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3.即位からの五年間

2023.01.28 悪鬼を妖魔と間違えていたので、訂正。

 私は、龍芯帝国の皇帝トセだ。

 この帝国は、他国が神を信仰するように龍を信仰している。

 初代皇帝は、龍から力を頂き、この国を建国したと言われている。

 その伝説を裏付けるように、皇族には一騎当千の力を持つ者が多く生まれる。

 私もその一人だ。



 即位して五年。

 この間は、平穏無事とは真逆だった。


 先ず、隣国が侵略して来た。

 我が国の国民を皆殺しにし、豊かなこの地を手に入れたかったらしい。

 正規軍と言うよりは、盗賊団の様な性根の奴等だった。


 次に、隣国の撃退も終わらぬ内に、邪教徒共が暴れ出した。

 法を無くし、全ての人間が犯罪行為を好きなようにやれるようにしたかったらしい。

 罰が無くなれば、誰もが殺人や強姦をするようになると言うのが、奴等の持論だった。

 奴等が神と崇める悪鬼共も現れた。

 まあ、その悪鬼は邪教徒共の心を喰らって体を作り変えて、顕在したのだが。


 更に、この混乱を好機と見たのか、異民族が反旗を翻した。

 何百年か昔に、武力によって併合された者達だ。

 当時殺された者達の仇を取る為に、妖魔の力を借りた。

 しかし、彼等は妖魔の影響により妖魔と化した。

 元に戻す術は無いし、そもそも、反逆者である。

 生き残ったのは、反乱に加わらなかった一部の者達だけだ。



 激しい戦いの末、勝利を収めたのは我等だ。

 多くの犠牲者が出た。

 心か体、或いは両方が深く傷付いた者も多い。


 例えば、自分以外の家族が邪教にかぶれ、悪鬼に喰われかけた兄を悪鬼の実体化を阻む為に殺さざるを得なかった者や、反乱の首謀者の一人となった異民族の友人をその手にかけた者。


 私の親類も、叔母が一人と再従姉(はとこ)が一人戦死し、一人の再従弟(はとこ)が片腕を失った。

 一時は呼吸も止まり、未だ意識が戻らない。


 亡くなった叔母の息子である従弟は、目の前で母親を殺された現実を受け入れられなかった。




「長男の事は、諦めようと思います」


 意識が戻らない再従弟の父親は、見舞いに訪れた私にそう言った。


「諦める?」

「ええ。このまま治癒術をかけ続けても意識が戻るか判りませんし、意識が戻っても、呼吸が止まっていた影響があるかも知れません。次男を跡継ぎに据えた後に回復されても……」

「ならば、私が貰っても構わぬな?」


 私がそう言うと、(えのき)家当主は呆けたように口を開けた。


「貰う、とは?」

「嫁にだ。後宮に入れる」

「息子は男ですぞ! いや、陛下が男色家で有らせられる事は存じておりますが、男同士では子は出来ません!」

「これまで後宮に入った女の全てが子を成した訳では無い。男を五人や六人入れたとて、大した問題では無いだろう」

「問題が無い訳は無いでしょう!」


 反対されたが、私は引かなかった。


「私は、諦めたくないのだ」


 彼は体を強張らせ、きつく拳を握り締めて俯くと、苦渋の決断のように言った。


「息子を……お願い致します」




 (ひいらぎ)家の母を失った従弟を尋ねると、彼は自室に軟禁されていた。


「陛下? 何故、此方に?」

「其方を後宮に入れたいと、頼みに来たのだよ」

「……男の私をですか?」


 彼は、不思議そうに私を見た。


「私が女に興味があると思うか?」

「いいえ。でも、跡継ぎは?」

「作るさ。暫く、息抜きをしたらな」


 敵国と戦ったり・悪鬼と戦ったり・妖魔と戦ったり、疲れた。

 そして、今は戦後処理だ。

 跡継ぎは、出来るだけ後回しにしたい。


「父上は、何と答えたのでしょうか? 私は、理由も判らず此処から出る事を禁じられて……」

「そうか。説明が無かったか。其方の父が言うには、療養に専念させる為だそうだ」

「療養? 私の怪我は、綺麗に治りましたが……?」


 叔母の死を伏せたまま納得させるのは、難しいだろう。


「激しい戦いだったからな。精神疲労も相当なものだ」

「はぁ……?」


 私は、精神的疲労など無いと言いたげな従弟の顔に触れた。

 目の下に隈が出来ている。


「良く眠れていないようだな」

「それは……、そうですが」


 それ位で自室から出ずに療養しろなんて納得出来ないと、思っていそうな反応だった。


「一部の記憶も無いと聞く」

「何時の記憶でしょうか?」

「一年目の記憶だ」


 そう答えると、従弟は、一年目に何があったか思い出そうと眉を(ひそ)めた。


「邪教徒が、暴れたのですよね?」


 隣国が攻め入って来た記憶まで無いとは、予想外だった。


「その前に、隣国が侵攻して来た」


 私の言葉に、従弟は驚愕を露にした。


「え……。な、何故、記憶に無いのでしょう?」

「ダメージが大きかったからな。(のぎ)家の治癒術でも、治せぬものはある」

「……頭部を損傷したと言う事ですか?」


 顔色が悪くなった従弟を、私は椅子に座らせた。


「それなら、跡継ぎではいられませんね」

「だから、其方の父は、後宮に入れた方が良いかもしれないと同意してくれた」

「……母上は?」

「反対しなかったな」

「それならば、仰る通りに致します」


 叔母の事は、頃合いを見て病死した事にすれば大丈夫だろうか?

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