第62話 鉱夫、スコップランドをつくる
ゼオルをとりあえず従えての、進軍初日。
スコップ神殿騎士団は行軍を終えて農村に陣を張っていた。
リティシアの命令により、進軍ルートは最初に□型つまり進軍直後にゆるゆると田舎を周遊するという、兵法家の人間が見れば『は?』としか言いようがないルートとなったが騎士団にはすでにスコ法家しかおらず『すこ!』としか意見が出なかった。
カチュアは頭痛が止まらなかった。
末期の軍隊。
というかもはや軍隊ではない。
頭がスコップにやられたスコップ集団だ。
だが、カチュアが頭を痛める理由は、そんなものではなく――。
『リティシア姫殿下ばんざーい!』
『ロスティール解放軍ばんざーい!』
――この進軍ルートが、わりと合理的だったことだ。
「なぜ軍が増えている!?」
夕方に近付いたころ、村の広場でカチュアは叫んでいた。
「村の若者にスコップをもたせればそれすなわち兵士ですこ」
どこの村にもゼルベルグの手下がいた。村人が生贄に捧げられようとしていた。そこをアランとカチュアが波動砲であっという間に掃除。1日で解放した村は8ヶ所にのぼる。その村人たちにスコップをもたせて、軍はますます増強された。
国の解放と軍の増強。
両方をなしうる進軍ルートだったわけだ。
「さすがはリティシア。先見の明があったのだな」
アランが感心したようにうなずいた。
このルートはアランではなくリティシア発案だからだ。
「いや……絶対スコップのことしか考えてないはず……っ」
カチュアは反論するが言葉に力がない。実際、結果を出されては文句は言えない。そのリティシアはというと、村の広場で、子どもを相手に何事か話している。やばい絶対スコップで洗脳教育している。
と、リティシアが振り向いた。
「あの……鉱夫さま、えと……」
長いウェーブがかった金髪をなびかせ、ちょっと心配そうな様子。
「鉱夫さまは、すこ物にはお詳しいでしょうか?」
「作物のことか?」
「翻訳するな」
そう思うカチュア自身、理解していることに気付いていない。
ともあれリティシアが説明する。さっきのは農家の子ども達で、最近は畑がやせ細り、まったく実をつけないのだという。このままでは騎士団が悪魔を追い払ったとしてみんな村のみんなが飢え死にしてしまう。
アランは少しの間考えて、やがて首を横に振った。
「俺は鉱夫であって農夫ではないからな。そちらの専門家ではない」
「そうですこ(´・ω・`)。あう、村をなんとかしてあげたいです……」
真剣な表情で、うんうんと何かを考え込むリティシア。
そのときカチュアの隣のゼオルが『なん……ですって!?』と驚いた。
「あのスコップ姫が……人間のような情を見せているですって……!?」
「ああ、うん、そこに驚いたんだな……」
確かに逆洗脳されたゼオルにとって姫殿下は悪魔以上のおぞましい何かだろう。
だがゼオルはひとつ勘違いしている。
「姫殿下のいまのは人間の情ではないぞ、ゼオル」
「は?」
「――ひらめきましたっ!」
リティシアが満面の笑顔になった。ぞくりとカチュアの背筋が震えた。
いつもの嫌な予感である。だいたい何が起きるかは予想がつく。
つまりその――スコップなことだ。
「鉱夫さまは、エルフ城を建築されたり、建設でしたらお得意ですよねっ!」
「何か造りたいのか?」
「はいっ! あのですね、ここにちょうど、空いた畑の土地がありますので!」
ぱんっと手を叩いて、リティシアが宣言した。
「ここに観光名所を――『スコップランド』をつくりましょう!」
ゼオルの目が点になった。
△▼△
スコップランドとは、子どもからカップル、家族連れまでみんながスコップできるスコップテーマパークだ。ただの人間でもスコップが体験できる遊びの場。大陸中から観光客を呼び込むことで、寂れた農村を活性化でき、更にスコップも布教できる。
