表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sorcerer★Story~異世界魔法物語~  作者: 男爵
地獄よりも燃える男
18/23

06

ミオとカグマが戦う前の晩。

 この国についてから二日目の夜――私はひそかにカグマと会っていたのだった。

 ミオには明日早いから眠っておけと寝かしつけ、一人で道場へとやってきた。


「悪いな、こんな夜中に」

「気にするな。シキ殿の頼みならば断われんさ」

「そんなつもりはないがな。しかし、こうして話すのは久方ぶりだな」

「ああ。おぬしが『騎士団』に入った時以来だな」

「5年前か。私にとって初めての仕事であったな」

「ああ、その恩は返しても返せない」


 道場の真ん中に座っているカグマ。

 カグマは王としては最年長。過去を見ても最も長い期間――王の椅子に座っている。

 この年で王の椅子に座っていられるのもこの強さがあるからか。


「忘れてくれて良かったのにな」

「ふむ。そんな事は思っていないだろうに」

「敵わん。伊達にご高齢な訳ではないか」

「そうだな。それで、あって欲しい男とは?」

「身体強化の『魔法』を持った男だ。」

「『身体強化』か……なるほどな」


 カグマは『身体強化』の魔法にわずかに眉を動かす。

 カグマの『魔法』もそれに近いからだ。

 炎を操る『魔法使い』。

 その程度のは多々いるが――獄炎流はそれとは違う。

 自身の体内の魔力を変換し体を強化する。体内で魔法を使う為にその負担は普通の魔法とは比べ物にならな。それを補える強靭な肉体を――カグマは持っていた。

 まさに獄炎流に相応しい男だ。


「おそらくミオではカグマには勝てん」

「なら、何故戦わせる。王を倒すとは言っているおぬしだが――私はお主の言う事なら何でも聞くつもりだ。負けろ言われれば負ける。国を寄こせと言われれば渡してやろう」

「本当に義理堅い」


 義理堅くあり良い人間でもあるのだが――それでもカグマは『王』である。王である以上は――必要以上に近づけない。


「いや、それならば今のままでいい。管理は秘書にでも任せておけ」


 カグマは王の椅子に座っているが何もしていない。王とはそう言うモノである。ただ自分たちが頂点になり好き勝手に出来る。

 欲を満たす為だけ――悪しき文化を引き継いでいた。弱きものは王など無くせばいいと思うのが誰も実行していない、出来ない。


「それよりもだ。この気配……」

「ああ、気にするな儂の愛弟子だ」


 弟子か。

 それにしては妙に殺気立ってる気がする。私はそんな殺気を向けられる人間ではないと思うのだが。

 しかし、カグマには弟子の気持ちが分かるようで、 


「それはお主の奇妙な格好だからだと思うぞ」


 私の服装を指差す。


「奇妙?」


 着物の上に白衣を羽織っている。この白衣に道具をしまっているから中々手放せない。着物はこのⅧの国での文化であり、『異世界』でも通じる伝統だ。それを着なくて、この国に来た意味などあるのだろうか。

 私の白衣はどんな服にも似合ってしまうお洒落さん必須の白衣なのだ。


「お洒落……か」

「なんだ?」

「年を取ると時代についてけないのだな」


 フウキ嬢といい、シキ殿と言い――皆個性を持っているな。と、カグマは笑う。その優しくも暖かく見守る笑みを見て、カグマは変わったのだなと私は思った。

 昔のカグマは笑う事の無かった。

 そんなカグマしか知らないからか、笑うとなんだか気味が悪い。


「ニック下がれ」

「……」

「すまんの」

「いや、気にするな。ニック……」


 ニックの気配は消える。

 道場を満たすばかりの殺気を隠そうともしないとは、好戦的な男だな。

 

「もしもだ。ミオが負けたらニックと一緒に修行させたいのだが」

「構わんさ。儂もニックに弟子を付けたいと思っていたところじゃった」


 こうして私とカグマのある種の契約が交わされ、二人の大人の事情によってミオは獄炎流へと入門する準備が整えられていたのだった。


「と言う訳で、本日より入門する事になったミオだ」

「よろしくお願いします~」


 見るからにやる気の無い表情で道場に足を踏み入れるミオ。こんな態度では、折角私が頼んだのに、顔が立たなくなってしまう。

 カグマはそんな小さい事を気にしないだろうが……。

 しかし、ミオがそこまで道場が嫌なのか。


「しっかりせんか馬鹿者が」

「だって道場とかって嫌な響きしかしないって。3Kだよ、3K?」

「3K? それは初めて聞く言葉だな? どんな意味があるのだ?」


 『異世界』での新しい言葉か。

 ぜひとも教えてもらいたいな、少しでも知識を増やさないと――私の理想には近づかない。


「えーとね、汚い、臭い、キツイ。その頭を取っての3Kです」

「……」


 私は寝癖の着いたミオの頭を叩く。

 どんな意味があるかと期待したが……がっかりした。

 何だその偏見は。

 むしろ武道と言うものは清く正しい伝統ある文化だぞ? 下手な現代スポーツよりも清潔さがある。

 

