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少女は刀を握り姫となる!剣姫〜いざ行かん  作者: 榊 凪
1章 幼少期 殻を破る時
61/96

59夏?

少し短め?

 59


 夏になった。


 最近では銃弾を避ける訓練を受けている。

 打ち出される弾丸はゴム弾ではあるが、当たったらもちろん痛いどころでは済まされない。すでに十三発も当たっている。両手両足には合計十キロ程度の重りを身につけている。


「動きが単調になってるぞ」


 そんなことを言ったって仕方がない。かれこれこの訓練を始めて三時間……体力に多少の自信があったとしても爆薬を使って打ち出されるゴム弾を避ける。それも、かなり大きく避けているのだ。試しに師匠がやっていたが、ごく最小限の動きで避けていた。あれは真似できない。下手をしたら全弾命中でノックアウト間違いなしなのだから。


 時刻はすでに二十時を回っている。

 暗闇に紛れて銃口が光る。それを頼りに私は避けているのだ。集中力や、精神力がガリガリと削られていく。



「あなた〜もうそろそろ終わりにしてご飯にしましょう」

 カレンが遠目から声をかけてきた。

 横目でカレンを見ながら師匠は最後の弾丸を打ち出した。

 お腹が空きすぎてカレンさんに手を振っていた私はその弾丸に気がつくことなく、頭にあたりKOされてしまった。やれやれと師匠は頭を振り、私を引きずり家へと帰宅するのであった。




 家では美帆が食器をテーブルに並べてご飯の用意をしていた。

 ぐったりとした夜見を席に就かせるが、未だに目が覚めないのか「うぅ〜うぅ〜」と唸っている。相当に最後の弾丸が決まってしまったのだろう。そんな夜見の様子を美帆は心配そうに眺めるが、料理が運ばれてきたらそちらに夢中になりムシャムシャと口の中に入れている。


 花より団子か? 師匠は首を傾げながら自身の用意された魚料理を器用に箸を使って食べている。次第に覚醒してきた夜見の鼻がピクピクと動き出した。いい匂いにつられて目を覚ますとか、食いしん坊キャラなのか?

 そんな疑問が尽きないが、それも仕方ないのだろう。あれだけ過酷な訓練を施した後だ。

 食いしん坊になるのを注意するのは酷か……。



 数分もすれば完全に目を覚ましよだれを垂らす。

 盛大に「いただきます!!」と声を上げたが最後、狂った狂人のようにご飯を貪るように食べた。

 あらあら、とカレンは悩ましく頭を抱えている。師匠はといえばそんなことを機にすることもなく、美しくご飯を食べているのだった。


 食事の時間はなによりも素晴らしく、美しいものだと師匠は知っている。たとえこれが最後だとしてもなに一つ欠けることなくうまい飯をたべる。これは人類が生み出した中で最も美しいと思う行為の一つだと師匠は知っている。だからこそ、「茶碗を持たんかい!!」

 細かいところを注意し弾丸を食卓に飛ばすのであった。



 その様子を美帆は一切気に止めることなく自身のご飯を食べ終えてお風呂へと向かうのであった。



 この家のお風呂はかなり豪華だ。

 カレンの趣味全開で作られたお風呂は全て木製。浴槽には椿の花が浮きバラの香りがした。


 途轍もなく趣味嗜好が詰め込まれすぎてもう訳のわからないことになっているのを突っ込むのはこの家で禁則事項に指定されている項目であり、家主である師匠ですら何も言わない。


 ロクに稼ぎもない男が何を言っても仕方のないことなのが、それはまたのお話。



 ゆっくりと湯船に浸かる。

 鼻から抜ける花々の香りが日々の疲れを癒してくれる。


 ふと目を瞑れば自信がやってきた非道なことの数々を思い出す。死んでしまった母、父、それにお爺ちゃんお婆ちゃん。それに兄妹たち……。

 昔は優しかった人たちはあんなにも落ちてしまった。お姉ちゃんに救われ今ここでこんなことをしている私……。

 美味しいご飯を食べ、よく遊び、家事やお手伝いなんかもたくさんした。

 でも……どこか罪滅ぼしなんかをしているつもりになっている自分がいる気がしてならない。カレンさんは言った。

「辛いことがあったことは忘れてはいけない。それをどう乗り越えるかが重要」だと。今の私にはその言葉の意味が分からない。そのことを伝えるとカレンさんは私の頭を優しく撫でてさらに言った。

