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私が二人に気を取られてい時――カグマに異変が起きていた。
「これは……」
殴った腕に絡まった藁の人形。
巻き付いた部分がどんどんカグマへと浸食していく。
「おおおお!」
獄炎流では無く――普通の『魔法』として火を操る。
藁人形は燃えて灰となる。
その時を待っていたのだろう――今度は泥人形がカグマを襲う。
「くっ」
泥人形は炎が燃え移る事なく動き続ける。攻撃を受けた際は柔いのだが攻撃するその拳は道場の床をたやすく砕く。
「くふふは。どうですか?」
そう言う事か。良く見ると、乱雑に作られた訳でなくきっちり泥と藁の人形に分かれて作られていた。
その数の多さに気にしてはいなかったが――この兄弟、しっかり考えている。
「中々やるではないか……」
打撃を藁で受け、炎を泥で受ける。
その厄介に嫌らしいコンビネーションにカグマは苦戦しているようだ。確かにそのコンビネーションは厄介であろうが、それはカグマ一人だった場合だ。
「魔刀――火衣+回転シキ拳銃。弾丸――風弾」
これならば藁も燃やして泥も壊せる。『魔法使い』は違う属性を同時に使えないが【核】は別だ。
そしてそれに道具を使うことで――その特性を更に高められる!
回転シキ拳銃は【核】を込めた弾丸を放てる。
火衣に使われている属性は『火』。
回転シキ拳銃に込めた弾丸は『風』。
二つの属性を使い分けることが出来る私ならば――この人形はたやすく突破できる。
「泥人形を弾丸で、藁人形を刀で切り裂く。この程度ならば――私でも勝てる!」
使い分けが出来る【核】の強みが生かされる形となった。
数は多いモノの一体が弱い人形。
この程度の『限定魔法』ならば、なんとかなりそうだ。私が相手をすればカグマの相手も減る。
数が減ればカグマも対処しやすくなるだろう。
「ほほう。戦えるではないか」
「当然だ。あれは前フリだからな」
こうした方が盛り上がるからな。恰好を付けてそうは言ってたが、次から次へと湧いてくる人形に私の体力はなくなっていく。
「あいつらの魔力がなくなるか、儂らの体力が先に尽きるかか……」
「だな。何とかして本人をたたければ」
ちらりとカグマを見る。
今はまだ大丈夫そうではあるが――心配だ。人形が多すぎてあの双子がどこにいるのか見失ってしまっている。
そんな中、声だけが道場へと響く。
「くふふは。それなら一匹を強くしよう」
「はふふく。それなら一匹を速くしよう」
二人はそう言うと作られていた人形の数が減る。2体で一体へと変貌するがそれでもまだ多かった。
泥人形はゴーレムへと。
藁人形は馬の様な形へと変化する。
「おいおい……」
姿形が変わっただけでこんなにも効果が変わるのか――。藁の馬は素早く動く為に刀は当たらない。密度の高いゴーレムに弾丸は弾かれ崩せない。
「くっ、こいつら。ちょこまかうざいし、堅いし」
数も多いし使い分けも出来るしどれだけ使い勝手のいい『限定魔法』だ。やはり私では勝てないのか?
「案ずるな、シキ殿。それならば儂も使うまでだ」
カグマが私の肩に手を置いて前に出る。
「何を言う。貴様はもう……」
「『限定魔法』――獄炎極」
体と炎を同化させる『魔法』。
確かに身体は極限まで高められて炎を纏う。その状態ならゴーレムも馬藁人形も倒せるだろうが――獄炎極は体への負荷がでかい。そして、もうカグマでは――。
「もう体が着いて行かないはずだ!」
「くふふは、その通り。あとは自滅を待つだけだ」
双子の人形遣いの姿が現れた。ハイタッチをして喜び合う双子の兄弟。ここまで計算していたのか。頭の切れる『魔法使い』だ。
「おおおおおおおおおおおおおおおお!」
「何!?」
次々と藁を燃やし泥を破壊していくカグマ。どれだけの負担が体に掛かっているのだろうか……。
皮膚が焦げ始ている。その痛みに耐えて拳を振るい、人形を倒していく。
「もうよせ、カグマ! このままでは死んでしまうぞ!」
かなりのペースで人形が減っていく。
カグマの行動は予想外なのか慌てた二人は最後の『魔法』を使用する。
「くっ。いい加減諦めろよ――ジェシーあれやるぞ!」
「分かったよ。兄さん」
『土偶木偶』
全ての人形が崩れ、一つの人形になろうと一か所に集まっていく。
藁も泥も関係なく混じり合いながら巨大な人形へと作り上げあられる。
「「これが最強!」」
天井に当たるほどでかい人形。
二人は声をそろえてその強さを強調する。
「はあ!」
獄炎極の状態のカグマ。
先程までのゴーレムも馬の藁も簡単に倒せていたのにこの人形にはダメージすら残せていない。
泥と藁で強化された人形。
それを前に一撃で決める積りであったカグマ。
「強力な『魔法』に対して――カグマはもう」
炎と化したカグマの勢いは弱弱しく、ほとんど生身へと戻ってしまっている。
獄炎極――体を削って強くなる魔法。
老いてしまっているカグマにとって――相性は最悪な『魔法』へと変わってしまっていたのだ。
ならば、さっさと王を誰かに渡せばいいのだが――。
「ニックか……」
愛弟子――息子がいるからやめれなかったのか。
王をニックに渡すつもりで――本当に状に厚い男だ。
「ただいまー! って、うわ、なんか泥臭いよ」
「帰ったぜ、カグマ? 何だこの野草臭さ」
二人の『魔法使い』が帰ってきた。
『異世界の魔法使い』は泥臭さに反応し、『王の息子』は草の匂いに反応した。
頼りになるようでならない二人の男は巨大な人形を前に――状況を理解できていなかった。




