表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
&DEAD  作者: メアリー=ドゥ
第3話:ポーカー
28/41

終章:契約の悪魔


 20日前の病院で。


「仲間を助けるために、協力して欲しいんや」


 フミは、リョウに言った。


 リョウの父親がしたこと。

 その理由。


 聞いたリョウは、最初驚き、次いでショックを受けたように胸を押さえた。


「俺の為に、サエが……?」

「俺らはサエとまといを助けたけど、事は完全に終わってへん。裏で糸引いた奴が、まだ生きとるんや」


 フミは、真剣な顔で言う。


「お前のオヤジに依頼を撤回させて、ソイツを誘き出すために、協力して欲しいんや」


 じっと、フミの言葉の意味を噛み締めたリョウは。

 しばらくして顔を上げ、フミに言った。


「俺はどうすればいい?」

「やって欲しいことは、二つ。俺達はまずお前のオヤジを追い込む。その時に、電話越しに芝居を一つして欲しい」

「わかった。もう一つは?」

「お前はその芝居の後、オヤジに会うはずや。その時に、お前のオヤジは絶対にもう一度、サエに手を出したヤツに俺らの始末を依頼する。それを、黙って見届けた後に」


 フミは、片頬を上げた。


「オヤジに、俺らに言われたこと、全部バラして、もう手を出さすな」


「何故?」

「後は、俺らがやるからや。オヤジの事は、お前らの好きにしたらええ」

「……わかった」


 リョウがうなずいたのを確認して、フミはリョウから離れた。


「また連絡するわ」

「ちょっと待って」

「ん?」

「その……いいのか? 俺が父さんに全部バラすかも知れないとは思わないのか?」

「するつもりなら、そんなこと聞けへんやろ」


 フミは肩を竦めた。


「それにな、俺は別にどっちだって構へんねん。もしお前が裏切ったら……」


 フミは目を細めて、冷たくリョウを見た。




「その時は、ホンマにお前を攫うだけの話やしな」




 リョウは、溜まり場では見たことがないフミの表情に、息を呑んだ。


「なんで、そこまで?」

「あん?」

「春樹や君にとって、サエやボクは……なんの関係もない人間だろう?」

「ま、確かにそうやなぁ」


 フミは、軽く肩をすくめる。


「でも、冬子とサエには関係あるし、冬子と春樹には関係あるし、順次とノブは関係あるし、春樹と順次には関係あるねん。ただそれだけのことやろ?」

「……よく分からないな」


 フミは、戸惑うリョウに向かい、楽しそうににやりと笑った。


「簡単なこっちゃ。惚れた女や親友が勝手な思惑に巻き込まれたことが、春樹には心底気に食わんかった、っちゅ〜だけの話やねんて」


※※※


 順次がサエの病室を訪れたのは、丁度フミがリョウの説得をしていたのと同じ頃。


「力を貸して欲しい」


 自己紹介すらせずに、順次は喋り始めた。

 お互いに無表情な二人は、ともすれば敵対しているようにも見えただろう。


 だが、実際には。

 順次は淡々と事実を語り。

 サエは正確な理解とともに黙って聞いていた。


 彼女の父親が、兄とツレの手を切らせようと&Dに依頼したこと。

 その中に駒道がいて、サエがそれに巻き込まれたこと。


 春樹が、これ以上被害が広がる前に、それを止めようとしていること。


「お前を助けたい」


 順次は起こったこと、これから起こることを語り終えて、サエに言う。


「正確には、冬子がお前を救いたいと願っている」


 順次は、全てを正直に語る。


「そんな冬子や春樹は俺の仲間で、俺は仲間を助けたい。そして同時に元凶を始末したい」


 淡々と。平坦に。

 自らの想いを真摯に語る。


「信じられないなら冬子に確認してもらって構わない。ただ、実際にお前と行動をともにするのが俺だから、俺が来ただけだ」


 言いたいことを言い終え、順次は最後に一言加えた。


「頼む」


 その言葉を。

 表情を。

 声音を。

 想いを。


 その全てをただ冷静に観察し、受け止めたサエは。


 嘘偽りを全く感じない、と頭で判断し。

 何より、順次の潔さを心で気に入って。


 ただ一つだけ、うなずきを返した。


 そして、春樹の策略の概要と、自分の役割を頭の中でお浚いし、順次に言った。


「私を縛りなさい」


※※※


「グル、だと……?」


 愕然とする父親に、サエはさらに言う。


「あの写メも、私のアイデア。きっと、ああしたほうが父さんは怒ると思ったから」

「私を怒らせて、なんの得がある?」

「結果的に、春樹の思惑通りに、お父さんは動いたでしょう」


 サエは、それ以上喋ることはない、とでも言うように、父親から目を反らして窓の外を見た。


「父さんは、もう何もしなくていいんだ」 


 そんなサエの後を、リョウが引き継ぐ。


「その&Dは、彼らが始末してくれるらしいから、ね」


「何故、そんなことに協力した!」


 父親は怒鳴った。


「お陰で、私がどれだけの恥を掻いたと思っている……ッ!」