この村を、農業ではなく観光の村にするのだ。
まさに一スコ二鳥の地域振興スコップである。
「なにいってんですか姫殿下」
怒涛の勢いで耳をつらぬくスコップワードにカチュアが呆然とつぶやく。
だがリティシアはもちろん聞いちゃいない。
「ぜひお願いしますこ、スコップランドを、鉱夫さま!」
「観光名所ははじめてだが……面白そうだな。やろう」
リティシアの頼みならだいたい聞くアランがザクザクゴスゴススコスコと畑を凄まじい速度で掘り抜いた。キンコンガンゴンとマッハで閃光が舞い、寂れた農村の畑のど真ん中に王宮の庭より広い敷地面積のテーマパークが建造された。
全体を囲むアダマンティンの壁。
敷地内にそびえる鉱山を貫く、巨大なトロッコ線路。
スココーと楽しいメロディに合わせて動くスコップ型の馬車。
中央には尖塔がスコップの形をしたスコデレラ城(命名リティシア)がそびえる。
「うむ、完成だ」
築37分。
アランが頬の汗をぬぐった。
「( ゜д゜)」←カチュア
「( д ) ゜ ゜」←ゼオル
ゼオルが泡を吹きかけている。村の若者たちも『!?』『!?』『!?』『!?』『!?』『!?』『!?』全員が大口を開けて声がでない。目が開いてる。あと瞳孔も。いきなり目の前に王宮より広く華やかなナニカができたのだ。
目が正気なのは、アランとリティシアとスコップ騎士団だけ。
「さすすこ建!(さすがは鉱夫さまのスコップ建築!)」
「遊び場は初めて作った。とりあえず試してみなければ」
「ということは、4人でスコップランドでデート、つまりスコデートですこ!」
「待 っ て」
もちろんリティシアは待たなかった。
カチュアとゼオルを引っ張りアランと腕を組んでスコップランドに入る。
『イラッシャイマスコップ』
入口の門はまるで鉱山の入り口のような木造りだ。掘削兵がチケットを要求している。リティシアがスコップを見せると『スコップをお持ちの方はすべて無料デス、ヨいスコップを』と言った。
礼儀正しい(カチュアの小学生並みの感想)。
「最初は『メリースコーランド』だな。2人がけだから2手に分かれるぞ」
「4人だから、誰が鉱夫さまと一緒に乗るか、勝負ですっ!」
「いや……ぜひ姫殿下がアランと乗ってくださいよ……私はゼオルといますから」
「(こくこく)」←恐怖に震えるゼオル
こんな異空間で2人と一緒にいたら思考が完全汚染される。
リティシアは一瞬『すこっ!?』と目を輝かせたが、すぐ首を横に振る。
「ここは夢のスコップの国、スコップランド。みな平等なのですこ!」
わけのわからないこだわりだがリティシアは真剣だ。
「鉱夫さま……リティシアにどうかスコップのご加護を……っ!」
そんなわけでリティシア提案の『スコップくじ(※スコップで地面を掘って、最初に当たりくじを掘り出したものが勝ち)』による勝負の結果、カチュアが一瞬で掘り出した。手加減しようと思ったら体が勝手に動いた。
「陰謀だ!!!」
「くっ……カチュア、ここはお譲りしますこ……」
リティシアとゼオルはがっくりうなだれて泣きそうな表情だ。
理由はまったく違うだろうが。
「もういい……とっとと乗って終わらせよう……」
「行くぞカチュア」
メリースコーラウンドとは馬を模したスコップに2人でまたがり『スココー♪ スココー♪ スーコスコプププー♪』と死ぬほど間の抜けたBGM(作詞リティシア、作曲アラン)と共に回転する遊具だ。
少なくとも人類向けではない。
しかし問題はBGMではなかった。
「う……こ、こら、アラン……っ」
背後のアランがカチュアの腰にふにょっと抱きついてることだ。
顔は背中に埋められてるし、なんか息を感じる。
――めちゃくちゃ、恥ずかしくて、胸が熱くなる。
「はう……カチュア……どうして私はスコップくじであそこを掘ったの……っ!」
