雪が降る前に
サヤの父親のサトシに、屋台でおでんをつつきながら、女心を教えてもらったシン。
さて、シンは初めてのクリスマスデートを成功させることができるのでしょうか。
クリスマスイブの夜は、サヤちゃんと2人で過ごしたいことをサヤちゃんに伝えた。そして、ユキちゃんにもこっそり秘密でというのは嫌だったので、素直に伝えることにした。ユキちゃんは快く了解してくれて、そのかわり違う日にみんなでチキンを食べる約束をした。
そして、当日。
「わぁ〜、めちゃオシャレなお店!こんな隠れ家的なとこあったんだね〜♪シンくんもなかなかやるじゃん、このこの〜!」
サヤちゃんにヒジでつつかれながら入ったお店は、もちろん、心の声情報をフルに活用して、調べたお店である。こういう時はものすごく重宝するな、心の声。ささやかなんだけども、高級とまでは行かないけど、一応クリスマス用のコース料理を出してくれるお店を選んだ。せっかくだからね。
「こんなちゃんとしたコース料理って、食べるのはじめてかも。なんか緊張してきたよ」
「あ、大丈夫だよ。一応フランス料理のフルコースなんだけども、必要ならお箸も出してくれるし、気楽にくつろぎながら食べてくださいね、っていう触れ込みだから、大丈夫」
という、前情報なのだ。
「なんかシンくんが、いつもより大人に見える!頼りがいある〜」
簡単なコース料理だったんだけど、1つ1つの料理が味も濃すぎず、丁寧に作られている感じで、とても美味しくいただいた。
そして、食後。
「こちら、クリスマスケーキでございます」
わざとケーキのことは言ってなかったんだけど、事前にお店に、デザートのかわりにケーキを出してくれるように頼んでおいたんだ。クリスマスケーキに立てたロウソクに火をつけてくれた。
「わぁ…すごーい!」
お店の人が、僕らの席の周りの照明をわざと少し暗く調整してくれた。ナイス店員さん!
「サヤちゃん、じゃあ一緒に火を消そうね。せーのっ」
「「メリークリスマス!!」」
そして、照明が戻る。
「サヤちゃん。はいっ、これプレゼント」
「えっ!シンくん、プレゼントなんて全然言ってなかったのに!」
「え、だってサプライズだから。これ、気に入るかわかんないけども…」
プレゼントの中身はネックレス。サヤちゃんは服もオシャレだけど、たまにネックレスをしたり、ピアスを付けたり、アクセサリーが好きそうかなと思って。サヤちゃんがとても嬉しそうな顔で、少し涙がにじんでる気がした。
ナイスサトシ!今度おでんごちそうします!
「あ、シンくん。実は私も…」
サヤちゃんが、カバンからプレゼント包装された袋を取り出した。
「サプライズ返しだよ〜。シンくん、メリークリスマス♪」
「ありがとう、サヤちゃん。すごくびっくりした!あけていい?」
「うんうん、ちょうど今の時期に使うものだから開けて」
包みの中には温かそうな手袋が入っていた。
「シンくんたしか手袋持ってなかったでしょ?仕事の行き帰り、20分くらい歩くから、手袋あったほうがあったかいかなーと思って」
「うわー、ありがとう!めちゃくちゃ嬉しいよ」
「よかった、喜んでくれて。私もすごく嬉しい。綺麗なネックレス♪」
ケーキを食べて、お腹いっぱいになった。時間も遅くなったし、ゆっくり歩きながらサヤちゃんを送ることにした。
「シンくん、今日はホントにありがとうね。すごく嬉しい。私いつもワガママ言ってしまってないかなって、気にしてて。女の子っぽくなくてごめんね」
「ううん、僕こそサヤちゃんの気持ちわかってあげれてない時もあったかもしれない。サヤちゃんが素直に僕に気持ち伝えてくれるの、僕はすごく嬉しいよ」
「ユキちゃんさ、めちゃかわいいじゃん。それに歳も若いし。シンくんはみんなに優しいし、もちろん誰でもってことはないことはわかってるんだけど。仲良しのユキちゃんと一緒に遊んでて、それでもシンくんがユキちゃんに優しくしてると、ちょっとヤキモチやいちゃってたんだ」
「ううん、ううん、僕こそごめんね。ユキちゃんはどっちかというと妹みたいな感覚なのかなーと思う。たぶんサヤちゃんも同じような感じじゃないかな?でもね、サヤちゃんは僕にとって…」
「僕にとって?」
「とても大切な人だよ。大好きだよ。」
「ありがとう、私もだいすき」
「サヤちゃんと再会できて、こうやって仲良くできて、僕はすごく幸せだよ。まだお互い知らないこともあるかもしれないけども、サヤちゃんのこと、いっぱい知りたいな、って思うんだ」
サヤちゃんが少し顔を赤くしている。
「あ、あ、知りたいって、その。好きなものとかね。音楽とかね。色々あるよね…」
「シンくん…」
サヤちゃんが、立ち止まってこっちを向いた。そして、ふと目を閉じた。
僕は目を閉じたサヤちゃんにそっと口づけした。
なんていうか。あまりこういう時どうしたらとかはわからないんだけど、なんかその時は自然にそうしたいな、って思ったんだ。
唇を離して、サヤちゃんを見ると、サヤちゃんはいつもより女らしいと言うか、すごく色っぽい顔をしていた。
「シンくん…私、今日は帰りたくない」
え、え、帰りたくないっていうことは、どうするのかな。泊まるっていうことなのかな。これはちょっと、これ以上のことは情報不足だ。
「う、うん…」
その時、静かな街を走り抜ける、救急車のサイレンの音がした。
「わっ!びっくりしたー。こんなイブの日に事故とか嫌だよね…」
その時、なぜか、嫌な予感がしたんだ。
サヤちゃんのスマホの呼び出し音が鳴る。ユキちゃんのバイトの迎えを持ち回りで頼んでいた、夜勤をしてるサヤちゃんの後輩だった。
「もしもし?どうしたの?えっ!ユキちゃんが!?大丈夫なの?…うん。うん。わかった。とりあえず私も向かうわ。今シンくんと一緒だから。うんうん、大丈夫。ありがとうね」
「サヤちゃん?ユキちゃんに何かあったの…?」
「ユキちゃんが、ストーカーに刺された」
その時ちょうど、この冬初めての、雪が降ってきたんだ。




