10暴走の兆し
あはは、頭痛い。風邪ひいた。ちくしょう
α10
対峙する二頭の鹿、互いに互いを信頼しきっているのか首を振るわせ仲良く声を荒げた。
「ワレ、ナンジラ、クウ」
「ワレラ、ツガイ、オマエ、クウ」
片言だが、言葉を発する鬼だ。
経験上この手の鬼はやたら強い。
抜き放った刀を鹿二頭に向けた。デブは息を長く吐き出し、ハンマーを両手に持つ。
「夜見、おれが取り敢えずひきつけよう。その間にあいつらの首を切れ。一頭になったら後は楽勝のはずだ」
首を縦に振り、デフは煙幕を張る。
けたたましい声が響く。
二頭の鹿は声で自身の位置を伝え合うなかなかに頭の良いことをするようで、こちらの位置が逐一バレる。
木々の間から突進が来る。そう思い、刀を振るうが幻術……!
「チィッ」
舌打ちをし、煙幕が晴れるのを待つ。
「夜見、この煙幕をあまり吸うな。気を失うぞ」
急ぎ手で口元を塞ぎ、目を凝らす。
音に気をつけ、小さく体を伏せる。
居合、抜刀……。
「……」
慣れない技がある。
居合いだ。
刀のいうのは反りがあり、それに対して鞘にも反りがある。
夜見は抜刀が少し苦手である。
「一か八かだ」
煙幕が少し晴れ、少しだけ敵が見えた。
鹿はどうやら目が回っているようで足の踏ん張りがあまり効かないようす。
これなら、行けるかもしれない。
逆巻流剣術……居合い、残光
背を低くし、地面と水平になるように刀をならす。息を全て吐き、全集中で刀に少しだけ触れる。
静かになった……いや、正確に言えば夜見の感じ取れる音が限定された。
それは……心臓の鼓動だ。
ドクドクと脈打つ心臓の音だ。
次第に脈が遅くなる。いや、遅くしているのだ。
絶対なるその一撃は、岩をも御座ない。
幾重にも鍛えられたその矛は何者にも邪魔されることはない。
穿て、才あるその一撃を……!
カッと目を開き、刀を力強く握りしめた。
瞬間、風が吹いた……。
ガギンッ……!!
「ツノ硬すぎる……!!」
「夜見、何をしている!! あいつらのツノはそんじょそこらの攻撃では斬れんぞ。そのつもりなら初めから斬れと言っている!!」
デフの怒号飛ぶ、声のする方を見るとデフはもう一体の鹿を押さえつけていた。
ギリギリとハンマーと鹿の角がぶつかり合い火花を散らしているではないか……。それ程までに硬いのか、あの角は。
かなり立派なそのツノは普通のシカとなんら変わりないような見た目をしているのに何故に……。
鬼のツノ……は硬い…………か。
「デブ、あれがこいつらのツノなのか?」
「あぁ、そうだ。しかもこいつらはそのツノを大きくできる特性を持っているらしい。戦闘の途中でも形を変えられるほど器用なことを……グッーー出来るようだ」
ガリガリのデブだったものは少しずつメリメリと押されてゆく。あのままだと長くは持たないだろう。助けに行こうとしても、鍔迫り合いをしているこの鹿をどうにかせねば引くに引けない!!
くそっ、地面がぬかるみ足に力が入らない……!!
なんで強いんだ。
今まで戦ってきた中で5本の指に入るほどに……。
師匠がいれば……いや、そんな甘いことを考えていてはこの先人に頼ることを覚えてしまう。それだけはダメだ。その人をまた殺してしまうかもしれない。お爺様のように……。
「クソが!!!」
夜見の足元から黒い霧が出てきた。
あの、黒い霧だ。
全てのものを壊死させるあの毒の霧だ。鬼も生者も殺すあの霧だ。
「夜見、それは一体なんなんだ」
霧の危険性を感じた夜見と対峙している鹿が少し距離をとった。それを見たデブの対峙している鹿もデブを引き払い距離を取る。
「うっ、あぁぁぁあーー痛い、痛いよ」
「大丈夫か?」
駆け寄ってきたデブはその霧に触れた……。
「いった……なんだこれ。霧に触れたところがかぶれたぞ。お前は一体なにを出しているんだ」
抑えの効かないこの呪いは自信さえも飲み込む強大な毒……。愛するものさえ殺す毒だ。
近づかないでほしい……死んで欲しくないからーー。