「 」←リティシアの背後で白目を剥くゼオル
リティシアからのすごい視線を感じる。
めちゃくちゃ、うらやましそうだ。
「あ、アラン、あまり強くつかむな……こら……っ!」
「この遊具では腰に抱きつくのが作法だ。真剣にやらねばテストにならん」
「なぜそんな変なところで真面目なんだっ!?」
「この国を救うために」
「目的には賛同するが手段があらゆる意味で間違っている!」
そのときピコンピコンとカチュアの腰の『聖鞘アルカディア』が鳴り出した。
耐スコップ力、補給のお時間である。
「ちょおおおおおお待ってええええええええっ!?」
「む。腰に抱きついたまま掘れるところは……ここか」
「ひやうんっ!? や、やめ、そこ、おなか、きたな、ふあああんんんっ!?」
3分後。
たっぷりおなかを掘られたカチュアが汗だくで地面に寝転んでいた。
リティシアが羨望の眼差しを向けている。
「こ、今度こそ……ですこ……っ!」
スコップくじの結果ゼオルが当たった。『ジェットロッコスコ(トロッコで線路を走りスコップで進路を変えるアトラクション)』にアランと2人で乗って去っていった。残ったカチュアの隣でリティシアは絶望にうちひしがれている。
「あう……すこー(´・ω・`)」
じいーっとおなかを見つめてくるリティシアの視線が痛い。
さっきアランに小さいスコップでカリカリされたおなかだ。
今でも、むずがゆくて、ちょっと熱い。
「……カチュア。おなか、すこしていいですこ?」
すこじゅるり。
アランの感触がのこるおなかを見て、舌なめずりするリティシア。
「いいわけありますかっ!?」
「すこ……あぅ」
しゅんっと悲しそうに乙女の顔をするリティシア。
少しだけカチュアも胸が痛くなる。
人格はおかしいが本当にアランのことが大好きなのだ、この姫殿下は。
人格はおかしいが。
むしろ人格以外のあらゆるものもおかしいが。
それでもアランが好きという気持ちだけは、はっきりと伝わってくる。
なんというかもう――。
「――もうアランと結婚すればいいのに」
「すこっ!?」
カチュアのつぶやいた一言にビクビクスコっとリティシアが反応した。
赤面しながら、赤いスコップを唇に寄せて、表情を隠して、ぽつりと。
「それは……だ、だって、カチュアもシャベルでしょう?」
「何いってるのか完全に意味不明ですが少なくとも私はシャベルではないですね」
「と、とにかく……そういうのは、絶対にないです……すこ……」
もどかしげに言いづらそうなリティシア。
何だかわからないが、アランと何かあったらしい。そのとき『ガスコン!』とトロッコと共にアランとゼオルが戻ってきた。何があったのかゼオルの頬には『すこ』『すこ』と墨で落書きされていた。『もうすこはいや……』とつぶやいていた。
悪魔にすらこのテーマパークは危険なエリアらしい。
それはともかく。
「では、最後に『観スコ車』だな」
「姫殿下を連れて行け。私達はもう休む」
カチュアはリティシアをどんっとアランに突き出した。
「すこ!?(カチュア!?)」
慌てるリティシアに、カチュアは一言。
「姫殿下。今がチャンスです。アランときちんと話してください」
「ちゃんすこっぷ!?」
「何か言いたいことがあるのでしょう」
顔を真っ赤にして『すここここここ!?』と慌てるリティシア。
カチュアは盛大にため息をついた。まったく。ほんとにまったく。
「すこ……すこ……すこ、です(*´・ω・`*)」
――我が主君ながら、世話の焼けるスコップ乙女である。
この小説は超王道英雄ファンタジーです(強調)。いやそのあの、ぼくはデートイベントがそろそろ必要でデートといえばFF7でゴールドソーサーでつまりこの話はディスク1枚目に過ぎなかった……なにいってんだかわかんないですがとにかくぼくは無実(このへんでスコトロッコに撥ねられた




