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少女は刀を握り姫となる!剣姫〜いざ行かん  作者: 榊 凪
1章 幼少期 殻を破る時
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俺の性癖をとくと刮目せよ!

なんて……

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 坂巻流剣術……居合、参式……神威カムイ


 鬼の心臓が貫かれた瞬間だった。


 何も知らず歩く鬼達の背後に突如として現れた夜見は刀を前に突き出した。


 そして、突き出された刀は鬼の心臓を見事居抜き、絶命させた。



 神威とは、鬼の背後に飛び鬼に気づかれる前に心臓を貫く技の一つであり。坂巻家に伝わる全八つの秘儀の一つである。


 心臓を貫かれた鬼は口から大量の血を吐き絶命した。


「ハァハァハァ……」

 荒い息を無理やり整えようとし深呼吸をするが肉体の限界を突破した技は一時的に体の機能を全てを麻痺させる。


 それに、経験も浅く体力の配分もままならない。言うなれば常人が百メートル走を休みなしで何十本も走らされた後のような筋肉の硬直と立ちくらみに似た目眩、それに加えて軽い吐き気。これらの全てが夜見の体を蝕む。


 坂巻家に伝わる全八つの技は禁忌として扱われる技ばかり、一度使えば激痛が体を走る。夜見は訓練されていてこれである。常人がやったら死を覚悟した方が良い。その反面技の威力スピード正確性においては他の追随を許さない物であるのもこの技のメリットではある。



 辺りを見渡す……どうやら気付かれたようだ。

 鬼達は私を見つけたのを喜ぶかの様に自身の持つ武具を地面に叩きつけたり、口をあんぐり開け手に持つ人の顔を口に放り込んでいた。お弁当感覚なのだろうか。


 しかしマズイか……。



 仕方がない……まともに戦っても仕方がないか。



 坂巻流剣術……貳式、村雨。



 瞬光を得意とする坂巻家に伝わる禁術の一つ。



 刀を地に突き刺し呪いを、力を溜め一気に解放する技。


 次第に地面から赤黒い霧が立ち込め鬼達全てを覆い隠すほどまでに広がる。


 そしてこの技、この霧は猛毒であるが故にこの霧を吸ったものはもがき苦しみながら死ぬ。

 その状況を見た時、まるで血の雨が降っているかの様に見えたためこの技名が付けられたとされる。


 無論、この技のデメリットは存在する。猛毒を噴出させるという事は自身にも少なからず毒が回るという事そして、その兆候はとても早い。いくら息を止めようと体を毒に触れないよう逃げたとしても範囲内に居る限り死は免れない。


 そして、十秒ほど経った頃夜見は猛毒に侵されていた。


 夜見は刀を地面引き抜くと同時に霧が治ったのを確認すると力なく地面に倒れた。



 ◇


 目を覚ましたのはその日の夜のことだった。

 星が瞬き荒れ果てた街を照らす。辺りには生きた鬼はおらず皆死んだ。安堵感と禁忌を二つも犯してしまった罪悪感が夜見を蝕む。

 それでも今を生きているという幸福感だけがせめてもの救いでもあった事は言いようがないだろう。


 大きく深呼吸をし体に不調がないか触って見たり動かして見たりと弄ってみるが特に異常はなく先程吸ったであろう毒はすっかり体から抜け落ちているようだった。


 刀を支えにして起き上がると街の様子がちらほらと眼に映る。

 また派手に私は壊してしまったか……。


 決め台詞を考えつつ、刀を杖代わりにして辺りを見て回ることにした。


 月明かりでは見えるものも見えないが全くではない……せめて今日の寝床くらいは見つけなくてはならないからだ。土の上で寝るなんて乙女がする事ではない……。

 そんな理由を自己完結させ荒れ果てた大地を覚束ない足取りで散策する事十五分程……布団とカビの生えかけた小さな小屋を見つけた。


 布団は少し湿っているがこの暑さだすぐに乾くだろう……汚れてしまった体を洗いたいがなに分お風呂やタオルの類もない。仕方なく我慢するほかなさそうだ。


 グゥ〜ゥ


 腹の虫が騒ぐ。

 そう言えば昼頃からなにも食べてない。

 小屋の中を見渡すが落ちているのは藁や紙切れ。食べれない事はないが栄養不足で死んでしまいそうだ。仕方なく食料調達のため小屋の周りを散策してみるが落ちているのは人の骨と先程殺した鬼の亡骸しかない。

 人の肉を食べるのは人道に反するとしてお爺様に教えてもらった事があるが、かと言って鬼の肉を食べるのも躊躇われる。



 と言っても幼い頃鬼の肉を食べていた事には変わりわないのだが……やはりあの時の食感や味、臭いなどが頭に浮かび伸ばした手を夜見はもう片方の手で押さえた。


 もう少しだけ探すか……。


 ◇


 かれこれ一時間は歩いただろうか?

