3.16.疑い
「……え?」
アマリアズの言葉に、思わず声が漏れる。
まったく予想していなかった答えだ。
それに、あの悪魔が正体を偽っているとは思えない。
シシラさんの心を読み取る魔法が、それを証明しているのだから尚更だ。
だがアマリアズは疑い続けた。
その理由を僕に分かりやすく説明してくれる。
「技能が失われた後、生物は“技能持ち”と“技能を持っていない”個体が区別されるようになった。悪魔はそれが角なんだと思う。ウチカゲお爺さんが言ったのならこの仮説は正しいはず。で、今は生まれないはずの“角が折れ曲がった悪魔”が幼い容姿でいることは不可解だね」
技能が失われたのは四百年前であり、もしその時に産まれた悪魔がいたとしても四百年経てば少なからず成長する。
あの幼い容姿で“技能持ちと同じ特徴”を有しているということが、アマリアズは引っ掛かったようだ。
なにかの変異が起こったのか、それとも人為的に角を曲げられたのか。
その可能性も考えられるが、偶然そう施された悪魔が来たというのもなんだか納得がいかない。
アマリアズは一気に幼い悪魔への警戒度を上昇させ『空間把握』で監視することにした。
今はシシラの家で静かにしているようではあるが、これからどうなるか分からない。
「で、でもでも、そんな変な感じはしなかったよ? アマリアズもそう思わなかったから連れて帰ってきたんでしょ?」
「悪いけど悪魔の特徴を知ってたら、連れて帰らなかったかもしれない。……というか、変なところはもう一個あるんだよ」
「え?」
「宥漸君。君、あの子の気配感じ取れなかったんだよね?」
……た、確かに気配を感じ取ることはできなかった。
ショロウオウと同じ感じだったけど……アマリアズの『空間把握』に引っ掛からない魔法があるんだから、僕の気配感知にも引っ掛からない人や魔法があってもおかしくはないと思う。
「でも、感じ取れなかったのは……“初めて”だよね?」
「……うん」
あの時はショロウオウの魔法も解除されてた。
だから気配を感じ取れなかったっていうのは、少し変だ。
僕は『大地の加護』という特殊技能があるから、気配を完全に消さない限りは発見することができる。
でもあの子は眠っていた。
無意識下で気配を消すなんて無理だろうし、普通だったら発見できていないとおかしい。
アマリアズの『空間把握』には引っ掛かったんだからね。
……でも、分からなかった。
「……ねぇアマリアズ。今アマリアズはあの子のことをなんだと思っているの?」
「技能持ち」
間髪入れずに、アマリアズはそう答えた。
技能には自動的に発動し続ける物もあると聞いたことがある。
それを悪魔の少女、キュリィが使用し続けていたというのであれば、僕が気配を感じ取れなかったことも頷ける。
気配を完全に消すのは、技能でなければ不可能だ。
アマリアズの『木化け』がいい例であり、あれを使われると僕でも気配を辿れなくなる。
つまり、キュリィは自動的に発動し続けている隠蔽技能があると、アマリアズは読んでいるのだ。
これが本当かどうか確かめる術はないし、憶測の域を出ないのだが……その可能性は十分すぎるほど高かった。
「そいつ、他に何か言ってた?」
「いや、記憶がないみたいで名前以外に覚えていることはないみたい」
「……ああー、考え始めるとキリがないなぁ。まぁとにかく、注意しておかないとね」
「んー……」
ちょっと警戒しすぎている気もするけど……。
アマリアズが言うことにも一理ある。
悪魔ではあるけど、ウチカゲお爺ちゃんも少し警戒していたみたいだし、僕も気を付けておいた方がいいかな。
拾って来ておいてなんだけどね……。
まぁウチカゲお爺ちゃんとアマリアズの監視があるから大丈夫でしょ。
今も技能使って見張ってるっぽいし……。
……あのー……さ。
何この良いことしたと思ったのに蹴落とされる感じ!!
いやっ!!!!




