03
α03
エンジン音だけが聞こえる帳のおりた黄昏時。
メラメラと燃えるような太陽はゆっくりと山陰に沈みゆく。麗かで色鮮やかな鳥たちは眠りにつき、カラスやコウモリたちが空を制する時間。
夜見は窓ガラスを開けそこに顔を伏していた。
まだ戦闘の疲れが抜けていないのか目はまだ朧気だ。
彼女の師匠もまた目をパチクリさせドリンクホルダーに入っている栄養剤をガブガフとあおるのだった。
「まだ着きませんか? ……寝ていいですか?」
ため息を落とした師匠はタバコに火をつけながら首を横に振った。
「俺も疲れてるんだ。それくらい加味した上で物事を語れよ……」
ガタン
石に躓いたのだろう車が少し上辺にははねる。
その度に夜見は舌を噛みそうになる。
やれやれと師匠はその様子に飽き飽きしているのか見向きもしない。
初めは大丈夫か? と声をかけていたがそれももう無い。というか見ることもない。
「夜通し走らせても明日の昼ぐらいだ。もういい寝ろ。そしてその煩い口を閉じてくれ。疲れが何倍にも増える気がするから」
「はーい」
可愛らしさのかけらもない声で夜見はうなずき瞬く間に寝息を立てた。
よほど疲れていたのだろう。口からはもう涎を垂らしている。
再度深くため息をついた師匠は眠たくならぬようヒップホップをかけるのであった。
◇
完全に夜が明け小鳥が囀り出した午前八時ごろ。ようやく夜見が目を覚ました。
完全に死にかけの師匠を横目に背を伸ばし、ボンネットに手が当たった。
「ん。ん〜」
「ようやくお目覚めか、この眠り姫め!」
恨めしそうに師匠が嘆くがそれに目もくれず夜見は非常食のチョコバーを半目の状態で貪っていた。なんとも平和だなと師匠は思うが口にはしなかった。
畦道を抜けやっとまともな道に入った。
少し整備させただけの道だが先ほどの砂利だらけの道よりかは幾分かマシだと師匠思った。
何よりもタイヤが心配であった事がいちばんの要因といえよう。
何はともあれ、このまま順調にいけば昼飯前には学校の門にはたどり着くだろう。
そう……門には。
そこから先は俺は関係のない事。そこから先はこの子が通り抜けなければならない久方振りの試練なのだから。
「夜見、今のうちにたくさん食っとけよ。多分俺の予想だと飯はあんまり食えない。だからほれ、俺のチョコバーもやるよ」
それを無言で受け取り寝ぼけているのか袋に入っているままなぜかうまそうに食べるのだ。
全く不思議なやつだと……。
一様軍事目的に作られたやつだから袋も食えるがあまりお勧めはしない一品なのだがこいつは全く。
朝食を取り終えた夜見は少し意識が覚醒し始めたのか周りの景色を見るようになった。
「へぇ〜〜」
「なにがどうしたんだ?」
「いや、特に?」
何かに感心しているように見えたが、気のせいだったか?
時刻は大凡十一時を回った頃だろうか?
しっかりとした道から山道へと突入した。
バシバシと草が車体にあたり軽い引っ掻き傷がいくつもできる。
木々にぶつかるたびにドスンドスンと鈍い音とともに軽い衝撃が夜見たちを襲った。
その度に夜見は車にしがみ付き難を逃れていたが、シートベルトをしろよと言いたくなる。
(法律ではシートベルトの着用義務が緩い)
義務化されていない理由としては鬼の要因が大きいだろう。
いざと言う時に逃げられないから。
だと言う……。
休閑話題
しばらく走ると草原から林に変わっていた。
「ねぇ、どこ行くんですか? 私を捨てに行くんですか?」
「……違うわ。ここに学校があるんだよ。この先にな。門までは車で行けるがそこから先は歩きだ。覚悟しとけよ?」
その言葉に若干引っかかる夜見だったが鼻歌まじりに忘れてしまった。
太陽が真上に上がり、日差しも少し強くなってきたおよそ十二時……。
今にも崩れそうな学校の門が見えてきた。
その奥は完全な森で来るもの全てを拒んでいるようにもに見えた。
その森は林よりも薄暗く、妖怪が出ると言われても信じてしまいそうなくらいなのだから。
「えっと……ここですか?」
「そうだな」
車から降りた二人は、門の前に立ちてんをあおいだ。
まじかよと悪態を吐きそうになるが、師匠の手前そんなことは許されない。
森の奥からは血の匂いが微かに香る。
この先に待っているのは『死』だ。
その言葉に限る。
踵を返して帰りたいところなのだが……。
師匠が背を押すのだ。そう、ジリジリとゆっくりと力を込めて……。
「え……まじですか?」
「あぁ、大マジだ」
晴れやかな笑顔で師匠は言うのだ。
「おっと、忘れるところだった。これ持ってけ。
いざと言う時にいるかもしれないから」
手渡されたのは主な四点。
サバイバルナイフ
ペンとノート
携帯食料
最後に入学書
を私に持たせた。
「あの、サバイバルナイフはなんでですか?」
「多分その時が来れば分かるさ」
そんな意味深な言葉を残して車に乗り込んでしまった。
「とりあえず山頂を目指せ。そこに学びやはあるから。それじゃあ気をつけてな」
「ちょっ、待って!!」
ブーン
勢いよくエンジンを吹かせ明後日の方向へ行ってしまった……。
「また一人ですか……これ」
学校にたどり着けと言われてもこんな山の中絶対鬼いるよね。血生臭いし……めんどくさいな。
夜見は深くため息を吐き項垂れるのだった。
数分後……
ここにいても仕方ないと意を決し山を登り始めた。




