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【完結】霊亀の息子は硬度最高  作者: 真打
第三章 発覚
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3.20.技能の話


 頭を落とされた宝魚は即座に三枚に降ろされ、ほとんど身が残っていない骨と内臓付きの頭は先ほどの虚無の生け簀に放り投げられた。

 残された巨大な身は、速くはないが非常に丁寧で正確な包丁捌きによって皮とあばら骨が除去される。


 宝魚は意外に皮が脆いらしく、鱗と一緒に剥がなければ綺麗にならないらしい。

 その為鱗が少し残ることがある。

 なので水に一度付けた後すぐに取り出し、身についている鱗を完全に洗い流すのだ。

 

 処理が終わった宝魚の身を、あとはネタになるように丁寧に切る。

 細長い包丁を変えて斜め切りにし、大きなネタを何枚か作った。

 部位によって切り方を変え、部位ごとに仕分けてまな板に並べていく。

 それが終わればようやくシャリ玉を握る工程に入るのだが、前鬼の里の寿司は基本的に大きい。

 おにぎりに使う分と同じ量を使うのではないだろうか。

 なのでそれに乗せるネタも当然大きくなる。


 だがギョウは子供がいるということで、少し気を利かせてくれたらしい。

 シャリを少し小さくし、食べやすい大きさに整えてくれたのだ。

 それを幾つか寿司下駄に乗せ、僕たちの前にコトリと置いてくれる。


「右から背かみ、腹しも、腹なか、腹かみだ。昔は食わなんだ部位だが、今じゃなぜだか高級部位。時代と共に舌も変わるんかねぇ?」

「そうなのだろう。では、頂こう」


 ウチカゲお爺ちゃんは寿司を一つ手に取り、かぶりつく。

 僕たちのは小さいけど、ウチカゲお爺ちゃんの結構大きいからそうなっちゃうんだね。


「い、いただきます」

「いただきまーす」


 僕たちも寿司を口に入れる。

 一口サイズではあったが、小さくてもしっかりと酢飯と宝魚の身がマッチしていて非常に美味しかった。

 あまり癖がないはずの宝魚の身なのだが、酢飯のお陰で味が強調されている。


 右から順に寿司を食べていくのだが、食べるごとに食感が違った。

 部位によって柔らかさと歯ごたえが違うのだ。

 同じ魚から採れる身ではあるけれど、部位が少し変わるだけで食感が大きく変わる。


 隣りを見てみると、キュリィも大きな口を開けて寿司を一口で食べていた。

 一口食べて寿司を一瞬で気に入ったらしく、目を輝かせて次々口に入れている。

 四つしかないのですぐになくなってしまったが、それだけでも満足できるくらいに美味しかった。


「うまっ! すごい、他の店の寿司と全然違う……」

「アマリアズがそういうの珍しいね。でも確かに美味しい」

「子供は素直だんな~。へへ、なぁに。ちょっちばかし酢の量を変えとるだけだ。大して難しくなーや」

「よく言う。赤身と白身で使う酢飯を変えているのを知っているぞ」

「さすがに四百年以上生きとるウチカゲ様にゃあ誤魔化せんかぁ~」


 もう、なんだろう。

 最近、数百年前って聞いても大して驚かなくなった自分がいる。

 単位がおかしいの。

 それに慣れて来てしまった僕がなんか怖い。


 っていうかこれじゃ全然足りないんだけど……。


「おかわりってあります?」

「気に入ったか坊主。よから、ちょっちまっとれ」

「私も!」

「キュリィも!」

「よしよし」


 全員ギョウの寿司を気に入ったようだ。

 これだけ美味しかったらウチカゲお爺ちゃんと同じ大きさの奴も食べれたなぁ。


 それからすぐにギョウは寿司を握ってくれた。

 先ほどとまったく同じものではあったが、何度食べても飽きない。

 僕はすぐに全部食べてしまい、三度目のお代わりを要求した。


「でもあれだね、ギョウさんの魔法ってなんかすごいですね」

「そーかえ? でもまぁ、お前らさんらの技能に比べりゃ、ちっぽけなもんだわい。わしゃこれしか魔法は使えんからなぁ」

「え、そうなんですか?」

「ああ。取り出せんのは生きとる魚だけ。他はなーんもできん」


 話しながらも丁寧な手つきでネタを切り、寿司を握っていく。

 寿司下駄にそっと置いて、僕に渡してくれた。


「特別な魔法はな、多く持てん。だが技能はそれを完全に無視する。大昔、技能持ちの鬼を見ては羨ましゅう思ったが、今となっちゃあわしには身に余る力だと思い知った」


 ギョウの言葉を聞いて、アマリアズは寿司を食べながら軽く頷いた。

 ウチカゲお爺ちゃんも何度か頷いた後、お茶を口に含む。


「昔は、持たざる者が持つ者を羨むのが当然のことだった。前鬼の里は私が治めていたから収拾はついたが、技能が失われてから百年の間、人間たちの間では亀裂が生じ続けていたな。宥漸、アマリアズ。技能を持っているということは特別なだけで誉あるものではないと覚えておけ」

「今の時代には過ぎた力だしね。そのせいで狙われてるわけだし」


 そーなんだよねー。

 よく考えてみれば僕の技能の『爆拳』とか普通は使えないもんね。

 ただ僕が硬すぎるからダメージが入らないだけでさ、普通に使ったら腕とか吹き飛ぶよあれ。


 ……そういえば、この硬さも技能なのかな?

 まぁ技能だろうなぁ。

 僕は防御系特化の技能が多いのかなって思ったこともあったけど、『爆拳』とか『貫き手』って完全に攻撃系技能だし……分かんないね。


 そこでふとキュリィを見てみた。

 相変わらず寿司を食べて舌鼓を打っているかと思ったのだが、違った。

 寿司を見て硬直しているのだ。

 どうしたのだろうかと声を掛けようとしたが、その前に動いてぱくりと寿司を食べた。


「……?」

「~♪」


 先ほどよりも上機嫌になっている。

 本当にこの寿司を気に入ってしまった様だ。

 それならまた今度連れてきてあげないとなと思いながら、この場所を頭の中に記憶したのだった。


 キュリィは他の人たちの会話に耳を傾け続ける。

 上機嫌になって小さく鼻歌を歌っていた。

 今は食事をしているから誤魔化せているが、先ほどまでの自分の性格を思い出してここから出た後はおしとやかに行かなければならないと心の中で注意をする。


(戻った戻った♪)


 今のところ、すべてが順調。

 目の前に置かれた寿司を、また口の中に入れた。

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