「全くこれだから現代っ子は」

「シキさんって僕より年下なんだよね?」

「ああ。二つ下だ」

「凄い昭和の匂いがする」

「昭和?」


 確か昭和は平成の前の時代だったかな。今この使い方をすると考えるとミオが言いたい事はただ一つ。


「誰が古臭いのだ!」

「あ、意味が伝わった……」


 当たり前だ。

 真黒木さんが来たのが十年前。日本の時代でいう所の平成16年だった。その辺の時代の変化は大変興味があったので凄い勉強したからな。


「私の頭脳を舐めるなよ?」

「くっ。『異世界』のアドバンテージが通用しないのか……」


 道場に入っても誰もいなかったのでミオとそんなやり取りを続けていた。


「何でミオはそんなに乗り気ではないのだ? 修行とか凄い好きそうな気がするのだが?」

「だって修行でしょ? 僕汗かくの嫌いなんだけど……」


 その時――道場の奥から一人の少年が飛び出し、勢いよく跳躍をした。私たちの頭上を越えると思ったが、ミオの頭を支点にして体を捻りながら腕の力で再び跳ねる。


「汗を掻くのが嫌いだぁ? 誰だ、そんな負抜けた事言ってる奴は!」

「この人です」


 ミオが私が答えるよりも先に指差した――私を。

 この男は時々本当に馬鹿だな。普通に考えてもみろ、私が修業をするような人間に見えるか? 大体、カグマと戦ってたのはミオだ――何故そこでいきなり私が出てくる。


「はっ、あんたがミオか」


 勢いを上手く殺して着地をした少年――ニック。今の一連の動作だけで良く鍛えられているのが分かる。

 その事に素直に感心したいのだが――私に話しかけてきていた。ミオの出まかせに騙されてるな……。


「そんな訳あるか、馬鹿者。隣にいる男がミオだ」

「えーと、君は?」


 と、引きつった笑みで名前を問うたミオ。自分で振っといて困惑するなよな。


「俺か! 俺はなぁ」


 ドン。

 そんな効果音と共に胸を張るニック――効果音はさりげなく足で道場を叩いて鳴らしていたが……私は見ていない。そう自分に言い聞かせた。

 道着姿で鉢巻を首に巻いている少年。鉢巻の意味がないのと、それは良く見るとバンダナの様な赤い布で出来ていた。

 幼い少年がその姿は――うん、昭和のヒーローみたいだな。


「俺はニックだ。昨日のお前、面白かったぜ?」

「うっ」


 自分の情けない姿を見られたミオは自分の胸のあたりを押さえてしゃがみこんでしまう。ぼろ負けだったしな。

 

「お前ぐらいだったら俺でも勝てたっつうのに――師匠の野郎。何でやらせなかったんだ?」


 追い打ちをかけるようにミオを馬鹿にするが――ミオは既に立ち直っていた。


「うーん。過保護なのかな?」

「いやいや、俺もまだ認めて貰えねぇだけかもな」

「そんな事ないよ、さっきの空中捻り、キレも早さも申し分なかったって」

「おお、本当か。そう言って貰えると嬉しいな」


 しゃがみこんだ割にはそんなダメージは追っていなかったようで、馬鹿にされているのに何故かニックと一緒に考え始める。何故ニックを戦わせなかったのか。

 議論の内容はどうでも良い。

 何故ニックは相談に乗ってもらっている。挑発したのはお前だろう。


「って、何相談してんだ俺は!」


 気付いた。

 しかし、自分で気付くと余計馬鹿っぽいな。


「いいか、ミオ! 獄炎流の修業はきついぞ? 付いてこれんのかっ!」

「やー!」

「どうした、声ちいせいぞ! 付いてこれんのかっ!!」

「はいっ!!」


 あって早々仲良いいなお前ら。

 そんな感想と共にミオの修業が始まるのだった。今この段階でこの修業が上手く行く気が全くしないのは――恐らく勘違いではないと確信していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