クリスマスの憂鬱
心の声の力で、ストーカーからユキを助け出すシン。
そのあと合流したサヤと共に、ユキをストーカーから守る方法を考える。
ユキちゃんをストーカーから助け出したあと、今後のストーカー対策のため、サヤちゃんとユキちゃんと僕の3人で具体的にどうするかを話し合った。
ユキちゃんのコンビニでのシフトは、入ってる時はだいたいが朝の6時から15時までの勤務らしく、曜日はほぼ固定で火木土の週3回だった。僕の休みはお盆と年末年始以外は月木が休みなので、木曜日は僕がユキちゃんの仕事上がりに迎えにいくことになった。
サヤちゃんは基本的に土日祝が休みみたいなんだけど、仕事の日でもアートデザイナーとしての仕事として、外に出ることや、割と自由度の高い仕事らしい。現に僕がユキちゃんを助けた今日も木曜日なんだけど、仕事のはずなのにショッピングモールのフードコートに現れている。
というわけで、サヤちゃんは一応土曜日が担当だけども、平日の火木でも外にいる時なら、様子見にはこれるという感じ。火曜日に関しては、サヤちゃんが言っていた、サヤちゃんの友達の基本夜勤の仕事をしてる人に、頼むことになった。
まぁでも、実際みんなで気にして迎えに行くようになってからは、ストーカーの男もはじめは現れていたが、こちらが警戒しているのを察知したのか、徐々にコンビニに来ること自体少なくなってきて、12月に入った頃には、もうすっかり来なくなってしまった。
ああいう人間は、自分より弱い人には強く出たり、支配しようと大きく出たりするが、強いものや、大勢の人間に対しては、途端に弱くなってしまうことがある。とりあえず作戦成功という感じ。
ストーカーの護衛という名目ではあったけど、今までは仕事して、お風呂に入って、ごはん食べて、寝るだけという、ほんとに何もない日常を過ごしてきただけの僕にしたら、毎日が新鮮だった。あ、ユキちゃんのコンビニに行くのは木曜日だけだけど、サヤちゃんとはちょくちょく連絡を取り合ったり、仕事終わりにごはんを食べに行ったりした。
サヤちゃんは、あの人の良さそうなお父さんも言ってたけども、かわいい顔をしてるんだけど、男まさりというか、気が強いというか、まぁ思ったことをはっきり言う性格だ。でもとても優しい心を持っている。それに僕にとったら思ってることをそのまま言ってくれるほうがいい。なぜかというと、聞いてる言葉と、心の声がちぐはぐだった場合、すごく混乱するし、なんか気持ち悪くなってしまうからだ。
僕の場合はあまり普段人と関わらないようにしてるから、そういう対話も少ないんだけど、表面だけの言葉だったり、社交辞令だとか、心にもないことを言う人は多い。それが続くと、とても気持ちが沈んでしまう。そういう心の声をたくさん聞いてしまうと、僕自身が言葉を発する時は、とても考えてしまうんだ。なので、自然と口数が少なくなってくる。
でも、サヤちゃんと再会してからは、なんだか自然な感じでいられてる気がする。すこーし照れくさくなるというか、恥ずかしくなってしまうのは、サヤちゃんは僕に対する好意をすごく出してくれる。だいすき、ってサヤちゃんが言ってくれて、それと同時に心の声も、
‐だいすきだよ
って言ってくれてる。言葉ってホントに大事なことなんだなって思う。言わなくてもわかるとか、目と目で通じ合うとか、もちろんそういうこともあるのかもしれない。でも、やっぱり人を想う気持ちっていうのは、直接の言葉だったり、行動で示すのが良いと思う。
僕と両親の場合もそうだったと思うんだ。僕自身が親に疎まれていると思って、自分から離れていって、親は親で、僕が相談してくれなかったり、話をしてくれなかったことを気に病んでいた。死んでしまったあとに、僕だけは一方的に親の気持ちを知ることができたけど、親はどうだったんだろう。辛かったんじゃないだろうか。
だから、というわけじゃないんだけど、自分の周りにいる大切な人達には、言いにくかったり、照れくさくても、はっきり気持ちを言葉にして、伝えていこうと思うんだ。
「で?クリスマスはどうするの!?」
「えっ?は、はい…」
サヤちゃんに問い詰められている僕。なんでこうなったかというと、クリスマスイブの過ごし方についての話をサヤちゃんとユキちゃんと僕の3人で話してて、
僕:3人で仲良くクリスマスパーティー
ユキちゃん:3人で仲良くクリスマスパーティー、そして、その後僕が、どちらか2人とデート
サヤちゃん:僕と2人でデート
女の子って難しい…そもそも僕自身、女の子と付き合ったこととかもないから、そういうイベントごとはわからないんだよな…クリスマスを祝うという、日本人なのにどこを向いてなんの神様を崇めているのかわからないことも、僕はしたことがない。
まぁ単純にひとりぼっちだからしなかっただけなんだけど。
というかね、サヤちゃんの僕と2人でいたいな、という気持ちはわからないでもない。曲者はユキちゃんなのだ。みんなでもパーティーをして、そのあとに僕に選ばせてどちらか2人と、って。それはダメだろ。サヤちゃんがものすごく近距離で睨んでくる。実はその怒ってる顔もかわいいなんて思ってる僕はバカだと思う。
「シンくんは私とユキちゃん、どっちと過ごしたいの?」
「えーと、僕は3人で仲良く…」
「どっちと!って言ってるんですけど!?」
こういう時のサヤちゃんはものすごく怖い。まぁ根がはっきりしないと気がすまない性格なんだと思うんだけど、僕がどっちつかずの態度をしているととてもイライラする。
「んー、どっちかと聞かれるとサヤちゃんと過ごしたいと思って…います」
「聞かれなかったら?」
「んー、好きとか嫌いとかていう感情とは別で、ユキちゃんも仲良くしていたいな、って思うんだけど…」
「へぇ〜、そうなんだ。シンくんってやっぱり女心わかってないよね…」
そもそも僕とサヤちゃんが彼氏彼女の関係なのかっていうと、そこも微妙なとこなのだ。スマホでやり取りしたり、電話したり、たまにご飯食べにいったり、お茶したりとかはあるけど、それ以上があるかっていうと、それはない。前にも話したことあるかもだけど、僕自身があまりにも人と深く関わることで、そのせいでお互いの嫌なところがいっぱいわかってしまって、友達付き合いができなくなってしまいそうなのが、怖いんだ。
僕はこうやって仲良くしてもらってるだけで嬉しいし、楽しい。なので、こういう時にどっちを選べと言われると、ものすごく困るし、どういう反応すればいいのかホントにわからないんだ。
「ごめん、僕自身がどうしたらいいかわからないんだよ…なんて言ったらいいか」
「そういうのを、優柔不断っていうんだよ。シンくんなんて知らない!」
‐私はシンくんのことが1番大事なのに!
心の声が痛い。はぁ〜、なんか僕にしたらはじめてのクリスマスパーティーって、ワクワクしてたのに、なんか今となっては、近づいてくると憂鬱になってきた。女心って言われてもなぁ…僕、男だし。ここは、大人の意見を聞いてみるほうがいいな。うんっ、そうしよう。
大人と言えば…




