あの三角公園で
相談所をはじめて、全く依頼が来ないシンに対して、説教をするサトシ。
それに対してシンは反省し、今まで自分で考え、行動をしてこなかったことに、すべてのことを周りのせいばかりにしていたことに気づく。
「なんでも相談所です、便利屋をやってます!最近はじめたばかりなんですけど、よろしくお願いします!」
‐なんでも相談所?えー、なんか怪しげー
「掃除、洗濯、片付けもやります、なんでも相談所です!あ、チラシどうぞ、よろしくお願いします!」
‐イケメンそうだけど、なんか知らない人を家にあげるのって、怖いよねー
商店街を何回も往復したり、一戸建てが並ぶ住宅地を一軒一軒まわって宣伝をしたり、留守のお家にはチラシをいれた。
1日目は収穫なしだった。
2日目もなし。
3日目。
「ちょっとそこのあんた!朝のゴミ出しって頼めたりするんかい?」
はじめて声をかけられた。
「あっ、はいっ大丈夫ですよ。どういう内容ですか?」
そのおばあちゃんが住んでいる地域は、ゴミ出しの時間がすごく厳しいらしく、前の日の晩とかに出すとペナルティがかかるらしい。ただ、朝の8時までにその指定場所に出すとなると、起きるのが辛いのと、出しにいくのも大変なんだそうだ。週2回の生ゴミの日に、家の庭に置いとくゴミを、朝の7時〜8時までに指定場所に出しておいてほしいという依頼だった。簡単な依頼なので1時間1000円。最低30分からになるので週2回で1000円。4週で4000円になる。
「結構お金とるんだね〜、まぁいいや。前金でいいのかい?」
「いえ、特に経費かかる内容じゃないので、仕事をしたあとで、毎回は細かくて大変でしたら、月末にその月の分を頂くことにしましょうか?」
「おっけー、わかったよ、じゃあ明日からさっそくしとくれ」
「わかりました、住所はここですね…明日の朝からうかがいますね」
ようやく初依頼だ!ただ…冷静に考えると、こういう単純な上に飛び飛びの継続した依頼って、この仕事だけって考えると、効率がエグいくらい悪い。
でも、まずは第一歩だ。しかも、この仕事はおばあちゃんの役に立っている。きっと、何事も小さなことからコツコツとやっていくことが大事なんだと思う。それを積み重ねていくことで、住人の信頼を得ることができたり、仕事もきっと増えてくるはずだ。
4日目。
ばあちゃんの家にゴミを取りにいき、指定場所に出す。この時点で500円の売り上げが発生した。考えようによったら割はいいのか。たとえば、こういう仕事を複数受けるっていう手もあるかもしれないな。新聞配達みたいな感じで。
チラシ配り中に、昨日のばあちゃんが歩いていた。
「おー、あんた!今朝はありがとうね。次は木曜日だから3日後の朝だからよろしくね〜」
「はいっ、ありがとうございます」
「あ、そういえば、うちの3軒となりのウメさんちの犬がね、いなくなったって言って騒いでたよ。犬探しとかもできるんかいな?」
いぬー!犬…は小さい時に、僕のばあちゃんちに連れていかれたときに、飼ってた犬がはしゃいでじゃれて来た時に、山の斜面から転がり落ちたトラウマがあって、犬はとても苦手だ…んーでも、そんなこと言ってられないよな…
「ちょっとわかりませんけど、一度聞きに行ってみましょうか?少ししたら行ってみます」
「うんうん、私からも兄ちゃんに頼んでみたらって言ってたんだよ。行ってみな〜」
「ありがとうございます」
お昼すぎくらいになったが、ばあちゃんからの紹介のウメさんの家に行ってみる。
「ごめんくださーい。シンのなんでも相談所でーす」
「おばあちゃーん、なんか誰か来てるよ〜」
なんか中でぶつぶつ聞こえてきたあと、声の主の小学生くらいの女の子が出てきた。
「ばあちゃんがかわりに出てくれって。お兄さんどうしたの?」
「あ、なんでも相談所なんだけどね、飼っていた犬がいなくなった、って聞いて、きたんだけど…」
「あっ、コロンちゃん探してくれるの?」
「うんうん、ただ仕事だからお金はいるんだけどね…おばあちゃんは家の奥かな?」
「うんっ、そうだよー、お金払ったらコロン探してくれるみたい、って言ってくるね」
「うんうん、ごめんね〜」
ウメさんは足腰が悪いらしく、結局女の子が橋渡しをしてくれて、何度かやり取りをしたのち、犬のコロンを探す依頼を受けることにした。ひとまず今から日が沈む19時までの間、5時間の契約だ。それまでに見つかればそれまでの分、その間に見つからなかった場合、また相談ということになった。
「コロンちゃんの写真ってあるかな?」
名前からしてきっと小さいかわいらしい子犬に違いない。それならなんとか大丈夫かもしれない。
「これがコロンだよ〜」
コロンに女の子がまたがっていた。めちゃくちゃ大型犬じゃん!なんでこんな大きい犬にそんな可愛い名前つけたの!
