コミックス3巻発売記念【女子会】
コミックス3巻発売記念のお話です。
3巻からはここに出てきたカーラーが主役となりますが、当然フェリーも登場します。
お話の内容はカーラー編が終わってから二年後という設定になっています。
今日はカーラーちゃんと二人で女子会である。
私達は貴族夫人になったけれど、前世の記憶もある同志でもある。
「堅苦しいお茶会は疲れるわ」
そんなことを言ってしまった時、カーラーちゃんが「では、前世であったような女子会をしてみるのはどうでしょうか?」と提案してくれたのだ。
その発言から二ヶ月、お互いに予定が合わずにやっと今日、待望の女子会が我が家で行われることとなった。
当初はセナ様も参加したいと言っていたのだけど、キャシャリン様とのお茶会という名の孫自慢大会があるようで、今朝楽しそうに出かけていった。
「仲良くなれそうもないわね」
セナ様は初めそんなことを言っていたのに、今ではキャシャリン様も立派な孫馬鹿になっていて、非常に話が合うようだ。
キャシャリン様とカーラーちゃんの仲も良好で、心配していた嫁姑問題も起きそうにないのでホッとしている。
◇◇◇
約束の時間よりも少し早く我が家にやってきたカーラーちゃん。
シュタンくんはキャシャリン様が見ていてくれるらしいので、きっと孫自慢大会にちょこんと参加させられているのだろう。
カーラーちゃんは私とは違い、前世の記憶が蘇ってもしっかり淑女で、見習わなければならないと思う面が多々ある。
「フェリー様はそのままで」
カーラーちゃんにはそう言われるし、
「フェリーはフェリーのままが一番だ」
なんてミューゼ様も言うのだけど、次期公爵夫人になる身としては、せめて外でくらいはセナ様のようにキリッとしていたいと思うのは当然だと思うのだ。
「お邪魔いたします、フェリー様」
出産を終え、二年経ったカーラーちゃんは大人の女性としての柔らかさが増して、女の私から見ても綺麗になったと感じる。
「いらっしゃい、そう堅苦しくしないでちょうだい。今日はそういう堅苦しさのない女子会なのだから」
そう言いながら用意したお茶をそっと差し出した。
前世で女子会なんてしたことがなかったから、どんなものが正しい女子会なのか分からないし、シャーリンとおしゃべりしていたようなものしか想像できなかったので、用意は普通の茶会とあまり変わらなかった。
ただ、前世で食べた駄菓子に少しだけ雰囲気が似ている、ランベスト領内の領民達が好んで食べているという素朴なお菓子も用意してみた。
エッグボールという小さくて丸いお菓子はたまごボーロにそっくりで、味もそのものだったし、コーンパフというお菓子はポップコーンにキャラメルそっくりなものを絡めてあって、絶対に懐かしいと感じると思ったのだ。
「これは、キャラメルポップコーン?」
案の定カーラーちゃんはコーンパフに食いついてきた。
「うちの領民達が好んで食べているコーンパフっていうお菓子だけど、キャラメルポップコーンよね?」
「はい、味もそのまんまキャラメルポップコーンです。これが領民の間で流行っているのですか?」
「そうなのよ、私も知った時は驚いたわ」
「私達のように、前世の記憶を持っている人がいるんでしょうか?」
そういうこともあるかもしれない。
だけど、無理やり探し出そうとは思わないし、お互いに今を幸せに生きているのなら関わらないこともまたお互いのためだろう。
「こっちはたまごボーロ? 懐かしい! この、口の中で溶けていくようなサラサラとした食感、本当に懐かしいです!」
用意したお菓子に目を輝かせているカーラーちゃんがとっても可愛い。
「ところでカーラーちゃん。女子会ってどういうことをするものなの? 前世ではしたことがなくて」
「あの、申し訳ありません、私も全く詳しくなくて。前世ではそういうものとは無縁だったので」
どうやら私達の前世はそういうキャピキャピキラキラした世界とは無縁の、そんなところまで仲間な二人だったようだ。
「でも、なんとなくですけど、楽しくお話したり、美味しいものを食べたりするものじゃないかな? と」
「それはそうよね。私もそんなイメージがあるわ」
「でもそれじゃ、いつものお茶会と変わりませんよね?」
「そうね、私達二人でのお茶会と大差ないかもしれないわね」
「ということは、私達はもう女子会を開いていたのかもしれませんね」
二人で顔を見合せて笑った。
「そういえば、こんなこと聞いていいのかわからないんだけど、カーラーちゃんは前世では彼氏はいたの?」
女子会と言えば恋バナなような気がして、前世の恋愛事情を尋ねてみた。
「そういうのとも無縁で。フェリー様は彼氏がいらしたのですか?」
「私もいなかったわ。前世の私はミューゼ推しで、寝ても覚めてもミューゼ一筋だったし」
「今と大差ないんですね」
「そうよね」
恋バナ終了。
恋バナがダメならなにを話せばいいのだろう?
