08
「あー、気持ちよくね? つーか、満足じゃん」
首輪を付けられ冷たい石に倒れている私――女王である私がこんな目に合うなんて許せない。
私は主導権を握られるのだ大嫌いなのに。
こいつ――知ってて技とやってやがる。
「シブキ……」
こんな目に合わせた相手を思い切り睨みつける。『魔法』が使えればこんな奴に好き勝手されないのに。
「あ、そんな睨むなって。その首輪――外してやるからよ」
パチンと首の方から音が聞こえ、首輪が地面に落ちた。外れた瞬間に体に力が戻っる。
これなら思う存分に戦える。
「ほら、立てよ。女王様――こっからが本番だろ」
「なめた真似してくれちゃって♡――『限定魔法』」
愛嵐舞。
あの『異世界の魔法使い』にはやぶられたけど、普通の魔法使いになら負けはしないのよ。
私の『魔法』は生まれた時から誰にも止められない。
私が負けたのは相手が『異世界の魔法使い』だったから――あれは例外だし。
「はは、これすごくね?」
首輪がなければこんな牢獄など簡単に壊せる。
牢獄もろとも私は吹き飛ばす。
「はは、これで終わりなの♡ まだまだやり足りねーぞ! お前が私を支配しようなんて、その罪はでけーんだよ」
牢屋と共に吹き飛んだであろうシブキを探す。私を怒らせたんだから――この程度で済ます訳ないじゃない。
ふー。と、私は空中へと浮かびあたりを見回す。
「かはは」
笑い声と共に牢獄の瓦礫の中から這い出てきたシブキ。
ダメージは全然ないみたい。
普通の『魔法使い』よりもいいじゃない。
まあ、そうじゃないと――この恨みは晴らせない。死と言う死を見せつけてやる。
「流石に王じゃね? つーか、レベル違うわ」
「今の私は――切れてるからさ。お前がしたみたいに嬲りに嬲ってやるよ♥」
「それ――楽しみじゃね?」
シブキは立ち上がり『魔法』を使う。
『騎士団』の特攻大量であるシブキ、この男の『魔法』は確か、
「『限定魔法』――百器夜鋼」
シブキの周りに無数の刃か浮かぶ。自在に見たことのある武器を精製する『限定魔法』かな?
いきなり使ってくるなんて本気じゃない――じゃなきゃあ首輪外さないよね。
「へー、『限定魔法』見せてくれるんだ」
属性『鋼』。
『騎士団』の武器庫にして特攻隊長。
シブキの名前は聞いてはいたけど――『限定魔法』が使えたんだ。
これならちょっとは楽しめそうじゃない。
「王の『限定魔法』に出し惜しみは――つーか。無理じゃん」
「いい判断♥」
「それじゃあいっちょ行きますか」
シブキは浮かんでいた刃を掴んで私の元へ駆けてくる。中々動きも早い見合いだけど、私の『限定魔法』は攻守一体の魔法。
動きがどんなに速くても関係ないよね。
だけど――まさか、あんな方法で破りに来るとは思わなかったわね。
シキちゃん、実行したのは『異世界の魔法使い』だけど多分あれはシキちゃんの作戦ね。
「近づいても無駄だけど――まあ、近づけないか♡」
私の纏うこの風は『魔法』すらも近づけない。火だろうが水だろうがすべて吹き飛ばす。そんな私の『限定魔法』へと、自ら突っ込んできて勝手に空ぶってるシブキ……笑える♡
「あー、受ける♥ そう、もっと笑える姿をさらしなさい。あんたはもうそれしか生きる価値がないのよ。私に挑んだ時点でね」
「かはははは。つーか、きついな」
笑いながらも、きついと言いながらも次々に武器を変えて突っ込んでくる。
ナイフ、槍、ハンマーに鉄爪。
だけど、問題なのは武器じゃない。それくらいシブキも分かってるはずなんだけど……。
「あんたのその『魔法』――私と相性悪いみたいね」
「つーか、それは違うじゃん」
空中で新たに武器を生産し、シブキはそれを投げつける。しかし、そんなやけくそな攻撃が私の風を通るはずも無い。
「だから無駄だって言ってるでしょ」
私は両腕を前に突き出し巨大な風の球を作り上げる。あの『異世界の魔法使い』に負けて考えた――想像した私の新技。
「良い実験台がいるから――試しちゃお♡」
竜巻を反らしたあの奥義――回転木熊。
あれが薙ぎ払う事で風を反らしたのならば――反らす事の出来ない威力を作ればいい。
一直線に走る一点集中の風。横向きに起こる竜巻この技は絶対に防げない。
「盾盾盾盾盾盾盾盾盾盾盾盾盾盾盾!」
盾を何重にも突き出しその風を防ごうとする。しかし、私の竜巻が生成されたそばから吹き飛ばす。
「かはははは、がはっ」
完全に防ぐことが出来ずにシブキは竜巻を受けて吹き飛ぶ。あー、すっきりする。
ここでうっぷんを晴らしてまたシキちゃんの所にでも行こうかな?
「うーん、首輪外してくれてありがと♡」
そのお礼に殺さないであげるわ。私を傷物にしたのは許せないけど、意気って挑んできて無様に倒れるそのボケに免じて許してあげる。
「お礼はまだ早くね? つーか……そうじゃね」
立ち上がるのも辛いのか、シブキは鉄の棒――持ち手が細く頭が太くなっている奇妙な棒を支えに立ち上がる。
あんな使い辛そうな棒で何をするのかしらねぇ。
「はは、やっぱこれが一番に手に馴染むみたいだわ」
シブキの前に先端のとがった弾。
シキちゃんが使っている道具――回転シキ拳銃だっけ?
その弾と同じ形状の鋼を作り上げる。それよりももっと大きいわね。
「あの道具がどうなってるか分からねえから――打つのは自分自身だ」
一本足で体をひねる。
その仕草は――少し『異世界の魔法使い』の奥義を思い出させる。
私は背筋が冷たくなり咄嗟に新しい技――横に起こす竜巻を放つ。
「行けえええええええええええええええ!」
鉄棒を振りぬき弾丸を打ったシブキは気合の入った声で叫ぶ。
その弾は一直線に私の元へと飛んで来る。
「てい♡」
弾丸と風がぶつかる。
竜巻を押し進めてくる弾丸。
私の想像以上の威力ではあるが止められない程ではない。序盤は突き進んできたが、進めば進むほどにその勢いは弱くなる。
「はは、残念♥」
打った弾丸は私の纏う小さな竜巻に飛ばされてしまう。私の元までたどり着いた威力は認めるけど――あと一歩届かなかったね。
『異世界の魔法使い』と戦って居なければ危なかったかもしれなかったけど。
「ああ。つーか、残念じゃん」
「惜しかったわよ。王の私にここまでさせるなんて……」
「ちげーよ。ばーか。残念なのはフウキ――つーか、お前じゃね?」
シブキは仰向けに倒れる。
倒れたままに――私の頭上を指差した。
その先に見えたのは小さく丸い影。
その影はどんどん大きくなって私の元へと落ちてくる。
「本丸はそっちじゃね? つーか、砲丸だけに」
その大きさは私の何倍もある――咄嗟に風を集中させても止める事は出来なかった。
「キャッ!」
私は地面に叩きつけられ潰される。
「俺の勝ちじゃね?」
倒れたままに満足そうにシブキは笑っていた。女王である私の命は散る――蟻の様に踏みつぶされ醜く死んでいったのだった。




