表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】霊亀の息子は硬度最高  作者: 真打
第三章 発覚
76/277

3.23.『情報共有』


 家の中に小さな明かりがつき始めている。

 最近では光る魔道具なども作られ、前鬼の里ではそれが一番よく普及しているのだ。

 何よりのメリットは火事になりにくい。

 蝋燭や行灯だと倒れてしまった時に大惨事になることが数多くあったが、これにより火事の件数が目に見えて減ったように思える。


 そして光量が強い。

 部屋の中全体を明るく照らしているので、夜でも長く活動することができる。

 前鬼の里の鬼たちは趣味に没頭したり、明日仕事で使う物を夜の間に作ってしまったりする時間が増えたのでこの魔道具をありがたく思っているようだ。


 家の中から零れる光に若干照らされた道は、少し薄暗い。

 昔よりは明るくなったが、夜は月明かりに頼るのという風習は今も変わっていないようだ。

 雲で月が隠れていなければ、提灯なども必要ないだろう。


 そんな道を、一人の少女が歩いていた。

 軽い足取りでスキップをしながら目的地へと移動中だ。

 向かう先は……ガロット王国。

 そこでやらなければならないことがある。


「見~つけた~♪ 見~つけた~♪ 霊亀の息子を見~つけた~♪」


 この世界に眠っている邪神四体の内、一体には子供がいるとされていた。

 それが霊亀。

 四百年前から探し続けてきた存在ではあったが、まったく見つかる気配がなくここ数百年は無駄足を踏み続けていた。


 だが遂に、見つけることができた。

 これで失われた技能の開発、再現、復活が成就するきっかけになる。

 もし完成すれば、本当の神を呼び出せるかもしれない。

 いや、技能であれば呼び出せる。


 本来なら自分だけで捕らえたいところではあったが、さすがに前鬼の里の長を目の前にして単騎で勝てるとは思っていない。

 それにあろうことか、ここには霊亀の息子を合わせて三人の技能持ちがいるのだ。

 宥漸、ウチカゲ、アマリアズ。

 いくら自分が技能を持っていたとしても、技能持ち三人に勝てるわけがない。


 だから、まずはこの里から宥漸を追い出す。

 あとはこちらの陣営の者共に任せておけば、一人くらい簡単に捕らえることができるだろう。


「むふふ、いやぁ記憶が消されてる時に模擬戦を見せてくれたのはありがたかったなぁ。おかげですぐにあいつが霊亀の息子だって分かった。あの硬さに『身代わり』、『爆拳』……明らかにあれの息子だ。だけどアマリアズ……あいつは? もしかして龍の子供か? んんー」


 まだ分からないことは多いが、あれは五年前に仕向けた刺客が捕らえ損ねた人物だ。

 しかし技能はほとんど増えていない。

 連絡された時は驚いたが、結局捕まえられずに長い準備期間が設けられた。

 まぁ、今となってはどうでもいい事ではあるが。


 キュリィは記憶を思い出すために頭を軽く指で叩く。

 彼女の味方の技能『条件付き記憶喪失』。

 少々特殊な記憶の改竄技能で、とある単語を何回か聞いた後記憶が蘇るように設定されていた。

 今回設定されていた単語は“技能”。

 ギョウの所で技能の話を聞き、宝魚の寿司を食べそうになった時……記憶が蘇った。


 まさかここまで上手くいくとは思わなかったが、なるようになるものだ。

 だが上手くいきすぎることはないようで、キュリィは足を止めた。


「良く付いてこれたね。『気配遮断』あるのに」

「……何処へ行かれる。というより……誰だ貴様は」


 目の前に現れたのは、忍び装束を纏った女の鬼だった。

 タタレバは鋭く黒い角が鋭い目と共にこちらを睨んでいる。

 左目に包帯をしている彼女は、魔法で作り出した直刀を腕に装着していた。

 粘液質の液体が刃の形になって腕にくっついているらしい。


 それを見てキュリィは、その武器が変幻自在の武器であることを看破した。

 だがその程度では脅威にならないといった風に、口調を変えることなく彼女の問いに答える。


「キュリィ」

「否。今までのキュリィ殿からは……そのような禍々しい感情を持っていない」

「感情? ああ、貴方は気配を感じ取れないけど、感情を感じ取ることができると。じゃあ隠し事なんて通じないじゃない」

「是」

「じゃあ教えてあげる」


 キュリィがスッと手をタタレバへ向ける。

 即座に身構えたがこれは攻撃手段ではない。

 そのため、タタレバが動くより先に技能は使用された。


「『情報共有』」


 コンッ。

 軽い衝撃が頭に走った。

 外傷などはなく痛みもまったくない物ではあったが、脳内には妙な情報がねじ込まれた。

 それはキュリィがここに来てから、ここに至るまでに見た光景と経験。

 更に目的と、今から何をしようとしているのか。


 これらの情報が一瞬でタタレバの頭の中に入ってきた。

 そこにはありえない情報もある、彼女を少し動揺させる。


「宥漸君……? 否、否。まやかしの記憶に惑わされはせん」

「本当のことだよ。では問題です! あたしはこの情報を“ガロット王国国民全員に共有”したいと思っています! さぁそうなるとどうなるでしょーか!」


 その問いに、タタレバは硬直した。

 これが偽りの情報であると、タタレバは考えている。

 いつも宥漸を近くで見ているからこそ、そう言える物なのではあるが、それを知らない人間がこれを知ればどうなるだろう。


 邪神の子供。

 過去にガロット王国を完全に破壊し、魔族領も破壊しつくした凶悪な存在の一体の子供だ。

 昔話として受け継がれ続けているこの話を……人間たちは容易く受け入れてしまうことだろう。


「……! させん!」

「やってみせなよ」


 タタレバが一歩大きく踏み込んだ瞬間、キュリィの悪魔の翼が肥大化した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] そのアマリアズって子が元神…
[気になる点] キュリィは敵なのかな? 何が目的で神を復活させんだろ... [一言] 龍に〇〇〇は無いよキュリィ...(届かぬ指摘)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