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【完結】霊亀の息子は硬度最高  作者: 真打
第四章 魔族領へ
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4.6.二人捜索


 雲の流れがとても速い。

 強風が障害物のない大空を駆け抜け、ボウボウと音を鳴らしている。

 だがこの音は実際に空を飛んでいなければ聞くことのできないものだ。

 そんな中を飛ぶ行為は、いささか危険である。


 しかし、どんな時だろうと飛ばなければならない時がある。

 大きな翼を広げてはばたき、勢いを付けて向かい風に抗う。

 滑空して前に進み、翼を広げて風を受けて上昇しを繰り返して何とか強風の中でも空を飛んで進むことができていた。

 できればもう少し楽をしたいところではあるが、如何せん地面を歩くのは苦手だ。

 こうして空を飛ぶ方が移動速度も速いし、なんなら地面に立っている時間より空を飛んでいる時間の方が長いのでこちらの方が楽である。


 だが……さすがにこの強風では本当に進んでいるかどうかわからない始末だ。

 上昇する度に押し戻されているのではないだろうか?

 ふと心配になって後ろを振り返ってみるが、出発地点は既に見えなかった。

 やはり進むことはできているようだ。


「うぐぬぬぬぬ……」


 強烈な強風が再び彼女を叩きつける。

 首元から頭を越すほどにまで伸びている襟がばたばたと動き回っている。

 マントも風によって暴れ、着ている服も硬い材質でできているのではあるが、この強風相手だと作られた皺すらも伸びてしまいそうだ。


 頭に生えている小さな折れ曲がった角が、黒く長い髪の毛から見え隠れしている。

 その長い髪の毛も暴れまわっているので、彼女としてはひどく鬱陶しそうだった。


「なんっでぇ……僕なのかなぁ……! こんなっ、強風の中で……二人を探すぅ? 無理……でしょ!」


 悪魔と形容するにふさわしい彼女は、もう一度を大きく翼を動かして急降下した。

 だが、今日は風の機嫌が悪いらしい。

 上昇しても降下しても強風は絶え間なく彼女を襲ってくるので、結局何が起こっても安全そうな上の方へと逃げる。

 追い風ならまだしも向かい風となると、彼女の力ではこの飛び方が限界であった。


「ウチカゲめぇ……! ダチア様も、ダチア様だっ! 僕じゃ、なくてっ! 他にも……! 適任者がっ! いただろ!」


 もう一度、翼を動かす。


 昨日の夜のことだ。

 連日ウチカゲからダチアに連絡が来るのは非常に珍しく、ダチアも何かあったのではと警戒していた。

 予想は見事的中し、前鬼の里で天使が現れたという。


 奴らの目的を聞いたダチアは、ウチカゲと話し合って中級悪魔であるアブスを急遽二人の下へと向かわせることにしたのだ。

 索敵ができる彼女であれば、見つけるのも容易だろうという判断で決まったこと。


 だが実のところ、アブスは索敵が得意ではない。

 他に得意分野があるのだが、今動かせる悪魔はアブスしかいないということで、こうして仕事を任されてしまったのだ。

 なんとも面倒くさいことを任されたものだ、と最初は思ったが、その仕事内容が霊亀の息子を助けるものだというではないか。

 加えて天使がそれを狙っている。

 となれば、即座に救助へと行かなければならないのは道理である。


「あの子に、死にでもされたら……! 厄介そう、だしねぇ!」


 ぶっちゃけ後が怖すぎる。

 ダチアも何するか分かったものではないし、なにより本質持ちのウチカゲが本気で暴れたら何が起こるか分からない。

 今は怒りの矛先が天使に向いてはいるが、向ける矛先が無くなれば何を標的にするか……。


 兎にも角にも!

 この何気に責任重大な任務を完璧にこなさないと、自分だけではなく悪魔の存続もヤバそうなので、今回だけは真面目に、本当に真面目に働くことにする。


 アブスはもう一度滑空し、木々の背が高い森の中へと入っていった。

 この中であれば風の影響も受けないだろうし、飛行するのにも問題なさそうだ。

 だがここは、魔族領に近い森の中。

 危険な魔物がいるのが普通であり、今まさにアブスを丸のみにせんと森の中から急に現れた大きな口が牙をむいていた。


「邪魔!!」


 アブスへと牙が向けられる寸前、その牙を裏拳で殴る。

 自身の数十倍は大きな獣だったので相当な力を入れなければならないはずだったが、アブスは軽く小突いた程度だった。

 しかし、それで十分だったらしい。


 牙を向けた獣は目に見えない打撃を横っ腹から喰らったらしく、凄まじい打撃音と共に体が吹き飛ばされていった。

 その威力はアブスが牙を殴ったものとは比にならず、全身の骨が折れてしまう程の衝撃であり、背の高い大木をドミノ倒しのようにしてへし折って行ってしまう。

 もはや止まる気配を見せない程の威力だったが、アブスはそれを目で追うこともなく目的地へと急行した。


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