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第十一話 囚人と愚連隊

「それにしても、実はシモンは凄い男だったんだな。驚いたぞ」


 俺達の部屋に戻って落ち着いた所でいつもの軽口が飛び出す。ようやく解き放たれた安堵感からか、馬鹿な事を言いたくなった。


「先輩、止めてください。俺はそういうんじゃないですから……」


 それはシモンも同じくである。俺のような不真面目な発言はしないが、それでも険が無くなり、口調も穏やかなものへとなっていた。


 結局の所、今回の騒ぎはオーギュストの自作自演であった。それもかなり無理のある。


 せめて俺をターゲットにしていれば、もう少しリアリティのある茶番になっていただろう。最終的なターゲットはシモンだとしても、まずは外堀を埋めてから追い詰めるという選択でも良かったのではないかと思う。今回は功を焦ったのではないか、そんな疑問が出てくるが……事が発覚した後のオーギュストの態度を見るとそんな事は百も承知と考えていた可能性が高い。


 そうなると、あの場でシモンがどういった行動をするか見たかったというのが考えられる。感覚的には威力偵察と言っても良い。相手を見定めつつも、上手くすれば復讐ができる。この辺が妥当じゃないだろうか?


 意外だったのはシモンの行動だ。オーギュストの部屋に行くまでに胡散臭い案件である事は話していたにも関わらず、あの行動。言い分を丸飲みするとは思わなかった。


 きっと、全てを分かった上でああしたのだろう。多分、オーギュストとの和解を考えた上ではない。コイツは俺よりもオーギュストの事を知っているから、頭を下げれば許してもらえるなどという都合の良い考え方はしていないと思う。


 そうなると、


「オーギュストがどれ程の影響力を持っているかは分からないが、これで終わりだと思うなよ。絶対に次がある」


「……はい。分かっています」


 今後どうするか、少しでも対策を考えた方が良い。


 あの手のタイプは執念深い。これを機にまた何かを仕掛けてくるのは既定路線だ。今回は俺がぶち壊しにしたから有耶無耶となったが、それで大人しくなるタマではないのは明白である。ましてや俺がオーギュストの立場なら、今のシモンはチョロイと考える筈だ。


 ふと……何となく、もしあの時黙って見ていればと考えてみたが、サド侯爵も真っ青の公開SMショーになりそうだったので、早々に考えるのをストップする。


 それはさて置き、シモンの返事はとても危うい。気負い過ぎだ。まるで自分一人だけでケジメをつけないといけないとでも考えているかのようである。真面目なのは良いが、それが悪い方に転がってしまうのではないかと心配をしてしまう。


「今後の対策は不用意に向こうの挑発に乗らない事が基本だと思うが……今回の件、俺はここまで関わったんだ。シモン、アイツとの因縁をきちんと話してくれるか?」


 だからこそ俺はシモンの過去を知りたいと思った。


 オーギュストとシモンの二人の因縁。それを解きほぐす方法は多分無い。それでも因縁を断ち切る切っ掛けくらいは見つかるんじゃないか。そうでなくとも、少しでもシモンの目を違う方向に向けられるんじゃないかと考えたからだ。


 カルメラ姉さんがこの場にいたら「またそんな馬鹿な事しようとして」と言われそうだとつい苦笑が漏れる。


「昔の事はあまり話したくないですが……仕方ないですね」


 俺の考えに納得してくれたのか、シモンがポツリポツリと過去の事を話し出す。


 過去話はある程度予想されたものであった。やはりこの町で昔、シモンはギャングのような組織に入っていた。


 色付き(カラード)は家畜ではない。理不尽な扱いを受ければ当然反発もする。白い奴等の行き過ぎた行動に一矢報いるべく、非合法な組織が作られたのは順当とも言えるだろう。個人で白いのに対抗するのは無理だが、集団ともなればそれも可能。良いやり方とは言えないが、これまでの鬱憤を晴らさんとばかりに団員達は白い奴等にリンチを行ったり、盗みを働いていたという。


