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少女は刀を握り姫となる!剣姫〜いざ行かん  作者: 榊 凪
1章 幼少期 殻を破る時
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遅れてごめんなさい

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 暫くして夜見は目を覚ました。


 血の気が引いている夜見の顔は少し青い。身体に巻いてある包帯には血が付いていた。


 意識が朦朧とする中、扉の外から聞こえる叫び声が耳に刺さる。

 その声で頭がズキズキと痛む。

 眉にしわを寄せ、耳を背けた。


 カーテンから見える景色は赤く、でも夕日のそれでは無いようだった……。

 床が熱い……まるで建物自体が発熱しているようだ。

 病院が燃えているのか? そう憶測が飛ぶのも仕方のない事だろう。


 鼻が効くようになると、煙の香りがする。

 木が燃えてるとかそんな生易しいものではない。例えるならば生臭い何かが燃えているような……。

 …………ヒトーー?

 あぁ……鬼に殺された人達が燃えているのかーー。

 不甲斐ない自身を悔やみ唇を噛む。ちくりと小さな痛みが口に広がり吐き気を催すがお腹の中に何も入っておらず、胃酸だけがドボドボと口から流れてくる。

 イガイガする喉に違和感を持ちつつ唾を吐き捨て、何とか四つん這いになることに成功した。

 その間も、包帯と包帯の切れ目からはポタポタと赤い血が垂れてくる……。


 赤ちゃん歩きで、扉まで行き上体を少しだけ起こし重く硬い扉を必死な思いで開ける。



 何これ……?


