなぁ〜、ほんとはシンくんと2人でお祝いでもいいのかなと思ったんだけど、やっぱりお祝いはみんなで賑やかなほうがいいかなぁと思ってな」
「ううん、パパもありがとうね♪」
よかった。サヤちゃんが喜んでくれてよかった。それにきちんと話せてよかった。みんなで、お祝いできてよかった。
「これからもずっと一緒に暮らせたらいいね」
「うんっ、暮らしたい」
「はいっ、私も暮らしたいです♪」
「えぇ〜、ユキちゃんはどうしよっかな〜!ストーカーされないくらいの年齢になったら、卒業かなぁ〜」
「え〜、サヤちゃん冷たい!私も一緒にいたい〜」
みんなでなるべく長く一緒にいれるように、そうあれるようにがんばろう。僕にできることは少ないけども、できるだけがんばろう。それがみんなへの僕からの恩返しだから。