「とは言え、俺は正式なメンバーじゃなかったですけど……」


 シモンは、近所に住んでいた仲の良いお兄さん的な存在がギャング入りをした事で、追い掛けるように入ったらしい。けれども正式なメンバーではないからか、仕事は主に見張り役であったという事だ。実行役となる事は一度もなかったと話してくれる。


「それでもオーギュストとはやりあったんだろ?」


「アイツはアイツで自警団に入ってましたからね」


 町の治安を維持するために幾ら衛兵が頑張っていたとしても、限界はある。ましてや相手は組織的な行動をするのだ。簡単に捕まるようなヘマはしない。そうなると、衛兵には頼らず自分達の生命や財産は自分達で守るのだという考えが出るのも自然の成り行きとも言える。目には目を、非合法には非合法を。良くある話だ。


 しかし、ここからが問題となる。


「けど、自警団と言っても名前だけだったんですよ。やってた事は、当時の俺達よりもあくどかったですね」


 これも良くある話だ。本来は守る事を目的とした集団が力を持つ事で攻撃性を増す。お陰で元々の仕事はそっちのけとなり、気に入らない色付きをリンチするは用心棒代と称して金を脅し取るはの集団になり下がっていた。後追いで新たなギャングが一つ増えただけという結果である。


 そうなると、当然二つの組織は対立。ついには全面戦争へと発展する。


「ああ、なるほど。その全面戦争の時に衛兵が割って入ってきたんだな」


「その通りです。お陰で二つの組織は壊滅しました。意外と思いますが、白い奴等も自警団はやり過ぎだと思っていたみたいなんです」


 確かに意外ではあるが、言われると納得する。白い奴等も一枚岩でないだろうから、丁度良い見せしめになった筈だ。自分達の支配体制を脅かす存在なら同属をも潰す、という所だ。犯罪者を捕まえ綱紀粛正もする。まさに一挙両得。


 その辺りは分かったが、シモンの話を聞いていると、


「ん? 悪いが、そこで二人はどういう接点があったんだ? 話が見えないんだが」


 という疑問が出てくる。


 考えられるのは、この全面戦争時にシモンが張り切ってオーギュストとタイマンをしたという流れだ。しかし、オーギュストのあの性格なら間違いなくタイマンは受けない。アイツが勝負事に乗るのは自分が勝てる算段がある場合だけじゃないかと思う。負けるリスクがあるならば乗らない。……良い性格してるな。


 だが、話は意外な方向へと転がっていく。


「二つの組織が全面戦争になる前から、オーギュストが俺にちょっかいを出してきて、お互いに顔と名前は知っていたというのがあります。アイツは俺が一人でいる時にはちょっかい出してくるのに、兄貴分が出てくるとすぐ逃げるんですよ。笑っちまいますよね」


「そこではなく、シモンとオーギュストのタイマンの話を聞きたいんだが……」


「ああ、そうですね。でも、実際はタイマンと呼べるようなものでもないですよ。衛兵に襲撃されて逃げ惑っていた時、それを邪魔したのがオーギュストだったというだけですから。こっちは逃げるのに必死だったから、そのまま体当たりしたらあっさりと気絶しました」


「なっ……運が無いな。オーギュストも」


 なるほど。確かにそれならオーギュストのあの反応も分かる。ただ、周りは一部始終を見た訳ではない。経緯は無視して一対一で戦ってシモンに一撃で()されたという評価になった。オーギュストにしてみれば不意打ちにしか思えないという所か。


「それで、更に運が悪い事に気絶している間に捕まって牢にぶち込まれたらしいです。アイツは色々と直接手を下してましたからね。当然の結果でしょう」


 この顛末は、シモンが潜伏先で仲間から教えてもらった内容らしい。


 こうした情報が入るのには理由がある。実はギャングには入らないが、裏では応援をしていた人がこの町にはかなりいた。そうした人達の情報ネットワークに支えられていたのが組織の実態というカラクリである。ある意味、シモンが入っていたギャングはこの町の色付きそのものとも言っても良い。


