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戦いやー
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少し弱った鹿が一頭……もう一匹は少しだけツノが欠けていた。
ツノがかけた鹿は弱った鹿に寄り添い、首筋を優しく首で撫でた。愛情とも取れるその行動に舌を噛む。心が少しだけ痛む気がした。
だが、奴らは鬼だ。決定的に鬼なのだ。
引かず、私たちを食べようとその牙を剥いてくる鬼なのだ。
それらを倒さなければ私たちは今晩の夕食にされてしまう。幸いなことにここにはこの二頭しかいない……それだけが唯一の救いなのだ。これ以上、この場に敵を増やしたくないからだ。
デブはハンマーが重いのか、地面におき、肩で息をしていた。そのからだは既にガリガリになっており、既に瀕死だ。
「ほら」
干し肉を投げてやり、回復させる。
その間、鹿も少しづつ回復しているのか、死にかけていた目が少しずつ開かれてくる。時間稼ぎにしかならないと、悟った。
唇を噛み、少し血を流す。
しくじったと、後悔したが今はそれよりもデフの回復が最優先だ。1人でこんな化け物を相手取ることは不可能に近い……。
そんなことを考えながら、夜見はまた刀を強く握るのだった。
森は騒ぎだし、草木は怪しげに揺れる。
鹿は、眼光を鋭くし鋭い殺意を私たちに向ける。心臓が締め付けられるような、その眼光は、すべてのものを萎縮させる。
「デブ……いやガリガリ。なんか爆薬とか持ってないのか!」
「……ある、にはあるがこの二体同時に爆散なんていう威力のものはない!!」
唾を吐き捨て、悔しそうに鹿を眺める。
回復仕掛けた鹿二頭はゆっくりと首を上げ臨戦態勢になる。その瞬間、ブワッと空気が変わる。
オーラとでもいうのだろう、そういったものが一気に吹き出したような感覚だ。汗が噴き出し、本能が『逃げろ!!』と訴えている。
デフの額から大粒の汗が流れ、空気が張り詰める。ポタリと、地面に吸われた汗は血の染みた大地には溶け込めず、小さな水たまりを作る。
奇怪な声をけたゝましく上げ、二頭の鹿は一直線に、真っ直ぐにこちらに向かってくる。
鋭利なツノは触れるだけで、命が奪われそうだ。
「よけろ!!」
デブが私に叫んだ!!
ヒュルヒュル
目の端から何かが飛んでくるのが見える。
眼前に迫る鹿よりも私はその短剣が気になってしまった。
「しね……ゴミムシさん!」
可愛らしい声が聞こえて来る。どこかで聞いたことのあるような、忌々しい声だ。
短剣はツノの欠けた鹿に突き刺さり、動きを止めた。その隙を逃さず、私は刀を滑らせるように鹿の頭をバターのように撥ねた。
「誰だ!!」
「あら? そんなこと言ってられる余裕があるの?」
(この声はあの私に突っかかってきた女か……)
上の方からする声を見上げることもなく、もう片方の鹿が怒り狂う。友か、家族か又はつがいかは知らないが、お前たちは人を食らった。
そんなやつを私は許さない……。
だが、一対一ではかなり厳しい…………だが。
「暇だし、お腹空いたら手伝ってあげる」
傍観するように痩せた木の上から私を眺める彼女の手には沢山の短剣が握られている。
ギザギザの歯を見せびらかし、あたかも美しいでしょ? と言わんばかりに顔をひねる。
先程の服とは違い、真っ黒で闇に潜むような服装を全身に纏い、気配を極限までかき消している。
いく数本握られている短剣はどれも茶色く幾度もなく使用されたと見える。
だが、特質する点はそこではない……その刃の鋭さだーーあの距離からあのひ弱そうな女が投げた短剣が、あの刃をなかなか通さない皮を難なく貫通し鹿を怯ませて見せたのだ。
あれはかなりの業物だ……。手入れもかなりされているのだろう……。
「ほ〜ら、あのオスが来るわよ〜あはは!?」
狂ったように笑い、幾度となく短剣を雨水のように降らせた。
だが、しかも負けじとその刃を避ける避ける!
「で、じゃなくてガリガリ……そこで防寒してろ。この鹿を殺して食べるぞ」
「頼む!」
何故か顔を赤らめたデブは頬をすりすりしていた。
うん、きもい。
唾を吐き捨て、刀を握り直した。
……瞬光ーー
光を置き去りにし、鹿へと走り駆け抜ける。
型も何もない、ただのフルスイングだ!!
「しっねぇぇぇええええ!!!!!」
鹿もそれに気が付いたのだろう。
刀の来る方向に向かい角を向ける。硬いと知っているのだろう、わずかだが、その瞳に笑みが見えた。
だが、木の上にいる彼女がそれを許さない。
筋肉の収縮する一点を狙い、首が経った数秒だけ下がらないように短剣を気配を消して打ち込んだ。
「グァ!!」
短い叫び声が聞こえたあと……。
全身に血を浴びた夜見がゆっくりと倒れるのであった…………。