主婦会は夫の愚痴や姑の愚痴などで大いに盛り上がったりするものだと聞いたことがあるけど、それをすべき?
「夫婦生活で困ったこととかあるかしら?」
とりあえず話題を振ってみた。
「困ったことですか? ……アシュリー様が少々私にベッタリしすぎていることでしょうか?」
「まぁ、素敵なことじゃない! それがどうして困ることになるの?」
「なにもない日は一日中私とシュタンのそばから離れないのですよ? 他の方々に聞いたら皆さん違うようですし……別に困ることというほどではないのですが、おかしいのかな? と」
我が家でのミューゼ様も全く同じである。
手が空いた時には必ず私の元にやってきて一緒にお茶をしながら他愛のない会話をし、子供達と遊び、子供達がいなければ私の隣を常に陣取り離れない。
話すことがなくても一緒にいるだけで安心できるし、時折盗み見る横顔に悶えていると「盗み見るするだけでいいのか?」なんて言いながら、色気全開で顔を近づけてくる。
「同じ、なのですね」
「夫婦なんだから、別にいけないことではないでしょ?」
「そうですね、確かに」
妙に納得したように頷くカーラーちゃん。
「フェリー様には困ったことはないのですか?」
「困ったことねぇ……」
困ったことがないわけではない。
ただ、それは夜の営みに関することで、たとえカーラーちゃん相手だとはいえ、口にしてしまうのは恥ずかしいしはしたない。
普段は手加減をしてくれているのだけど、時折驚異的な力を発揮するミューゼ様。
「足りない」
なんて痺れそうなほどの色気を含んだ声を発し、朝までどころかお昼近くまで私を離してくれない日がたまにあり、その度に体がバラバラになりそうな数日間を過ごすことになる。
「特にないかしら」
それ以外は本当に特にないのだ。
ミューゼ様の甘さも距離感も私を常にドキドキさせてくれるけれど、嫌悪感など一切ない。
むしろ離れている時間の方が寂しいとすら感じている。
それはカーラーちゃんも同じようで、顔を見合せ「似た者同士ですね、私達」と言われた時は少し嬉しかった。
嫁姑問題も私達には無縁のもので、気づけば二人で互いの家族の自慢大会になっていた。
「女子会、またしましょうね」
いつもの茶会と変わらなかったけれど、茶会と呼ぶより女子会と言った方がより楽しいもののように感じる。
「えぇ、是非また」
明るい笑顔でそう答えて帰っていったカーラーちゃんを見送り、自室へと戻った。
「楽しかったか?」
帰宅して早々部屋に戻ってきたミューゼ様。
「ええ、とっても。でも、結局は普段の茶会となにも変わらなかったけど」
私の顔を見て満足そうに笑ったけど、すぐになぜか表情が冷たくなった。
「これは?」
ミューゼ様が指さしたのはカーラーちゃんがオススメしてきた小説。
「カーラーちゃんにオススメされたの」
「……こんなもの、読む必要はない」
そう言うと、ミューゼ様はその本をどこかへ持っていってしまった。
「なにか気に入らなかった?」
戻ってきたミューゼ様にそう尋ねた。
「恋愛は俺とだけしていればいい。架空であろうと、フェリーの中に他の男が入り込むのは許せん」
「なに言ってるのよ、もう」
そんなことを言いながらも、物語の登場人物にもヤキモチを焼いたのだと思うと愛おしい。
「私はミューゼだけよ?」
そう言うとミューゼの目が一瞬だけキランと光った気がした。
「そうか……」
どうしてそうなってしまったのか、彼の導火線に火をつけてしまったようで、その晩私は彼の腕の中で何度となく翻弄されることとなる。