 扉を開けた先に見たものは…………。


 ◇



 阿鼻叫喚の灼熱地獄。


 より一層生臭い何かが燃える臭いが鼻に付く。肺が腐るようなその腐敗臭は頭を混乱させる。


 先ほど吐いたばかりなのにまた吐きそうになる。口元を手で押さえ込みなんとか胃酸の逆流を防ぐ。

 辺りに誰もおらず、ただ誰かの叫ぶ声のみが聞こえた。


 朦朧とする意識、沸々と煮えたぎる怒り……とうの昔に痛みを忘れ夜見は地に足をつけ刀を支えにし歩いた。



 辺りに落ちているのは人の手や足、内臓なんかも撒き散らされている。これをやった犯人に目星がついた。こんな無残で情のカケラもないやり方……鬼しかいる訳がない。


 カタカタと震える右手を左手で抑え込む。


 殺してやる……。


 明確な殺意だけが夜見を突き動かす。


 口から少しばかり血を垂らす。


 私は何故こんな体に……。

 たが、今はそんな事を気にしている暇はなかった。

 先ほど私がいた病室から火を噴く。

「……出てきて良かった」

 少しばかりの幸運を噛み締める。


 背中から伝わる熱気を全身に浴びそれを推進力として前へと進む。



 暫く歩くとエレベーターが見えたが、ボタンを押しても反応してくれない。多分乗った所でそのまま落下するのがオチだろう。

 階段まではまだ少し歩かなければ行けないが、自殺行為をするよりかは幾分かマシに思える。


 歩くたび足の先から血が落ちて小さな水たまりをいくつも作る。

 血が少なくなってきたせいか指先の感覚が少しづつ薄れていくのが分かった。




 階段を見つけた。


 そこには屍の山が築かれていた。皆一様にバラバラにされ所々を食い千切られている。まだ燃えていないのが幸いだ。だが火が付くのも時間の問題だろう。

 猛烈な吐き気が咄嗟に訪れる。

 口元を抑えるが止まらない……。


「ゲホっ……ペッーー」

 出てきたのは黒い血、まるで鬼のように臭い血だった。

「私も鬼になるのかな?」


 希望と絶望が降り混じる。


 楽になりたいという気持ちと生きたいという生々しいほどの欲が加速していく。

 頭が割れるように痛む……まるで鉄で出来ているトンカチで殴られたような鈍痛。



 階段をゆっくりと降りる。と言うよりかは屍を踏みながら歩くといったほうが正しいのだろうが。


 目線を階段のそばに移せば餓鬼が人の肉を食らっていた。悍ましいその姿に夜見はすかさず刀振るい首を落とす。

 悲鳴をあげる事なく餓鬼は沈黙した。


 ギャァギャァと騒がしい餓鬼の声が耳に入る。

「まだいるの……」

 目まぐるしく変わる状況に若干の押される。


 助けて欲しいと願うことさえ罪であるかのように……生きると言うことさえ簡単に踏み躙られるような、絶望しか与えられない世界のような、終わりがそこにはある。


 生きている人間を見つけた餓鬼は其奴に群がりその口に生えている鋭い牙でその人間を喰らう。

 夜見はそれを見た……が助けに行けるような体ではない。夜見自身も満身創痍なのだから……逃げ切れなかったもの争う力が無かったものから喰われていく……。


 ため息を落とし、抜いた刀を引きずりながら歩く。

 刀はとても長く鋭く夜見が扱うにはデカすぎる代物だ。

 よって引きずることしかできない。それに重さ一つとって見た所でもそれは言えるだろう。



 一階まで夜見は降りた。


 病院のガラスは全て粉々に砕かれている。カウンターには人の山、床には赤く染まっていないところなどどこにも見当たらない。


 待合所に置いてあった椅子は遥か彼方に飛ばされていた。


 地面には剣で傷つけられたような跡が点々と見つかる。そして、決まってその場所には手や足その他ひとの一部が無造作に捨てられていた。


「……酷いーー」


 そんな事しか口にできない。


 阿鼻叫喚地獄ここに極まりと言った所なのだろうがそんなに悠長にしていられる時間は私にはあまり残されていないようだ。


 ひしひしと殺気が私にぶつかる。

 四方八方から痺れる程の殺意。否これは殺意ではない……食事と言った所なのだろう。

 何故なら鬼たちの口からは涎が垂れているからだ。殺意を持った奴は口から涎なんか垂らすはずもない。垂らす時は美味しそうなものを見たときだろう。それは人とて変わるまい。それに、あいつらは元々は人間……それならばその条件も当てはまることは間違いないのだから……。



 ずらりと鬼たちが私を囲むように並んだ。

 何故気がつかなかったのだろうか? これ程の殺意を向けられて気がつけなかったのだろうか。

 もともとこれは罠だったのかもしれない。食欲は時に意外な知恵を生む事もあるだろう。


「はぁ……付いてないな……」

 夜見は小さな声で呟いた。


 真正面にいた鬼が我慢出来なかったのだろう私に真正面から突撃してくる。


 刀を前に突き出す。


 ふぅーー。

 坂巻流剣術……四式、雷天。


 痛む体、軋む腕、酷く痛む頭。その全てを無視し繰り出される剣戟はまるでカミナリの如く切り刻む。

 青くたなびく光を出しながら、次々と鬼の首を切り落として行く。


 切り落とされた首はキョトンとした顔で死んで行った。


 雷鳴の如くその神速は誰にも止められはしないだろう。あっという間にそこに並ぶ餓鬼共は余生を楽しむ間も無く命を散らした。

 ゼェゼェと荒い息をし残敵がいないか目だけを動かし確かめる。

 あたりに気配はなく、物音一つしない。

「はぁ……」

 ため息を一つ小さくこぼす。包帯でぐるぐる巻きにしてある傷口は何故か塞がってしまった。

 痛みもだいぶ減りまともに体を動かせるようになった。多分カサブタが出来たのだろうか……?


 腰を落とし唾を吐き捨てる。

 だいぶ口から出る血が少なくなったのはいいが喉が痛い。何か飲み物が欲しいところではある。


 辺りを見渡すが水道らしきものは無い。あるのは鬼の血と壊れかけた自販機。


 重過ぎる足を引きずるように歩き、自販機の元へと歩いた。


 途中、死にかけの人に足を掴まれるような感覚が夜見を止めた。

 足元を見るとただの死体があった。目には光がなく、ただ、こちらを見ているような気がした。

 そっと目をそらし、足を振り払うようにその場を去る。

 いくつもの怨念が、苦しみが憎しみが渦巻くように夜見を囲うようにして回っているような気がした。そして、刀がその血を恨みを憎しみに反応し、ドクンドクンと波打つように血管を膨張させる。


 黒い瘴気が人々の体から湧き出る。ドス黒い感情に支配されたその瘴気は刀へと吸い込まれていくようだ。

 まるで、水を与えた魚のように生き生きとし、更に脈打つ。


 赤黒く発光し、目玉や口から血を流す。刀は少しだけ重くなった気がした。



 やっとの思いで自販機の前に立つことが出来た。

 ポケットを探るが、お金は入っておらず何も買えない……。夜見は辺りを見渡した。


 どうやら周りに人の気配はなさそうだ。


 刀を上段に構えて、振り下ろした。


「えいっ!」

 短い掛け声とともに振り下ろされた刀は何の抵抗もなく自販機を真っ二つにし、中からドバドバと炭酸飲料が吹き出て来た。


 それを夜見は一身に浴び、体についた血を落とす。床に落ちているペットボトルのお茶を一つ拾い上げ、キャップを開けた。


 床に落ちたペットボトルには何の血かわからないが汚らしく汚物のように付着していたが、そんな悠長な事は言って居られない。


 飢えた狼のようにお茶を飲み干し、その辺に投げ捨てた。


 ぐうっ〜〜。


 腹の虫が唸るような声をあげた。

「お腹すいた……」


 お茶を飲んだせいがお腹まで空いて来た。緊張感のカケラもないと夜見は苦笑するが、無いものは仕方がない。

 落ちているドリンクを幾分か近くに落ちて居た袋に入れ、その場を後にした。









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