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Heart〜生まれつき心の声を聞く能力を持った僕は、神様のまねごとで人との絆を紡いでいく〜  作者: くろくまくん


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依頼を受けるための努力

年明けに仕事をいきなりクビになったシンは、みんなのアドバイスを聞いたり、考えた結果、なんでも相談所の仕事をすることにした。


上手くいくのだろうか?

 今は2月初旬。ここ数年暖冬とは言っているが、冬はやはり寒い。朝にサトシ(サヤのお父さん)の会社の建物の前の掃除と、会社の中の掃除、トイレ掃除などをする。


 年明けに長らく勤めていた製缶工場をクビになって、先月からさとしの会社のオフィスを間借りさせてもらって、なんでも相談所を始めたのだ。そして、午前中にひととおりやることを終え、お昼ごはんの時までの間、僕はヒマだ。


「おっ、シンくんおつかれ〜!」


「あ、お父さんおつかれさまです」


「シンくん…何してるの?」


「えーと…依頼を待っています」


 もちろん仕事の依頼だ。


「相談所始めてから、依頼って来たっけ?」


 電話は会社の電話でなく、僕の携帯電話にしている。あとはサトシとユキちゃんが、パソコンやスマホで見れる簡単なホームページを作ってくれて、そこから依頼もできるようになっている。


「いえ、来てません」


「1件も?」


「はい」


「まぁそりゃそうだろうけど…。シンくん、営業活動ってわかるかい?」


「えーと、お客さんまわりをしたりとか、っていう感じのですかね…」


「うんうん、それはルート営業というやつだね。元々お客さんがいる場合の、顔見せだとか、なんか困ったことないですかだとか、お願いをしたりだとか、というやつ。お客さんが始めからいない場合はどうすると思う?」


「えーと…ずっと待つか、それか探しにいく…ですかね」


「そうだね。看板やホームページを立てたところで、そこがどんなところかもわからない、評判もない、そんなところにいきなり依頼をしようとは思わないよね。今デジタルの世の中にはなっていってるかもしれないんだけどね、結局人と人との付き合いとかって、アナログなんだよ」


「アナログ…」


「そう。たとえばチラシを作って配り歩く。もしくは商店街だったり、住宅地を一軒一軒まわって、相談所をはじめました、何かあったらよろしくお願いします、と挨拶していく。たぶん、そうやってぼーっとしてる時間はないと思うよ」


「そっか…そうですよね。僕、自分の中でこうしたいああしたい、ってばかり想像を膨らませていて、結局自分で動くことをしていなかったです。まずチラシ…作ってみます!」


 チラシなんて作ったことはない。どう作ったらいいかもわからない。でも、聞きながらでも、少しずつでもしていかないと。


「はい、これ」


「え…」


 サトシが渡してくれたのは、1枚のチラシだった。しかもものすごくよくできている。依頼料の明確な料金だったり、たとえばこんなことを頼みたい、などのできる依頼の内容など、わかりやすく簡潔に、イラスト入りで書かれている。


「これ、作ってくれたんですか?」


「サヤがね。最近夜ふかしして頑張ってたよ。肌が荒れちゃうとかボヤいてたけどね。シンくんは愛されてるね〜」


「サヤちゃんが…知らなかったです」


「シンくん、俺は基本あまり厳しいことは言わないほうなんだけど、ここまでしてもらっててちゃんとできなかったら、恥ずかしいぞー。しばらくは会社のことの手伝いも気にしなくていいからさ。朝から晩まで走り回って、チラシ配って頑張ってきな」


「そうですよね…はいっ!わかりました!」


 僕は甘えていた。今までの仕事もそうだったけど、ただ与えられたこと、言われたことだけをしていただけだったのだ。サヤちゃんは自分の仕事だけでも大変なのに、僕のために睡眠を削ってチラシを作ってくれていた。印刷はお父さんがしてくれたに違いない。誰かのために、人のために、って言ってる僕自身が、1番みんなにしてもらっていたんだ。


 情けないのと、恥ずかしいのと、悔しいのがごちゃ混ぜになったような感情だった。今まで心の声の苦しさを口実に人からなるべく離れた生活を送ってきたことで、自ら自分の生き方を狭めていってたんだ。それをこの能力のせいだの、周りの人間のせいだのにして、言い訳をしてきたんだ。それなのに、みんなはとても優しかった。こんな僕に優しくしてくれたんだ。これからは恩返しをしなきゃ。


 頑張ろう!

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