シンとユキと父と母
いきなりのユキのカミングアウトに戸惑うシン。
なぜこのタイミングなのか、
人と繋がることの幸せを感じ始めていたシンは、
どうなっていくのか。
ユキちゃんのお母さんと、僕のお父さんが不倫して、ユキちゃんが産まれた?
その事実をユキちゃんはどうして知ったんだろう。
元々知っていたのか、それとも最近知ったのか。
「急に言われても困りますよねー。私もまだあまり信じれてないんですよ。あっ、シンくんお仕事中にごめんなさい。あの、もしよかったら今日の仕事が終わったらどこかで会えませんか?」
「う、うん。わかったよ。僕も色々聞きたいし。今からこの犬を連れていったりして、17時くらいには終わると思うよ。また連絡するね」
「わかりました。場所はモールのマックでいいですか?」
「わかったよ。じゃあまたね」
ひとまず依頼の方を終わらせなくては。ウメさんちにコロンを連れていくと、とても喜んでいた。その場で支払いをしてもらい、また何かあったらお願いしますと伝え、家を出てきた。
◇◇
マックは今日2度目だけども、仕方ない。また向かう。ユキちゃんも今日はサトシの手伝いはあまりなかったらしく、先に来ていた。普段と変わらない笑顔で手を振ってくれた。
「シンくんおつかれさまです。すみません、忙しいのに」
「ううん、全然大丈夫だよ、言ってもまだチラシ配りしかほとんどしてないし」
「あ、さっき話してたことなんですけどね。なぜ私がそんなことを知ったのか、って思ったでしょ?」
うんうん、それが確かに気になる。
「前に引っ越しをしたときに、箱に詰めたりしながら荷物も整理したりしてたんです。その時にお母さんの日記帳みたいなのが本の間にはさまってたのが見つかって…」
「日記帳…」
「お父さんがいないっていうのは、私が小さい時から聞いてたんです。でもあまり、詳しいことは教えてくれなくて。私も無理に聞こうとしなかったのもあるんですけどね。その日記帳に、松岡真司ていう人の名前がすごく出てきてて、その人とお付き合いをしてること、その人は結婚していて、子供もいることも書いてたんです」
その子供が僕…
「ユキちゃん…僕は…」
「あ、お母さんの日記が完全に妄想っていうこともあるかもですけどね。それに…私、このことで何かをしようとかじゃないんです」
「え?」
「私、シンくんのお父さんのことも責めるつもりないし、お母さんのことも責めるつもりない。なんていうか、親同士が勝手にしてることを、子供たちが悔やんだり気を使ったり、責めたり、恨んだり、ふりまわされるってなんかおかしくないですか?」
「まぁ、そう言われればそうなんだけど。僕もそうだけど、ユキちゃんも今立派に1人で生活をしてるもんね。僕の場合いろんな人に助けてもらいっぱなしだけども」
「私もそうですよー。いろんな人に助けてもらって生きています。シンくんに助けてもらってなかったら今頃どうなってたか…もちろんサヤちゃんやお父さんにも」
ユキちゃんは僕よりもだいぶ年下なのに随分大人だ。お母さんと2人暮らしだったのとか、中学の時くらいにお母さんを亡くしてるのもあるのだろうか。
「あ、それにね。親をたとえ恨んだところで、もう死んでしまってるんだから仕方ないですよね。むしろ言い方は悪いかもしれないけど、悪いことをした報いを受けたんじゃないですか」
「まぁそう言われるとそうかもだけど…僕はそのことを聞いて内心複雑なんだけど、ユキちゃんはなんともない?」
「うん…ちょっと変かもしれないんですけどね、シンくんのこと、助けてもらって仲良くしてる時も、なんだかお兄ちゃんって感じで思ってて。このことを知って、逆にしっくりきたっていうか」
「あっ、それ実は僕も元々思ってたんだよ。サヤちゃんと2人で話してる時も、ユキちゃんのこと話す時、妹みたいな感じに思ってて、って」
「シン兄ちゃん♪」
「え、その呼び方はちょっと違和感あるかも」
「えへへ…シンくんにお願いがあるんです」
お願いってなんだろ。マックで向かい合わせにすわっていたユキちゃんが、僕の隣に移動してきた。
「私、今までもお母さんと2人だったし、お母さんが死んだあとはずっと1人で。元々要領いいというか、変なところお利口さんにするのが上手いから、今までもなんとか生きてこれたんです」
「うん、大変だったよね…ユキちゃんが賢くて機転のきく、いい子なのは知ってるよ」
「親のこととか、シンくんとのこととか、私これからも誰にも言うつもりないし、シンくんにも迷惑をかけるつもりない。ただ…」
ユキちゃんが僕の肩に自分の頭をあずけてきた。
「たまにでいいから、こうやってお兄ちゃんに甘えたい」
「え…」
お兄ちゃんって妹にこうやって甘えられるもんなのか…ちょっとわからないんだけど、僕も嫌な気分ではない気もする。
「甘えていい?シン兄ちゃん」
「う、うん。いいよ」
「やった〜♪」
ユキちゃんが横から僕に抱きついてきた。ふと、視線を感じた。
「へぇ〜、2人とも頑張って仕事してると思ったら、こういうことだったんだ…」
そこにいたのはサヤちゃんだった。




