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 生臭い匂いが鼻に付き嫌々目を開けた。日はまだ登りきっておらず、時間にしておおよそ五時と言ったところだろう。

「ん、ん〜」


 目についた目やにを手で擦り、首だけを起こし寝ぼけた目で辺りを少し見渡した。


 私の横では美命がイビキも立てずに寝ている。朝になり服に大量の血がついていることが伺える。私たちと会う前にたくさん鬼を殺したのだろうか? それとも、人か?


 昨日の夜にはった結界の効力が弱まってきているのか昨日のようなあの覇気は感じられない。まだ多少は残ってはいるが、消えるのも時間の問題だろう。


 そういえばデフの姿が見当たらない。

 足音も、あのイビキも、あの太々しい肉の揺れる音も聞こえない。


 急ぎ上体を起こし、匂いや音それらを手繰るために互換全てを使ってあいつを探す。


 鼻は血の匂いで、舌は強烈な肉の甘味で、耳は風の音で、視覚は寝不足で霞む。


 息を吐き、目を覚ます。


 ドスっ

 鈍い音が聞こえる。


 何か固いもので肉を叩いているような音だ。

 ドスッ


 また聞こえた、この方角は……。


 立ち上がり音の聞こえる方へ歩いてみた。

 刀の塚に片手を置きいつでも抜刀できる体制にはしてある。一滴の油断もせず足音や気配を遮断し草陰から音のするほうを覗いた。


 ドスッ


 夜見はジト目になった。自身が警戒していたのをバカバカしくなるほどに呆れていた。

 そこにいたのはデブチンが熊の肉を鉈で切って鍋に入れていたからである。


「おい、なにしてるの」

 聞くまでもないとは思ったが、念のため確認をしたかった。

「いや、昨日見張りしてたら美味しそうな肉が歩いてたから捌いてるところ」

 頭が痛い……食欲魔神とはこいつのことではないかと昔読んだ漫画を思い出した。

 確かに、人間の三大欲求のうちの一つに食欲があるが、朝っぱらからこんな高カロリーなのもはきついというか無理。


 食べたいと体がもたないというわけでもない。それに十メートルほど離れているのにもかかわらず匂ってくる油の甘い匂いが何とも言えない。


「たくさん食べると大きくなれるからな」

「お前がいうとデブるという言葉にしか聞こえないのはわたしの気のせい?」

「あはは。成長期なのだ背が伸び胸が膨らむと言ったところだ。心配しなくても逆巻の分もあるから。朝から少しだけ、重いがイケると思うぞ」


「なぁ、デブ。殴っていい?」

 デブはいやそうな顔をして肉を切っていた。

「なぜに殴られなければならないんだ?」

「人は怒りに任せて殴るとなかなかに強い威力が出るとどこかの本で読んだ記憶があってだな」


「なるほど、逆巻は怒っていると?」

「察しが良くて助かるよ。ほら、座ってないで立て。そして歯を食いしばってくれると殴りやすいってもんだ」


 気だるそうにデフは肩を落とす。

 目を泳がせチラチラと私の後ろを見るのだ。


 草むらの影から一人の影が見えた。身長や気配から察するに美命だろう。その顔はどこか心配しており、こちらを見つけると少し安心した顔をする。


「あなたたちこんなところで何をしてるの?」

「いや、朝ご飯の準備を少々」


 一切悪びれる様子もなく答えるデブの姿に私は少し狼狽したが、それでもイライラが収まる事はなく……。


「やっぱり殴っていい?」

「脳筋ってこわいね!」


 ブチっ


 青筋が浮かび拳を強く握った。





 三十分後……。


 頬に大アザを作り、大鍋をかき回しているデブの姿があった。


 木々の新芽から取れた蕾や美命が持っていた少ない山菜を鍋に打ち込み最後に私の常備していた塩類を入れた。


 簡易的だが鍋を作り私たちは少し遅いが朝ごはんを食べることになった。相変わらず大量の油の浮いているが煮る事で多少は落ちたというものだろう。

 デブの後ろにはまだ大量の肉片が落ちているが、あの肉もデブは残さず食べるそうで、これとは別に火を焚いていた。


 漆塗りの茶碗に盛り付け小枝を箸にしてまずは一口……。


「美味しい……」


 口を開いたのはデブでもなく私でもなく、美命だった。

「な、やはりこの肉は上物だろ?」


 ジト目の私に対し美命は不服ながら美味しそうに食べてるといった様子で顔は不機嫌なのだが口元は緩んでいた。


