僕にできること
サトシにアドバイスをもらったシンは、次はサヤとユキにも色々聞いてみることにする。
シンに出来ること、シンがやりたいことは見つかるのか?
「おはようございます!」
「あー、シンくんおはよーさん…あー頭いてぇ」
「シンくんおはよぉ〜!今日からよろしくね♪」
「シンくんおはようございます、頑張ってください」
サトシと、サヤちゃん、ユキちゃん、それぞれの朝の挨拶である。今まで僕の中では、仕事はただお金を稼ぐためだけの手段、それくらいにしか思ってなかった。もちろんそれだけの人も多いと思う。でも、サトシが教えてくれたのはとても大事なことだった。人の役に立つ仕事、人に必要とされること…。まずはじめに、朝、仕事に行く途中のサヤちゃんについて行きながらインタビューをしてみることにした。
「サヤちゃんにとって仕事とはどんなものかな?」
「えー、いきなり言われても〜、んーと、シンくんと結婚するための花嫁修行みたいなものかなぁ〜、なんてね〜!」
「あ、そうなんだね〜、それもいいことだね…あ、じゃあ質問を変えてみよう。サヤちゃんはアートデザイナーの仕事をしながら、どういうことを考えてるかな?」
「んー、そうだね…私のデザインするものって、生活雑貨とか小物、たとえばマグカップとか、コップ、食器みたいなものだったり、タオルとかハンカチとか、生活する時に絶対に目にするもののデザインとかを考えるの」
「へぇ〜、そうなんだね。具体的にどんなことしてるって聞いたことなかったけどそういうデザインをしてるんだね〜。それでそれで?」
「うん、それでね。そういう普段づかいの生活雑貨を使うときに、どういう絵とか模様とか、形とか、こんなだったら嬉しいかな、って。ウキウキワクワクしたりするかな、って。朝のコーヒーを飲む時のマグカップが、可愛かったら、その日1日を楽しく過ごすことができるかなとか。そういうことを考えたりして、デザインするかも」
サヤちゃんは普段、男まさりだったりとか、僕にはすごく甘えてくれたりとか、そういうプライベートの部分しか僕は見えてなかったんだけど、実はものすごくしっかりしてるんだ。今も自分の仕事のことを話すサヤちゃんは、ちゃんと考えを持っていて、素敵だなと感じた。
「サヤちゃんすごいね…ほんとにすごい。雑貨とか小物のデザインって、かわいいとか綺麗とか、色の感じとか、そういうデザインのことだけを考えるものとしか思ってなかったよ。めちゃくちゃ勉強になった、ありがとう」
「えっ、シンくんにそんなこと言われたら照れちゃうな…でも、ありがと。私なんてまだまだだし、苦手なこととかミスもまだ多いけど、頑張るね」
「うん、うん。サヤちゃん仕事行く前にありがとうね。いってらっしゃい、また連絡してね♪」
次はユキちゃんだ。
「こんにちはー、ユキちゃんは今はお父さんの手伝いかもしれないけど、今だけじゃなく、今までのバイトだったりとかで、心がけてたことってあるかな?」
「シンくんこんにちは。えー、そうですね〜。私は割と考えなくてもいいような事を色々考えてしまうたちなんですけどね。たとえばコンビニのバイトの場合だと、たかがバイトなんですけど、お店の雰囲気とか、お客さんがまた来たいなって思うようなこととか、気持ちよく買い物できるような、そういうことを考えたりしてました」
「なるほど〜。具体的に言うとどういうことをしてたの?」
「そうですね。1番は笑顔ですね。お客さんが来店された時や、商品補充中ならすれ違う時、あとはレジで対応する時や、最後にお見送りする時。ぶすっと無愛想に対応されるより、笑顔でいる店員さんのほうが気持ちいいし、感じいいな、また来ようかな、ってなりませんか?」
「うんうん、そりゃなると思う。ユキちゃんかわいいから尚更思う」
「かわいいは嬉しいけどそれは関係ないです。またサヤちゃんに怒られますよ〜。あ、あとは清潔感ですかね。いくら美味しそうなおにぎりとか、スイーツが並んでいても、汚れた棚だったり、什器だったら、触りたくないし、食べ物まで汚くなりそうじゃないですか。通路とか入り口とか、あとゴミ箱周りとかは汚れやすい場所ですね。もちろんトイレもです」
「それはわかる!コンビニに限らず、なにか商品を売ってるデパートとか、スーパーもそうだよね。店員さんの対応もそうだけど、店自体、売り場自体が汚いと、また来たい、ってならないもんね」