「いずれ分かるわ」カレンさんが泣いているのがわかった。なんで泣いているのか……私は少しだけ分かった気がした。


 顔までお湯に浸かり、ぶくぶくと気泡を出して遊ぶ。楽しい……。

 いけないいけない……私がこんなことをして良いはずがない。私が殺してしまった、食べてしまった親しい人達の顔が頭の脳裏に焼き付いて剥がれない。


 それを悲しいとは思わない。生きる為仕方なく食べた。初めはそうだったのかもしれない。でも、人の肉を食べていくうちに私の中の何かが外れてしまったような気もしていたのだ。


 息が苦しくなり水面から顔を上げる。

 頭に椿の花が二、三枚ほど乗り可愛らしく着飾っている。


「罪滅ぼし……か」

 わけもなくその辺でくたばる方が良かったのかもしれないと今でも後悔している。そうすればみんなが空腹から救われる。そうすれば、私みたいに死ぬ事はなかったって少しだけ救われる気がしたから。旅の後半はずっとそればかり考えていたような気がする。

 こんな事をスラスラと話せる間柄の人は誰一人としていなかった。皆今日を生きるのに大変だったからだ。誰一人として未来を生きようとはしていなかった。あの残酷極まりない日々を。

 まだあの生活をしていたら私は何を考えているのだろうか。

 想像もしたくない。いや、本音を言えばもう分かってしまっているのかもしれない。


『死にたい』って……。

 

 はは……私は死にたがっていたのかな?

 明日は何をしようかな。

 そうだ、あの崖の向こうに行ってみたいな。でも、カレンさんに怒られちゃうかな?

 あれでカレンさんは私の事をよーく見ているから。

 はは……これがしあわせーーなのかな?




 少女は悲しげに自身を傷つけた。誰にも分からぬように。決して分からない心に傷をつけた。


 その傷は癒えない、言えない。

 強張る頬をつまみお風呂からでた。


 ふっわっと香るの花の甘い香りはなんの慰めにもならない。せめて、金木犀でもあればとお風呂場の窓を眺めるのであった。



 お風呂から上がると読みお姉ちゃんか扉の奥にいた。どうやら私の顔を見にきたらしい。

 夜見お姉ちゃんは何も言わずに私の頭をくしゃくしゃに撫でて、飴をくれた。

 一体何がしたかったのだろう……私の目から涙が流れた。ゆっくりと夜見お姉ちゃんは私を抱きしめた。汗臭くて泥臭いお姉ちゃんの香りだ。

 私は久し振りに泣いた。声を大にして泣いた。


 その間夜見お姉ちゃんは私を強く抱きしめてくれた。何も言わず何も聞かず何もしないで私をただ強く優しく抱きしめてくれた。

 

 子供あやす母親のように私を抱きしめた。


 そうこうしているうちにその声を聞きつけカレンさんと師匠さんが私の様子を見にやってきた。

 師匠さんは何も言わずに部屋に戻りカレンさんは夜見を抱きしめていた。

 そっと上を見ると夜見お姉ちゃんも泣いていた。声を出さず涙を私にこぼさないように泣いていた。何があったのだろう。いや、きっと何かがあったのだろう。そうしなければ泣くはずもない。


 私と夜見お姉ちゃんが、泣き止むのに一時間ほどたった。私と夜見お姉ちゃんは泣き疲れそして、一緒の布団に入りいびきを響かせながらその日は爆睡してしまったらしい。

 次の日、師匠さんに子供ってのは単純で羨ましいなと小言を言われたのだが。それはまたの機会に。

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