 1日目が終わり、二日目に突入したこの期間に私たち三人はブクブクと体重を身につけていた、


 下腹部の肉を少しつまみ太ったなと意気消沈しそれでもなを食欲に負け鍋を食べるのであった。



 小一時間ほどかけて食べ私と美命は息をついた。


 軽く運動がてら何かを殺したい……なんて年端も行かぬ少女二人が悪い笑を浮かべた。


 それも知らず残りの肉片をムシャムシャと食べるデブば立ち上がった私たちに対して首を傾げ「どこに行くんだ?」と質問をしてきたので、刀を抜いて返礼とした。


「美齢ちゃん、やる?」

「えぇ、いいわよ。食後の運動にしては少し軽めだけど、鬼をぶち殺すのが私たちの生き甲斐みたいなものだしね。いいわよ。適当に狩って遊びましょう」


 短剣を指に生やした美齢は手始めにと指に生えている短剣を四方八方に投げる。

 獣の来る時声が聞こえた。気配で察知し短剣を投げたとでもいうのだろうか、それともまぐれで当たった……いや、それは考えに足らないだろう。



 ニヤリと笑い、どちらが悪かわからない様な声で笑い出す。

「あははは、殺戮とはまさにこの事さて、殺すわ」

「いい殺意ね、私も少し見習わなくては」


 抜刀した刀を強く握る。

 "刹那"岩陰から飛んできたクナイを迅速の早技で全て撃墜して見せた。

 いや、くないと言うにはお粗末すぎるその飛来物には大量のドス黒い血が付着している。

 それらを一瞥し、美命が口を開く。


「鬼も投げ物を使うなんて初めて見たわ。ふーんま、拙い事で」

「ふっ、こんな幼稚な物で死ぬのならこんなところに立っていない。そこのデフですら武器を構えたと言うのに、その程度で隠れたと言うのなら隠れんぼは向いていないな。殺気がだだ漏れだ。」



 岩陰から出てきたのは餓鬼達だった。

 餓鬼というには少し大きくて、少し筋肉がついている程度だが、見るからにいつも見てきた餓鬼とは何かが違う様な気がした。


「夜見!! あれは餓鬼なんて生易しい物じゃないぞ。武器を使いそれらを行使することのできる少し強めの鬼だ」


「……少しか、この程度何百体と斬ってきた。こいつらも私の刀の錆にすればいいだけの話」


「えぇ、そうね、私もこの程度の鬼ならば腐るほど殺して来ましたわ。今更この程度でビビる様な粗末な肝はとうの昔に捨ててきました。それよりもお肉焦げてますよ? ひっくり返さなくていいのかな?」


 美命は短剣を構えて、術を唱える。

 夜見は刀を下段に落として、餓鬼へと走った。


「行きますよ!!」


 雷撃の付与された短剣が夜見を避けて餓鬼に飛来する。

 その弾進は一直線で単調な物だが、放たれた短剣の数は八本。普通の餓鬼ならば、避けられずに首根っこをかき切られ絶命する。が、この餓鬼はひと味違う様で、小石から作られたであろうクナイをその倍の数を投げて次々と短剣を落としてゆく。


 そんなことに気を取られていると気配を消して近寄った夜見の刀が鬼の首を捉えた。


 吸い込まれる様に走る刀が首元寸前で何か硬いものに当たった。


 目を見張り剣先を見ると餓鬼は剣を石のくないで受け止めているのだ。


 思わず後ろに飛び退き態勢を整える。

「なんだこいつ、普通に強いぞ、あのクソ餓鬼とはひと味違う。あの石のくない普通の石でもない。何か特別な加工でもされているのか!」




 刃をみて欠けていないかを確認する。かなりの好触感だったのにも関わらず切れることのなかった首を忌々しく見据えると、刀が少しだけ心配になったというものだ。


 幸い欠けてはいないが、手元が少し痛みで震える。


 ふぅっと息を吐き、腰を少し落とす。


 デブはハンマーを両手持ちにし、美命の後ろに立つ。

「こういう時は破壊力のある俺が先陣を切ってあのクナイを弾く、美命さんは俺が近くまで隙を与えないようにあいつに短剣を投げてくれ、夜見お前は俺があいつのクナイを弾くからその時は頼んだぞ!」

 二人はコクリとうなずきたった一匹の餓鬼相手に軽くではあるが作戦が練られる。


 ニタリとわたしは笑った、こんなふうに協力して戦うのは師匠以来だろう。心が躍り、血潮が体内を熱く駆け回る。


 さぁ、惨殺の始まりだ!!

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