3.26.ナイスキャッチ
遠くの方で大きな音が聞こえている。
悲鳴も上がっているので、向こうで何かが起こっていることは明白だった。
アマリアズが最短距離を選んで走ってくれているようで、その音の方角へと真っすぐに向かうことができていた。
だけど……ちょっと速すぎる!
いやお母さん僕たちに一体何したのさ!?
移動速度が速くなるのは良いんだけど、何をされたのか分からなさすぎて怖いんだけど!
ていうか向こうで何が起こってるのさ!!
「アマリアズ! キュリィは!?」
「……そういうことか……」
「え? 何か分かったの!? 教えてって!」
「天使」
……ん?
なにそれ。
「てん?」
「天使だよ天使。あれ、悪魔じゃない。悪魔の皮を被った天使だった。今『空間把握』で姿見てるから間違いない」
「……え、本当に悪魔じゃなかったの!? アマリアズの予想的中してるじゃん!」
「なあんであいつらがここにいんだよまじでよおおおお」
アマリアズが突然両手で顔を覆って嘆き始めた。
反応からするに、どうやら天使のことをある程度は知っているらしい。
できればそれも聞きたいところではあるけど……。
今はあれを何とかするのが最優先かな。
結局悪いものを呼び込んだことになるのか……。
だったら、僕たちが責任をもって何とかしないと。
……でも本当にキュリィが?
まだ疑問が残る……。
だけど『空間把握』でアマリアズはキュリィの位置を完璧に掴んでいるはずだし、言っていることに間違いはないと思う。
でも、あんなに大人しそうな悪魔が……悪いことをするとはなんだか思えない。
そんなことを考えている間にも、目的地へと近づいていく。
アマリアズは嘆きながら手に『空圧剣』を作りだして戦闘準備を整えている。
僕は無手で問題ないので、周囲の気配に気を配りながら向かうことにした。
「どぇ!? 宥漸君『身代わり』!!」
「え!? え、はっ!!」
アマリアズが急に立ち止まり、僕にそう叫んだ。
一瞬反応が遅れたがすぐに『身代わり』をアマリアズに向かって使用し、ダメージを肩代わりする。
その瞬間、前方から破壊音がこちらに近づいてきた。
家屋の壁を何枚も破り続けているような音で、木材が割れ、中にあったものが吹き飛ばされて周囲に被害を及ぼしている。
それがこちらに飛んできているのだから、僕は咄嗟に身構えて衝撃に備える。
破壊を続けている原因がようやくこちらに飛び出してきたのだが、それをアマリアズががっしりと受け止めた。
「ぬおわああああ!?」
「アマリアズ!?」
ガァンッ!!
バキバギャキャキャベキッ!
何かを受け止めたアマリアズだったが、勢いまで受け止めることはできず後方に吹き飛ばされていった。
いやそりゃそうなるよ!
向こうからこっちにまで吹き飛んできた攻撃なんだからさ!
僕が『身代わり』使ってなかったらアマリアズ大怪我してるよ!
ていうか大丈夫!?
なんであんな攻撃受け止めたんだよう!
踵を返してアマリアズが吹き飛んでいった方向に走っていく。
瓦礫を蹴飛ばし、奥に見えるアマリアズともう一人の鬼の姿を見つけて、退路を作りながら近づいた。
「ってタタレバ!?」
「知り合いかい? だったら丁度良かった。この鬼、キュリィと戦ってたんだ。何か話を聞けるかもと思ったけど、こっちに吹き飛ばされて来たから咄嗟に受け止めた」
「な、ナイスキャッチ……!」
「キャッチしてないけどね?」
すぐに瓦礫をどかし、場所を作る。
あそこからここまで吹き飛ばされて来たんだから、今のタタレバは大怪我をしているはず……。
そう思って見てみると、口から大量の血を流していた。
体の中に仕込んでいた防具がひしゃげており、それが腹部に突き刺さっているようだ。
他にも足や腕の骨が折れている。
瓦礫などにぶつかってできた切り傷も多く見受けられた。
僕はすぐに抱え上げようとしたが、それはアマリアズに止められる。
「駄目。ここに置いて医者を待つ」
「つ、連れていった方が早くない!?」
「これだけ大怪我してるんだ。骨も折れてるし、あばらとか背骨とかも折れてる可能性がある。動かしたら肺に肋骨が刺さったり内臓を傷つけたりするから、運ぶことで止めを刺すことになるよ」
「む、むぅ……。分かった」
「とりあえずできる事は止血かな……。宥漸君、この家の中から包帯とか薬品とかないか探してきて」
「分かった!」
アマリアズに言われた通り、僕はすぐに家の中を物色する。
こういう事態だし、家主さんも許してくれるだろう。
アマリアズはタタレバの容態を詳しく確認する。
キュリィのことを追わないのは、タタレバから情報を聞き出すためだろう。
タタレバがやられちゃった今、僕たちが勝てる相手ではないということが分かった。
多分だけどアマリアズもそれを理解してるんだと思う。
だったら絶対にタタレバを助けないと……!
しばらく家の中を物色していると、綺麗な布や包帯が見つかった。
だけどこの家には薬品がなかったので、見つけたものをアマリアズに託してから隣の家に向かってもう一度物色する。
心の中で何度か謝りながら、家の中を探し回る。
ここの住民たちは既に避難しているようだ。
これ以上の被害が出ないのはありがたいけど……戦闘員の鬼たちが今向かってるんじゃないかな……。
「あ! あった薬品! ってこれ薬草じゃん!! すり鉢どこ!? あった!」
もう面倒くさいので一式を持ちだして、二人の下で薬草を煎じることにする。
ウチカゲお爺ちゃんから薬草の調合の知識はある程度教えてもらっているので、止血剤くらいは作れるはずだ。
急いで持って帰ると、アマリアズが慎重に服を脱がせながら腹部を止血していた。
突き刺さっている鎧は、なんとはさみのような形にした『空圧剣』で斬ったらしい。
残っている鎧の破片はまだ抜いていない。
「傷がどれも深い……。回復魔法がないと厳しいかもな……」
「止血剤は?」
「間に合わないと思う。宥漸君、お医者さん連れてきて!」
「分かった!」
とは言っても見つかるかなぁ!?
くそう、僕の技能で回復系技能発現しないかな!
すると、淡い緑色の光が視界に入った。




