4.5.次の街
アマリアズが魔法袋から取り出したおにぎりを口に運んだ。
今度はお茶を取り出して、それを飲む。
確かにずっとこの森で過ごすわけにはいかないし……。
身を隠すためのローブも必要だし、何処かで買い物はしないといけない。
まぁ今はお金もないわけだから、魔物の素材とかあれば売却できるだろうけど……キュリィが技能を使って僕のことを他の街の人たちに刷り込んでいたら、人と接すること自体が難しくなる。
んー、どうするのがいいんだろうなぁ……。
ていうかあいつが僕のことを広めてるって考えちゃうと、大体の国には向かえなくなるから、この事は後で考えることにしよう。
えーと、そうなってくると……。
まずはどこでもいいから街に行かないといけないと。
でも徒歩で行ける一番近い街までは二週間かかる。
馬車とかがあればいいけど、そんなに都合よくはいかないと思っていた方がいいか。
で、一番の問題が僕たち無一文って事。
前鬼の里で使ってる硬貨って他の所でも使えるのかな?
その辺のこともよく知らないのは問題だったなぁ……勉強しておけばよかった。
まぁ……一銭も持ってないから今考えても意味ないけど。
で、金策を行うに当たって魔物の素材を集めて街に入るのがいいのではないか、というのがアマリアズの意見。
これには賛成かな。
魔道具袋もあるんだし、結構素材集めても何とかなるでしょ。
お金が集まったら旅に必要な物をその場で購入しないとね。
ていうかそんな簡単にお金って稼げるのかなぁ……。
まぁ何とかなるって信じておこうか。
「ていうか、僕たちが魔物を狩りましたって言って信じてくれるかな? 武器も何も持ってないし信じてもらえなさそうなんだけど」
「……た、確かに……そうだね? ヤバいね?」
「アマリアズ?? え、大丈夫?」
「宥漸君は十七歳で、僕は十歳……。まぁ実年齢はもっと上だし見た目も十七歳くらいだからその辺はごまかせるとしても、十七歳はまだ子供って言われるだろうね~」
「ヤバいじゃん」
「だからヤバいんだって」
振り出しなんだけどーーーー!!
大きな魔物狩ったとしても絶対に信じてもらえないのがオチじゃん!
ショロウオウも結構ランク高い魔物だったけど、あれを狩って素材持ってきましたって言っても信じてもらえないに決まってる!
だけど、僕たちができる金策とかこれくらいしかないしな……。
で、でもアマリアズも強いし、知識量は多分誰よりもある。
なんかその辺の知識を活かして説得とかできたりしないのかな。
「……どう?」
「できないことはないだろうけど、相手が冒険者ギルドってなると実力を見せた方が手っ取り早いんだよね」
「じゃあそれでいいじゃん」
「それはそうなんだけど……十中八九宥漸君も試されるよ」
「……ああ~……」
僕、あんまり目立たない方がいいってことだよね?
そうか、そういう問題もあるのか……。
ん~、この森に居座り続けるわけにもいかないし、かといって集めた素材を売れるかどうか怪しい……。
金策は難しいってところかぁ……。
こうなったらアマリアズ一人で頑張ってもらうしかないね。
僕は目立っちゃいけないけど、アマリアズだったらちょっとくらいなら目立っても問題ないはず。
なんにせよ、一度街に行く必要はある。
いろいろ調達しないといけないからね。
無事にお金が稼げたらいいんだけど……ま、ここは運だね。
アマリアズもこの提案には頷いてくれた。
偵察係はアマリアズになり、僕は安全が確保されてから街の中へと入ることになった。
これで本当にいいのかどうかは分からないけど、まぁ何事もやってみないとね。
ここまできたら当たって砕けろだ。
最悪ごり押しで脱出できる手段はあるし、アマリアズもそれくらいなら合わせられるでしょ。
「うんうん、じゃあまずは私が街の中に入って色々調査してくる感じにしようか。宥漸君は町から一番近い森の中で待機ね」
「それが一番かな? とはいっても、その街まで二週間でしょ?」
「そうそう。その間に魔物とか探して狩っておかないとね。この辺は索敵能力のある私たちなら余裕だと思う」
「姿を消してたら僕が気付くし、気配を消してたらアマリアズが気付くもんね。んじゃそういうことでしばらく狩り専念しよっか」
「だね。んじゃ私は寝る!」
アマリアズがコロンと寝転んで焚火に背を向けた。
硬い地面で良く寝られるよなと思いながら、僕は眠気がきていなかったので、焚火を維持するのに専念することにした。
……やることがいっぱいだ。
隠れながら行動するって、結構大変だなぁ……。
明日は森を進みながら狩りをして……素材を集めて二週間後に街に行って、それから……えーと。
頭の中で記憶を探していた僕は、目の前にくべてある焚火に薪を追加した。
夜は寒く、とても冷えている。
しかしその感覚すら分からない僕は、隣で寝ているアマリアズのために火を起こし続けた。
故郷からずいぶん離れた山の中。
獣が多く、魔物も多い危険地帯らしいが、だからこそ身を隠すのにうってつけ。
ふと、自分の体の硬さの異常さに気付く。
そこで手に持ったナイフを、自分の腕に思いっきり突き立てる。
だが刃は通らず、逆に切っ先が欠けてしまった。
掠り傷一つ負っていない手を見て、小さく嘆息する。
ナイフをその辺に投げ捨て、また焚火を見ながら昔のことを思い出しはじめた。
「……どうしてこうなっちゃったんだろう……」
はぁ~……。
考えないようにしたいけど、まぁ無理だよなぁ……。
…………僕のお父さん……どんな人だったんだろう。
昔のことを思い出しながら、ついでに自分の父親について想像しはじめる。
そうしていると、いつの間にか眠りに落ちていたのだった。




