3.17.やりにくい稽古
あれから一日が経った。
ベドロックは鬼たちが探し当てたマレタナゴの拠点の一つへと置き、今は数を減らすのを待っている状況だ。
ある程度数が減ってきたら、他の場所へと移してマレタナゴの勢力をどんどん削っていく算段である。
今日も鬼たちがマレタナゴの拠点を探しているはずだ。
水車は新しく作り替えることが決定し、大工さんたちが山に木を切りに行っている。
余っている木材ももちろん使用するらしいのだが、水車を全て作り変えることになるので材料が不足しているのだとか。
水車は新しい物が完成するまであのままにして置き、できるだけ頑張ってもらう予定だ。
既に悲鳴を上げている水車もあるようだが……新品ができるまでは耐えてくれるだろう。
かくいう僕たちは、ウチカゲお爺ちゃんに連れられていつも通りの稽古をやっていた。
今日も『闇媒体』の硬すぎる体を破壊するまで稽古は終わらない。
「せいっ! はっ、やっ! とぅ!!」
「──」
鬼人舞踊無手の構えの最速打撃を繰り出し続け『闇媒体』と対等に渡り合う。
足をしっかりと地面に着けて大地を味方にし、攻撃を往なした瞬間次手へと持ち込む。
鬼が考案した武術なので対策は完全にされてしまっているが、ウチカゲお爺ちゃんの『闇媒体』は格闘戦闘をあまり得意としていない。
なので僕が『爆拳』を交えると、簡単に吹き飛んでいく。
僕の格闘術の強みはこれだ。
いつでも好きなタイミングで『爆拳』を使用することができるので、アマリアズと連携を取りやすい。
裏拳を繰り出し、それを防がれた瞬間に『爆拳』を使用したので『闇媒体』は横っ飛びになって吹き飛んでいった。
そこで待ち構えているのが、アマリアズの『空気圧縮』。
半透明の球体に『闇媒体』が触れた瞬間、大きな破裂音と共に地面が抉れる。
直撃だったので『闇媒体』は遠くへと吹き飛び、地面を転がりながらデロリと溶けた。
「あれっ?」
「今回は早いね。なんでだろう」
まだ戦い始めて一時間も経ってないはずなんだけど……。
いや、まぁすぐに倒せたからいいと言えばいいんだけどさ。
いつもは昼までかかった戦いがこんなに早く終わるのはなんだか違和感だった。
もしかして……『闇媒体』の新しい魔法!?
ちゅ、注意しておかないと違うところから攻撃が飛んでくるかも!
そうだよね、油断してやられるなんてこと結構あるからね!
すると、森の奥からパンパンッと手を叩きながらウチカゲお爺ちゃんが姿を現した。
これは、戦闘終了の合図だ。
「見事だ」
「……え? 終わり?」
「ああ。お前たち、いつの間に魔物を倒したのだ? いつもと違う火力だったから『闇媒体』が持たなかったではないか」
「……ああ!」
そういえばショロウオウを倒したんだった!
そうか、あれで経験値がもらえてたんだね。
おかげで僕たちの技能の火力が上がっていた……ってことでいいのかな。
にしても今回の『闇媒体』弱かったような気がするけどね……。
ショロウオウを倒しただけでそんなに攻撃力が上がるとは思えないし。
「いや、宥漸君。ショロウオウって冒険者で言うところのAランクの魔物だよ」
「……ふぇ?」
「臭いで対象の感覚の一部を完全に遮断。更に他の魔物、動物を使役する。おまけに遠距離攻撃持ちで自己回復できる魔物だからね。脅威度は結構高いよ」
「……い、言われてみれば……!」
僕が倒した時、結構ごり押しで倒したからなぁ……。
仕方がないと言えば仕方がないんだけど。
てことは、結構経験値を貰えてたんだ!
だけど技能は増えなかったなぁ……残念。
すると、ウチカゲお爺ちゃんの後ろからキュリィが顔を出した。
彼女はウチカゲお爺ちゃんに懐いたらしい。
僕はそれを見て小さく手を振るが、アマリアズは不機嫌そうだった。
「アマリアズ。顔に出てるよ」
「む。……っす~……はぁ~……。私はポーカーフェイスが苦手なんだ。というかこいつが『空間把握』に引っ掛かるから稽古のやりにくい事やりにくい事」
「本人の目の前で邪魔者扱いしないの。僕たちが助けたんだから、最後まで面倒見ないと」
「そ~だけどさぁ~~」
いやまぁ……アマリアズが危惧していることは分かるけどね?
実際、このキュリィっていう悪魔が本当に悪魔なのかどうか、僕も少し疑っているところはある。
今も気配を全く感じ取れないし、それはウチカゲお爺ちゃんも同じだという。
これは明らかに技能だよなぁ~……。
多分ここにいる全員、キュリィが技能を持ってるってことは理解してる。
でも四百年以上前の悪魔だという証拠はないし、アマリアズは幼い容姿からそれは違うと言い切っている。
どうなんだろうなぁ、これ……。
あ、因みに一ヵ月くらい後に、ウチカゲお爺ちゃんの友達の悪魔がここに来るらしい。
それでキュリィのことを見てもらうんだってさ。
まぁ本物の悪魔に任せるんだったら、僕たちも安心かな。
「……お、お邪魔でしたか……?」
「いいや、大丈夫だよー。アマリアズのことは無視していいからね」
「ちょっと」
「もう少し警戒心解きなよ。ウチカゲお爺ちゃんも今は大丈夫って言ってるんだから」
「……んん~~~~」
「ご、強情だなぁ……」
そんな様子を見て、ウチカゲお爺ちゃんは小さく笑った。
「フフ、疑いを持つことは良い事だ。さて、稽古は終わった。次はキュリィの記憶を取り戻すために山を散策してみよう」
「了解!」
「ええ~……」
ええーじゃない!
ほら行くよっ!!




