幸せな新年の始まり
サトシの機転で、どうにかこうにかユキの安全も確保できた。
ユキの引っ越しを2人は手伝うことになり…
その翌日。
前の日の深酒がたたって、お昼すぎまでは家で休んでいた。それから、サヤちゃんと一緒に、ユキちゃんちの片付けと、荷物の箱詰めなどをしにいくことになった。
「ユキちゃん、まぁまぁ荷物ため込む派だよね〜!私びっくりした」
「えっ、そう…かな。これでも片付けてるほうなんだけど…」
ユキちゃんは、モノを捨てれないたちらしい。まぁゴミ屋敷っていうほどじゃないんだけども、本とか、何に使うかわからない置きものとか、とにかく物が多かった。なんとかそれを段ボールに詰め込んで、必要な服とかは別でリュックに詰め替えた。
「じゃあ、とりあえず明日。ていうか年明け、みんなで初詣と、そのあと引っ越しやっちゃおう。パパが軽トラ借りてきてくれるみたいだからね」
「ありがとうサヤちゃん。ほんとに何から何まで助かるよ」
「大丈夫♪友達なんだし困った時は助け合いだよ。私がなにか困った時も相談するし」
「じゃあね、ユキちゃん。よいお年を!」
「はいっ、よいお年を!」
そして、大晦日の夜。
近所の小さい神社に、僕はいた。もうそろそろかな…
「シンくん、こんばんは♪」
「こんばんは、サヤちゃん」
サトシの…いや、お父さんの教育のおかげというか、こういう時の女心というのを、少しはわかるようになってきたかもしれない。
年明けにはみんなで初詣に行くんだけども、年を越すタイミングで、2人で行けたらなぁと、サヤちゃんを誘ってみたんだ。サヤちゃんは照れながらもオッケーしてくれた。
「あっ、シンくん手袋。使ってくれてるんだね。嬉しい…」
「もちろん使ってるよ、めちゃ温かいしすごく重宝してる。サヤちゃんもネックレス似合ってるよ」
クリスマスの時にプレゼントしたネックレスをつけてくれていた。
「うんっ、ありがと」
「じゃあ行こうか」
と、行っても、大きい神社じゃないから、年末年始とはいえ、出店が出てたり、人も多いわけじゃない。でも、それだからここにしたのもある。
新年まであと10分くらいかな。
「あっ、カウントダウンする前に、来年の抱負をお互い言おうよ」
「来年の抱負?急でちょっと思いつかないんだけど…」
「いくつでもいいからさ。順番に言いあおっ。じゃあ私から。健康第一!」
「どんな抱負〜!まぁいいか。みんなが笑顔で過ごせますように」
「抱負と願い事は違うんだよ〜。抱負っていうのは、計画とか決意みたいなそんな感じだよ〜。じゃあ…安全第一!」
「あっ、ずるー!似たようなやつばっかりじゃん!えーと、じゃあ…そばにいる人を大事にする!」
「えー!じゃあ私も!シンくん命!」
「ちょっと。それは少し笑い取りにいってない?あっ、しまった。もう年越してた」
「えー、カウントダウンしたかったのに〜!まぁいいや、3、2、1、はいっ、あけおめ〜!!」
「軽いな〜。はいっ、あけましておめでとう」
サヤちゃんと話していると、いつもなんだけど、あっという間に時間が経っているんだ。たぶん実際のところ時間が早まっているんじゃないかと思う。
「じゃあ、2人だけの初詣にしゅっぱぁーつ!」
「うんうん、すぐそこだけどね」
「さっきのは抱負だったけど、今度はお願いごととか、今年のお礼を神様に言うんだよ」
お願いごととお礼かぁ、もう僕は今の状態が幸せ過ぎて、これ以上お願いはないんだけどな。お礼だけでも言っとくか。
‐ユキちゃんが危ない目にあいませんように。ずっと明るいユキちゃんでいれますように
やっぱりサヤちゃんは優しい。
‐シンくんと再会できてありがとうございます、ホントに感謝してます
お礼と願い事を交互に言ってるのかな?
‐シンくんともっと仲良くできますように、もっと手をつないだり、くっついたり、キスしたり、えーとえーとそれから…
ちょっと…こっちが恥ずかしくなるわ。でも、そういうサヤちゃんが愛おしい。
僕も、偶然とはいえ、サヤちゃんと再会できたこと感謝します。これからどういう未来が待っているかはわからないけども、大変なことがあっても、辛いことがあっても、サヤちゃんのことを笑顔にしてあげれるようにできたらいいな。僕にできることは少ないかもしれない。でも、僕ができるだけのことをしてあげたい。
色々考えていたら、ふと視線を感じたのでサヤちゃんの方を向くと、サヤちゃんが見ていた。
‐だいすき
「僕も、大好きだよ」
サヤちゃんが目を閉じて僕に顔を向ける。
サヤちゃんの柔らかい唇にそっとキスをした。
僕の唇は寒さもあってカサカサなのが恥ずかしくて、すぐ離そうとしたら、サヤちゃんがそれを止めた。
「ん…もう少し」
「うん…」
そんなサヤちゃんが愛しくて、両手で抱きしめた。そしたら、サヤちゃんも僕に手をまわしてくっついてくれた。
‐シンくん、あいしてる
ありがとう、僕もだよ。
「おぉっ!こんな新年早々アツアツだねぇ〜!!」
え。
「えっ、パパっ!どうしたのこんな夜中に?」
サヤちゃんのお父さんだった。
「パパ寂しいな〜、起きたらお酒もないし、サヤもいないし、お酒買いにコンビニに行こうとしたら、イチャイチャしてるカップルみっけたから、誰かと思ったら、サヤとシンくんじゃないか〜、パパも誘ってよ〜」
サトシ〜!!これは女心わかってないんじゃないか〜。今度おでん食べながらお説教だな。
「お父さんまだ酔ってます?危ないんで一緒に買い物いきましょか」
「もぉ、パパのバカー!せっかくいいところだったのに!」
「サヤが大人になるのは嬉しいんだけど、パパ寂しいっ!シンくん、サヤを独り占めしちゃダメだよっ」
完全な酔っ払いである。
「はいはい、一緒にコンビニ行って、帰りましょうね〜」
「さぁ、帰ったら飲み直しだ〜!シンくんも付き合ってね〜。じゃあみなさんご一緒に」
「「「ハッピーニューイヤー!!」」」
とても幸せな新年の始まり。
今まで僕が生きてきたなかで、こんな新年はなかった気がする。
とてもとても幸せな新年の休み明けに…
僕は、仕事をクビになった。