「そうなんですよ。あとは、お客さんの目線ですかね〜。なにか探しているかなとか、見てる商品の中でもこれを気に入ってるんじゃないかなとか。陳列の時でも、上に置く、真ん中に置く、下のほうに置く、来られるお客さんの年齢層によっても違うんですけど、商品の置く場所、高さって意外と大事なんですよ」
「そんなことまで考えるんだ!なんかもうプロだね。そりゃユキちゃんの働いてたコンビニは繁盛してたわけだよ。ユキちゃん辞めてしまって、店長困ってなかった?」
「えへへ、プロではないけども、そういうの考えるのは好きです。実は店長さん今でもちょくちょく連絡あって、もう危なくないから戻ってきて、って言われてたりします」
「やっぱりそうだったんだ〜。ユキちゃんありがとう。めちゃ勉強になったよ」
「はいっ、今はお父さんのお手伝いだったり、家事とか炊事を手伝っていますけど、何か参考になるようなことあったら、また伝えますね」
これはホントにすごい。サヤちゃんもユキちゃんもホントにちゃんとしてる。それに今まで気づかなかったんだけど、きめ細かなこともよく考えてたり、気にしてたんだな。なんか、自分が恥ずかしくなってきた…でもね、何か出てきそうな気がするんだよ。僕だからこそできる何かが。
生活の中に喜びを感じれるような何か。
1日が楽しい1日になれるような何か。
笑顔、清潔感、目線…必要なもの。
あっ…もしかしたら…!
サトシを喫茶店に呼び出す。
「シンくんおでんじゃないの〜、シンくんから呼び出しだから、まさかのサプライズお昼呑みかと期待したのに〜」
「いや、仕事中に呑みはダメでしょ。それよりお父さん、すこしひらめいたことがあるので、聞いてほしいんです」
「まぁたまにはコーヒーで渋くいくのもいいかもだねぇ〜。うんうん、なんだいシンくん。あ、マスター、俺ブレンドね」
「あ、僕は温かいカフェオレください。サヤちゃんやユキちゃんに、仕事をしながら考えてることとか、心がけてることを聞いてみたんですよ。当たり前かもしれないですけど、2人ともすごくよく考えてたし、しっかり自分の考えを持っていたんです」
「うんうん、サヤはもちろん昔から知ってるけども、ちょっぴり男の子より強すぎることとか、逆に打たれ弱いときもあるけど、とても優しいし、きめ細かいところに気遣いがあるね。ユキちゃんは、うちに来てからまだ2週間くらいだから、はっきりとはわからないけど、機転が利くし、賢いね。色々なことを考えてるから、俺が何か頼む時でもあまり皆まで言わずにわかってくれる時もあるね」
サトシのブレンドコーヒーと、僕のホットカフェオレが来た。
「僕は努力もせず、甘えていたなと思ったんです。だから、今すぐにこれが出来る!っていう確証はないんですけどね、逆にこれができるっていうことを探すんじゃなくて。なんでもやってみよう、って思うようにしようかなと考えたんです」
「なんでもやってみよう?」
「はい、なんでも屋、便利屋、ってものすごく難しいかもしれないんですけど、ちゃんとできるかもわからないんですけど、やってみようと思うんです」
「ほぉ〜、面白そうだね。まぁ商売としては少し不安定なのと、価格のつけ方は少し難しいかもしれないけども、人の役に立つ、人に頼られる、立派な仕事だと思うよ。いっちょやってみるかい?」
サトシは少しも否定せず、僕の考えを受け入れてくれた。
「はいっ!また色々聞いてもいいですか?」
「わかったよ。商売の仕方もわからないと思うし、看板や、宣伝も必要だと思うからね。お客さんと話するのは、俺の会社のオフィスを使うといい。値段設定とかもなかなか難しいと思うから相談にのるよ」
「ありがとうございます!お父さんのおかげで、色々やってみようと思えるようになりました」
「それで…便利屋の店舗名は何にするかな?」
「あ、実はもう考えてるんですよ。ものすごく単純なんですけどね」
まさか、僕が、便利屋をやることになるとは、思ってもみなかった。でも、今まで生きてきた中で、仕事をしてきた中で、こんなにワクワクしたことは初めてなんだ。
サトシに看板とか、インターネットでの宣伝も作ってもらった。
『シンのなんでも相談所』オープン!