 先程まで居た小屋はあんなにも小さく見える。半壊しかけた家を見つける度に戸を開け食料がないかを見て回る。三日月が頭上に登る頃にはフクロウが鳴き、コウモリが夜を統べる。

 石を投げて見ても当たる訳もなく、これ以上エネルギーを浪費する訳にもいかず重い足取りで小屋へと戻った。


 トボトボと歩く事一時間半……道中で見つけた毛布を片手に、夜見は小屋に入り死んだように眠った。これから来る災難に備えて。



 次の日の朝、夜見は空腹と痛みによって目を覚ました。

 筋肉痛なのだろうか、全身が軋むように痛い。身体のあちこちを弄って見ると所々切り傷やアザ、肉が削がれたような後もあった。

 これで痛く無いわけがない……。これ程までに昨日の戦いでは激戦だったと言うことが目に見えて分かる。


「お腹すいた……」


 たった1日食事を摂らなかっただけで人はここまで衰弱出来るものなのかと夜見は思った。だが鬼の肉には手を付けられなかった。身体が脳が鬼の肉を口に入れることを拒むからだ。

 触ろうとしただけで脳裏にあの味や食感が蘇る。

 その度に吐き気を催し、食道を痛める。

 胃液ですっかり酸っぱくなった口を袖で拭い、朝飯探しにへとその辺を彷徨くのであった。




 少し歩くと餓鬼が昨日倒した鬼の死体を貪っていた。こいつらは肉とあらば何でも食べるのだな……刀を手に取り貪欲に貪っている餓鬼の首を刎ねた。

 鮮血が舞い夜見の服に飛び散った。

 腐った鉄の匂いと酸味がかった匂いが鼻腔を刺激する。思わず漏れた胃液を夜見はまだ止めるすべを知らなかった。

 口をパクパクとさせ、絶命する餓鬼達は各々涙を流している。死ぬときは人になれるのか?

 あの青鬼と言い赤鬼といい皆一様に涙を零していた。

 夜見は餓鬼の腕を持ち上げた。

 柔らかくてムチムチしている肉、先程まで生きていた生きのいい肉、腹の虫はうねりを上げ夜見を苦しませる。口からは涎が垂れる。目は据わり口を開けた。

 そして、無意識の内にその肉を口に運ぼうとしてしまった。


「はっ!」


 自身の過ちを悔いる様に腕を投げ捨て、山の様に積み重なっている鬼の頭蓋に刀を突き立てる。歯茎をガタガタと震わせ、腕には鳥肌が立つ。目はおかしな挙動を取り衰弱する夜見を無へと導く。


 何も考えたくない……何も感じたくない……何も知りたくない……ただ、腹が減った……。


 何も見えていない眼球を手で覆い隠し肺には深呼吸をし大量の空気を、歯は食いしばり震えを止まらせる。


 次第に落ち着いてきた自身の体を慰めるかの様にゆっくりと撫で下ろし息を整えた。



「兎に角、食べられるものを……」


 野草の一つも生えていないこの廃墟は人が住むには過酷すぎる物がある。




 歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き歩き続けた…………………………。



 気が遠くなるほど歩いた。


 お腹が空いた。




 そうして、一週間が経とうとしていた頃……。



 手足は元の半分ほどの太さになり、顔にはシワが幾重にも重なる。着ていた服には鬼の血が大量に付着し黒く染める。刀を握る手には既に力は入っておらず、殆ど気力だけで歩いていた。


 目はどんどん霞んで行く。霞んだ目でも敵は判別出来る。鬼か来たならばすかさず刀を抜き最小限の力だけで鬼を殺した。

 だが、その力ももうない。次鬼が来たら私は死ぬのだろう……。そう感じる事も辞めた夜見はカピカピの唇をパクパクと動かす。



 天気は曇り、今にも雨が降って来そうな曇天だ。


 夜見の額に冷たいものを感じた。

 ひたひたと雨が降り出した。


 口を大きく広げ、雨水を口に流し込む。

 久し振りに水を飲んだ事に胃がびっくりしたのだろう、何度もむせ返しまたそれを手で掬い口に入れ胃に流し込む。


 夜見は喜んだ。これまでにないくらい喜んだのだ。ただの雨水だろうが、何気ないこの雨が夜見を喜ばせた。そして、この雨は止む事なく二日間大地に降り注いだ。


 満面の笑みを浮かべた夜見は事前に用意していた茶碗やバケツなどを小屋の前にずらりと並べ雨水を蓄える。

 小屋の天井からの雨漏りがこんなにも嬉しいだなんて!


 三日後……すっかり止んでしまった雨は夜見の体と心を一時的に癒してくれた。救いの雨だ。


 だが、問題は山積みだった。何せ食料が無いのだから。この一週間見渡す限りの廃墟に潜り込んだが、食料らしき物は何一つ見つからない。

 あったとしてもカビて苔の生えた缶詰や下水管に詰まっている糞尿、枯れて倒れた木、そして、自身が倒した鬼の死体だけだった。


 どれも食べられない。


 糞尿なんて目にすら入れたくも無いし、腐った缶に至っては開けることすらはばかられる。


 お爺様……助けて下さい……。私はどおしたら……。








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