「あ、あぁ…かわいい犬だねー」
これも仕事だ…仕方ない。写真を受け取り、人の多い商店街を歩きながら、聞き込みをしながら探すことにした。
1時間ほど、聞き込みをしたが、まったく成果がない。てか、そもそもこんな大型犬って、見かけたらわかるよね。めちゃ目立つよね。そんな犬が急にいなくなった、ってことは街中じゃないかもねー。
んー、いきなり手詰まりだ。やみくもに探しても、どうしようもないし。少し飲み物でも飲みながら考えるか。前にユキちゃんをストーカーから救った時に行った、モールのフードコートのマックで飲み物を買った。今日はホットコーヒーにした。
コロンの写真を見る。んー、この写真から、せめて犬の声とか聞けたらいいんだけどな〜、さすがに犬の声は無理かな〜。写真を手に、コロンの写ってるとこあたりをさすってみたりした。
‐クゥーン…クゥーン…
おっ、聞こえた。これって、今のリアルタイムのコロンの鳴き声かな?
『おーい!コロン!どこにいるんだー?』
聞こえるかはわからないけど、コロンの鳴き声に対して、返事を返してみる。
‐クゥ?ワンッ!ワンワンッ!
返事がきた。これがリアルタイムなら、コロンの場所を割り出せるな…試してみよう。コロンの心の鳴き声をたどってみると、場所は前に行った、僕の小さいころに住んでた家の近くの公園だった。
「おーい!コロン!」
「ワンッ!ワンワンッ!」
僕は全然コロンと初対面なんだけど、なんだか名前を呼ばれて嬉しかったみたいで、コロンがこっちに駆けてきた。コロン、もう少しゆっくり走るんだ!怖いから!
「よしよし、コロンよかったな〜見つかって」
今16時くらいだから実質2時間くらいで見つかったんだけど、この努力を考えるともう少しくらいは時間稼いでもいいよね。と、その時。
「シンくん、どうしたんですか?こんなところで」
なぜか、三角公園にユキちゃんが来ていた。
「あっ、ユキちゃんすごい偶然だね〜。今これ仕事中なんだ。犬探しの依頼受けてて、今ちょうど見つかったとこなんだ」
「そうなんですね、よかったですね〜!仕事がいくつか入ってきてて」
「そうなんだよ。まだ全然で、今日の依頼もゴミ出しを依頼してくれたばあちゃんが、たまたま近所の人に聞いてくれて受けたっていう偶然の仕事なんだけどね。そういえば、ユキちゃんは何してるの?」
なんとなくだけど、ユキちゃんの様子が少しだけいつもと違う気がしたんだ。
「んー、このあたりって、私、小学生の頃通ってたところなんで、公園も改装して全然変わってしまったんですけど、たまに来たりするんですよ」
「あ、そういえば初めて会った時も言ってたね。僕も前に散歩しながら寄った時は、あまりにも昔の面影なくなって過ぎて、ちょっとがっかりしたよ〜、あのでかい鉄塔くらいかな、残ってるの」
「そうですね、あ、シンくん。唐突なんですけどね」
「うんうん、どうしたの?」
「松岡 真司。って、知ってますか?」
え。ユキちゃんが、なぜその名前を知ってるのかわからなかった。どういうことだ。
「え、知ってるも何も…松岡 真司は、僕の父親の名前だけど…それがどうしたの?」
「はい、そうみたいですね。私もまだよくわかってなくて、信じられないんですけどね。シンくんのお父さん、松岡真司さんは、だいぶ前のことなんですけど、20年前くらいに、私の母親と不倫をしてたみたいなんです」
「え、えっ。どういうこと?全然よくわからないんだけど…」
次にユキちゃんが言おうとしてることがなんとなく予想はできた。でも、僕はそれを認めたくなかったんだ。だから混乱してるふりをした。
「シンくんも、たぶん予想されてると思うんですけど。私の母は未婚で私を産み、ずっと1人で育ててきたんですけどね。シンくんのお父さんと、私の母親が不倫をして、できた子。それが私みたいなんです」
僕は思った。世の中はこうも残酷なのか。自分の妹のように思っていた、ユキちゃんが。奇しくも腹違いとはいえ、ホントの妹だったとは。僕の父親はなんてことを。
「ユキちゃん…」
僕はそれ以上言葉が出なかった。




