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やっべ、少し遅れた
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ぐぅ〜〜
誰かの腹の虫が鳴いた。
そう言えば何も食べていない。あの事件がたった日以来私たち二人は何も口にしていない。いや、食べてはいるが、どれも腹にたまらない草や木のみばかりだ。なにぶん実りの少ない季節だ。そうそう食べられる草などそう生えてはいない。
私はウサギか何かか? とツッコミを入れたくなるような具合だが、それでも腹は減る。
腹が減っては戦はできぬと言うやつだ。まぁ、鬼が来たとしても殺すだけなのでそんなに手こずる事はないだろう。
最悪、この子を犠牲にすれば良いだけの話なのでそんなに気してはいない。
どこまでも乾いた感情……。これこそが人なのだと言わしめているかのようだ。
だからなんなのだ……と言われてしまうと言い返せないのが辛い所なのだが、それまでなのだ。
それ以上、それ以下でもないのだ。
それが坂巻 夜見という人間であり。バケモノでもあるのだ。
それがそれ至らしめる理由など大した物などありはしない。
何ら不思議なことではない……。
哲学など、いつ以来だろうか?
悪態をつきながらも、足を進めた。
「……さくらですかーー」
女の子が口を開く。重く閉ざされた口から初めて言葉を聞いた。
何気ない言葉だ。だけど、それ以上の価値がある。とあるコレクターの間ならば幾千万は下らないだろう。
「好きなのか?」
「違う……あの下にはひとが埋まっているから」
「…………そうですか……」
斜め上の答えに少したじろくがそれ以上は言及する事はしない事にした。聞いても答えないだろうし、それに聞きたくもないからだ。
どうせ、碌な答えなど帰ってくるはずもないのだから。
少し歩くと小さな村が見えた。
何か騒がしい……鬼でも出たのだろうか?
子供が私の袖を掴む……心配そうに私の顔を覗いた。
「なに……」
「…………」
口を開く事は無かった。
金はある……最悪服でも買ってやろう。こんなみすぼらしい格好で私の横を歩かれたら世間体が悪い……。
気にするだけの余裕が生まれたのは多分夏帆お姉ちゃんのお陰だ。その意味をしっかりと噛み締めて生きていかなければ。
街の入り口まで近づくと、何か変な仮面を付けた男たちが変な踊りをしていた。
「…………」
「…………」
小太鼓、笛、弦楽器が置かれいろんな人がそれらを奏でる。
聞いたこともない音楽だ。まず、音楽という物を私はあまり好きではない……なぜかと言われれば特に理由はない。
いつも聞いていたのはお爺様のお経だけだったからだ。
「へ〜」
私が感心したように聞いていると子供は何も言わずに躍る男たちの元へと駆けて行った。
「あっ!」
私が声をかけるのも間に合わず、その子供は男に触れた。
そして、高い高いをされて喜んでいた。
???
私が不思議そうに首を傾げていると、徐にその子は私のものにゆっくりと歩いてきた。
表情は無表情のまま。
「どうかした?」
「……」
答える気は無いようだ。
あっそ、私は地べたに腰掛けしばらくそのお祭りらしきものを見物していた。
その間、子供は数人の男たちと楽しそうに変な踊りをしていた。
その様子を近くの椅子に腰掛け見ているとその横に知らない老人が腰掛けてきた。
「見慣れない顔だね……どこから来たんだね?」 「……分かりません」
「そうかい……旅人さん気の向くままに休んで行くといい。この街はそういう人たちが集まる場所の一つなのだから……」
老人ばそう言うと席を立ち何処かへ行ってしまった。
私は屋台に売っていたソーセージらしきものを口いっぱいに食べていた。
暫く踊って疲れたのか少女が戻ってきた。
額に汗をかき、肩も上下していた。相当激しく踊ったのだろう。なぜか頭に仮面も付けている。誰からもらったのだろうか? わたしには分からない。今はそんな事どうでもいいのだけど。
宿でも探そうか? お金なら多少は温い。
美味しいご飯が食べたいのも事実。それにこの子にも人間の肉以外の食べ物を食べさせて本当の食事を教えなくてはならない。
しょうもない自尊心を保つ為の道具とかしている少女をどう扱うべきか悩んでいるというのも言い訳になるだろうか?
そんな事はまぁ
あとあと考えるとしようか。
松明がメラメラと燃えている。太陽は隠れて少しずつ暗くなっていく。
人々はより一層声を上げて盛り上がっていく。
そんな喧騒の最中、私たち二人はただそれを見るだけしかできなかった。
アルコールの匂い、くり抜かれたカボチャ、魔女のような衣装……これらを見て人々は異形の祭りとはやし立てるだろう。
全くなにがしたいのか分からない。あらゆる食材をテーブルに並べ、それらを吟味する人々。
あれがなにか、それに楽しいかも分からない。
きっと美穂お姉ちゃんとかが居たら教えてくれたかもしれないけど……私には理解が出来ない。
べろべろに酔った若い娘達が男達に襲い掛かりなぜか服を脱がしているのも気になるし、子供たちはへんな呪文を唱えている。
一言で表すならば恐怖でしかない。
まだ、四月の上旬。
この祭りは一体……?
「収穫祭だよ……」
先ほどのご老体がわたしに話しかけてきた。
「収穫祭……ですか?」
「あぁ、そうじゃ。去年の末頃出来なくてな。それで、今日という訳なのじゃ。この村の冬は長く開けるのにも時間がかかる。そして、やっと冬が明け秋になったのじゃ」
「それで、収穫祭と?」
老人はゆっくりと頭を上下させた。
日に照らされたご老人は歳にして60過ぎくらいだろう。服装はダバダバの紺色の着物。履物はスニーカーと若干現代風にアレンジされている。
顔にはシワが沢山ある。手の皮なんて持ち上げれば数センチも上がりそうな勢いだ。
「そんな可愛らしいお嬢ちゃんだったんだね。先程まで下を見て俯いていたから顔がわからなかったよ。それにしてもまだこんな年端もいかないような女の子が旅かい……また、大層なことを考える親たちだね。あれかい? 可愛い子には旅をさせろってやつかい?」
まくしたてるように老人は言う。
その言葉についていけずしどろもどろしていると、すっかり眠りこけてしまった少女が目をこすりながら起きてきた。
「おや、起こしてしまったようだね……」
「おーい、爺さんこっちに来て一緒に酒でも飲まないか?」
街の若い人達だろう。少しおちゃらけた格好だ。
田舎もんって感じがする服装だ。髪もそんなに整えられているわけではなさそうだ。
サラサラヘヤーかな?
そんなことを考える。




