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6.結婚の条件

 後宮に四人の男性が入ってから暫く経ちましたが、陛下は相変わらず愛人のソウ様にしか手を出す気配がありません。

 共寝はしておりますけれど。


「まさか、ソウ兄さんが陛下の愛人だなんて、驚きましたよ」


 本日の護衛は、ソウ様の従弟の少年です。

 ツイカと同じ年齢だそうです。


「昔も男色家の皇帝がいたじゃないですか。その愛人は美少年だったって聞いてたんで、てっきり、陛下も美少年がお好きなのかと」

「好みは其々ですからね」




 その後、陛下の診察の際に、気になっていた事を尋ねました。


「そう言えば、陛下。ソウ様は、後宮にお入れしないのですか?」

「ああ。護衛を辞めたくないと断られた」

「そうでしたか」


 成る程。ソウ様には、護衛を辞めてまで後宮に入るメリットがありませんものね。

 陛下との関係を(おおやけ)にしたくないのでしょうし。


「ところで、そろそろ、何処(いずこ)の姫君を後宮に入れるか、お決めになられては?」

「そう言われてもな……」


 気乗りしないので、候補を考えていらっしゃらないのでしょう。


「どのような女性なら、大丈夫そうですか?」

「そうだな……。胸の小さい女?」


 暫し考え込まれ、恐らく大丈夫と判断した条件を挙げられます。


「それは、不用意に口にするべきではないかと」

「何故だ?」

「年端も行かない少女を送り込まれる恐れがあります」

「それは、困る。子供には興味ない」


 陛下のお好きながっしりした体格のソウ様とは、真逆ですものね。


「骨太で筋肉質な女性は、どうでしょうか?」

「名家の家柄で、そのような体格の令嬢がいるとは思えんが」

「……そうですね」


 確かに、名家の令嬢は体を鍛える事は無いでしょう。


「いや。やはり、良く知りもしない女だと我慢出来そうにない」

「陛下が良くご存じの独身女性……」

「其方だな。胸も小さいし」


 気にしている事を、はっきり口にされてしまいました。


「どうだ? 后にならないか?」

「私は、あのツイカの姉ですが、宜しいのですか?」

「アレは、(のぎ)家から出せ」


 ツイカと縁を切るよう命じられました。


「畏まりました」




 私が皇后にと望まれた事と、その為に、ツイカを禾家から追放するよう命じられた事をお父様に報告しますと、一族を集めて会議が開かれる事になりました。

 集められたのは、ツイカが何かしでかした時に縁座が及ぶであろう範囲の者達です。

 ツイカは呼びませんでした。


 先ずは、ツイカの治癒術士としての再教育を引き受けてくださった伯母様から、報告を受けました。


「アレは、駄目ね。向上心が無いし、患者に対して……だけじゃないけれど、思い遣りも無い。礼儀作法を覚える気も無いし、目上を敬う気持ちも無い。それから、自分に都合の悪い事は、全て他人の所為と思うようね」

「お祖母(ばあ)様は、どのように育てたのでしょう?」

「使用人に聞いたけれど、こう育つのも当然と言った感じね。病人や怪我人を汚い存在と嫌っていて、彼等に接触する治癒術士を見下していた。嫌がる事はさせなかったし、失敗などをしてもツイカ以外の所為にする事が愛情だと思っている節があったそうよ」


 伯母様の返答に、お父様は深く項垂れました。


「あの人に預けた私の責任か……」

「でも、兄さん。矯正する時間は無いし、矯正出来る保証も無いわ」


 叔母様の一人が、そう声を掛けます。


「そうね。陛下の御命令だから、縁を切る以外に無いわよ」


 誰も、ツイカと心中する気はありません。

 勿論、私もです。

 ツイカと共に死んで上げる程の愛情は、持ち合わせておりませんので。



 ツイカの禾家追放で話が纏まった所へ、伯母の家の使用人からの知らせが届きました。

 ツイカが、お金や金目の物を持ち出して、書置きを残して家出したと。

 お金や金目の物は、いびられた慰謝料として貰って行くと書かれていたそうです。

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