「これはまた……オーギュストも運が無いな。ん? 待てよ。じゃあ、シモンに対しては逆恨みじゃないのか?」


「そうなりますね。けど、俺は俺で捕まりたくなくて、ビビッてこの町から逃げ出しましたから。本当は俺も捕まるべきだったのだと思ってます」


 そんなシモンが選んだのは、この町から出ていく事であった。残党狩りの衛兵が町に溢れ家にも帰れない。入ってくる話は「今日は誰々が捕まった」という悪いものばかり。これ以上辛い話を聞くのが耐えられず、仲間の勧めもあって選択したそうだ。


 そうしてしばらくは各地を転々としていたが、行き着いた場所が俺のいるニトラの町。そんな中、風の便りでアルパカでのクリーン作戦が終了した事を聞く。主要メンバー全てが捕まった事でこの件は終わりを迎えた。


 シモンにまで捜査が及ばなかったのはギャングの正式なメンバーではなかったからである。当然、シモンに罪を被せるべくオーギュストの証言はあった事は想像に堅くないが、それは採用されなかったと見て良いだろう。


 シモンからは以前、この町の方針は「疑わしきは罰する」だと聞いたが、この対応を見ると町側もやり方を変えたと見るべきだ。そうでなければ、オーギュストの所属していた自警団を捕まえたりしない筈。これまでのやり方がずっとは通用しない事を理解したというか、ギャングの実態を知って手打ちにせざるを得なかったというべきか。


 同じ支配をするにしてもやり方が……ああ、そうか。だから、レッドキャップのような存在がいるんだな。ん……待てよ。そうなるとレッドキャップの意味は……。


 話が逸れた。シモンは罪を免れたが、元々何かをしたくてニトラにやって来た訳ではない。もう逃げ回らなくて良くなったのは嬉しいが、かと言ってこれからどうすれば良いかも分からない。何となく愚連隊の真似事をして無駄な日々を過ごすくらいしかできなかったらしい。けれども、俺と出会った事で剣闘士の道を選ぶ事ができたと教えてくれる。


 …………何だこの少年漫画のヒーローのような男は。しかも、コイツの今の夢がアルパカでのトップ剣闘士になる事である。もしその夢が実現してしまうと、感動巨編の映画ができてしまうな。


「それでか。オーギュストとの関係を清算したいのは」


「……はい。こんな俺でもできる事があると分かったんです。だからこそ、過去へのケジメが必要だと考えたんですよ。今の自分を誇れるように」


「シモン」


「何ですか?」


「諦めろ。……オーギュストにとっては知った事じゃない」


「……ですよね。俺もあそこまで歪んでいるとは思いませんでしたよ」


 こうしてシモンの過去話を聞くと、オーギュストも昔はまだ陰湿ではなかった事が分かる。クサイ飯を食った事で人格が歪んでしまった……良くある話だな。


 きっと、アイツの中で自分が今の状態にあるのは全てシモンのせいなのだろう。しかも、自分は捕まったにも関わらずシモンは衛兵にも捕まらずに逃げ切った。「どうしてアイツだけ」、そんな事を考えていても不思議ではない。また、「本当の自分はこんな所にいる人間じゃない」とも思っているかもしれない。


 言いたい事は何となく分かる。だが、それはシモンだって似たようなものだ。二人は意に沿わぬ形で時を過ごし、燻っていた。けれども、シモンは自分から変わろうと行動を起こす。それが二人の違いじゃないだろうか。


「繰り返しになるが、オーギュストの挑発には絶対に乗るなよ。この遠征が終わる時間切れを狙え。多分、直接的にお前を狙う事はない。辛いが耐えろ」


「……そうなりますよね」


 もう少しマシな提案ができれば良かったが、どう考えても今はこれが最上にしか思えない。これからシモンには試練がやって来ると思うが、頑張って欲しいと思う。


「腹が減っていると余計な事ばかり考える。とりあえずメシにしようぜ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] この辺も、大分以前より深掘りされてる感じですねー。 そしてこの、言われなければ異世界とか思えないほどのリアリティ。これぞまさしく、みんな待ってた底辺式。(笑)
[一言] オーギュストみたいな人リアルにもいますよねw とにかく自分の非を認めたくなくて、周りのせいにばかりしてる人w
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