 二人の子どもに裏切られていた事実に激怒する父親に、しかしリョウは冷静に、追い打ちをかけるような言葉を返した。


「父さんがそういう気持ちになることが、父さんに対する罰だって、春樹は言ってた」

「罰だと!?」

「そうさ。だって、サエがこうなったのは、元はと言えば父さんのせいなんだろう?」


 父親は、一瞬言葉を失った。

 それは確かに事実だ。


「……だからこそ、私がこの手で始末をつけるべきなのだ!」

「始末をつければ、サエがこうなった責任まで消えるとでも?」


 リョウの目に、はっきりとした怒りがよぎる。


「そうやって父さんが、自分を誤摩化すことが出来ないように、春樹がしたんだ。だからこそ、それを罰だと言ったんだ」

「亮……ッ!」

「自分のやったことを、真っ正面から受け止めて、謝れよ、サエに! それが俺の望むことだ! 復讐なんかで償った気にはさせないからな!」

「―――ッ!」

「もし仮に、父さんが春樹や犯人に手を出したと分かったら、俺が悪滅道のご隠居に密告する。そういう手はずになってるんだ」


 父親は。


 ここに来てようやく、子どもたちが味方ではないという事実を受け入れた。

 彼らは初めから、自分に罰を与える為にこの件に加担したのだと、理解した。


 復讐の道を断たれ。

 激昂の波が過ぎれば。


 父親の頭脳の回転は速かった。

 悪滅道の手前、他に表立った手は全く打てない。


 また、子どもたちの裏切りが分かった今、コケにされたこと以外に春樹に手を出す理由が本当になくなった。

 メンツを保つために行動することは、男性にとってはあくまでも示威行為であり、手段でしかない。


 目的では、ないのだ。

 彼は、心底ビジネスマンだった。


 どうせこの件は、外部にはバレない。

 修羅交差会組長預かりの件であり、代理人の悪滅道組とて、こっちが動かなければその件を持ち出すことは出来ないのだ。


 ならば、これ以上春樹らに手を出すメリットがない。

 子どもの命は二度と狙われず、金も支払わなかった。


 結果として、あの勝負の数十分以外に、父親は何も支払っていないのだ。


「よく分かった」


 彼は、うなずいた。

 苦々しい表情で白旗を上げる。


「この件は全て、お前たちの言う通りにしよう。……済まなかった、サエ」


※※※


 全ての事実関係が明らかになり。

 全ての真実を知った冬子は。

 春樹に、こう伝えた。


 ―――許せません。


 春樹は、口角をつり上げる笑みを浮かべた。

 そして、悪魔のように囁く。


「なら、どうするんや?」


 春樹の。

 少し垂れた薄い茶色の目が、誘惑するような色を浮かべる。


 八重歯の覗く口許が小さく動き。

 微かだが、力強い声音が発せられた。


「―――殺すんか?」


 冬子は。

 その言葉に、思う以上に衝撃を受けていない自分を知る。


 殺す。

 まるで当然の報いだと、言いたげな春樹を見ながら、言葉を反芻する。


 そして思う。

 出来ることなら、


 ―――自分の手で、殺したいくらいです。


 顔に、出ていたのだろうか。

 冬子を見ていたフミが首を左右に振り、順次が軽く目を伏せる。


 春樹は言う。

 まるで、冬子の心を読んでいるかのように。


「なら、そうしよか」


 春樹は立ち上がり。

 冬子の両肩に手を置いて。


 楽し気に、愉し気に。

 冬子の顔を、覗き込む。


 間近にその顔を見て、冬子は。


 ―――そういう顔をしている春樹は、恰好良いです。


 そう告げて、淡く頬を染めた。

 春樹は嬉しそうに口を冬子の耳元に寄せて囁く。


「ありがとう、トーコ。……犯人を誘き出して、俺らの手で始末する。そんでええな?」


 冬子は、自然にうなずいた。


 恍惚と。

 まるで、悪魔に魅入られた魔女のように。


「サエとリョウの父親はどうするんや?」


 春樹の問いかけに、冬子は思う。


 もしかしたら。

 そんなお父さんでも。

 死んだら、リョウとサエは悲しむかもしれない。


 だから、サエに聞いてみようと思った。


 ―――とりあえず、殺さない方向で。


 冬子は春樹にそう伝える。


 ―――でも、彼にも罰を。


 そんな冬子に、春樹は満足そうにうなずいた。


「おおせのままに、ミス・クライアント」


 そうして、芝居がかった仕草で薄暗い店内の一人一人を掌で示す。


「俺と、順次と、フミと」


 そうして、鮮やかな手品で一葉の写真を空中から手に取った。


「リョウと、サエ」


 楽しそうに写真の中で笑顔を浮かべている二人が、冬子の目に映る。


「トーコ」


 春樹は、愛おしそうに冬子に呼びかける。


「喜んでええで」


 どうしようもなく妖しく。

 嬉しそうに、残酷に。


「こと、この件に関しては」


 今にも蕩けそうな。

 この上なく魅力的な笑顔で。

 春樹は告げる。


「お(プレイヤー)の手札は、最強のファイブカードや」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