3.10.ショロウオウ討伐
口の中からデロリと出した舌は完全に再生していた。
傷一つ付いておらず、唾液が垂れて糸を引いている。
容赦なく飛んできた攻撃を回避して『貫き手』を喰らわせようとするが、巧みに躱されてしまい攻撃が一切入らない。
どうやら先ほどこちらを見ていた鹿三体がアマリアズを執着に狙っているようだ。
だが『身代わり』のお陰で攻撃を受けてもダメージは一切ない。
何とか交戦しているようではあるが、やはり『空間把握』だけでは体をうまく動かすことができないようだ。
どうやら少しだけラグがあるらしい。
鹿の突進を避けようとしてタイミングを合わせられていなかった。
だが『身代わり』が発動しているので『空圧剣』を破裂させて鹿を一体倒すことに成功している。
それから鹿は少し警戒しているようだったが、何度か頭を振るうとすぐに突進してアマリアズを遠くへと持っていく。
同じ様に『空圧剣』を破裂させてダメージを与えると、どさりと鹿が地面に倒れる。
「自爆攻撃は好きじゃないんだけどな! ってまだ来るのかよ! 宥漸君! 追加で五匹こっちに来てるよ!」
「んなことっ! 言われっ! てもっ!」
舌の攻撃速度上がってない!?
ていうか近づけないんだけど!
いや相手もそういう風にしてるってことは分かってるけどね!
捕まったらなんか面倒くさそう。
ていうか普通にあの舌に捕まるの嫌だから避けまくってるけど、これ不毛だな!
本当は『ツタ縄』で縛り上げたいんだけど、この辺近くにツタがないみたいなんだよねー!
あるような雰囲気めっちゃするのになんでないの!
「ええい! 『爆拳』!」
地面を殴り、爆発で地面を掘り返す。
大量に舞った土がショロウオウへと降りかかって一時的な目つぶしをする事に成功したが、その瞬間舌が上下左右に激しき動き回った。
広範囲に及ぶ攻撃だったので僕も一度だけ攻撃を喰らってしまい、そのまま吹き飛ばされてしまう。
思った以上に高威力だったが、すぐに体勢を立て直してショロウオウへと目線を向けた。
「厄介だなぁ……」
「そっち任せてもいいかなぁー!?」
「時間かかりそう!」
「できれば早めにお願い!! 宥漸君が作った『空圧結界』に鹿が角ぶつけてるから!」
「え!!?」
バッと後ろを振り返ってみれば、二匹の鹿が大きな角を僕が作った『空圧結界』に何度も何度もぶつけていた。
あの程度では壊れないだろうと思っていたが、何故か罅が入り始めている。
え、ええええええ!?
結構硬めに作ったつもりなんだけどなんで壊れそうなの!?
ていうかあれ壊れたらベドロック持っていかれちゃうじゃん!
させるか……って思ったけどまずこっち何とかしないと行かせてくれないよね!
バチンバチンッ!
舌を地面に二度叩きつけた後、そのままの勢いで再びこちらに迫ってきた。
ああー気持ち悪いけど仕方ないかぁ!!
近くに川あるし!
あとで綺麗に洗うことにしよう!
覚悟を決めた僕は、その攻撃を避けることなく受けた。
小さな衝撃が走った程度でなんともなかったが、ショロウオウはすぐに舌を引っ込めようとする。
だが、攻撃というのは直撃時、一瞬だけ静止する。
その瞬間を逃さずに『貫き手』を使って舌を両断した。
「ジュロッ」
「うぎゃああああ気持ち悪ー!! 『空圧結界』!」
「ジュッ!?」
舌を掴み、即座に『空圧結界』を作り出した。
作った場所は地面すれすれであり、舌がその間に挟まっている。
この技能は作った場所から動かすことができないので、引き抜かない限り逃れることはできない。
グングンッと舌を引いて戻ろうとしているが、僕が千切った先端をしっかり握っているし『空圧結界』で挟んでいるので中々力が入らないらしい。
よーし、やっと僕の番だね。
舌を握ったままっていうのが気持ち悪いけど……!
そのまま鬼人舞踊無手の構えを取る。
自由に動かせる左拳に力を入れ、今し方作った『空圧結界』ごと『爆拳』でショロウオウを吹き飛ばす!
「『爆拳』!」
カッ……ドオオオンッ!!
今持てる最高威力の大爆発が『空圧結界』を粉々に破壊して動きの鈍いショロウオウへと直撃した。
爆発で地面が抉れ、射線上にあった木々が何本か倒れてしまい、僕の背よりも大きな岩がバウンドして転がっていく。
爆発音に驚いた動物たちが体を一瞬跳ね上げると、キョトンとした様子で周囲を見渡して逃げていった。
アマリアズと取っ組み合っていた鹿も角を振るってから逃げ出したようだ。
先ほどショロウオウがいた場所には、何もなかった。
だが奴は打撃攻撃は有効ではないとアマリアズが言っていたので、追撃するためにすぐに走り出す。
今の『爆拳』だけでは死にはしないはずだ。
すぐにショロウオウが倒れている場所まで近づく。
手刀の構えと取って『貫き手』を使い、首を刎ね飛ばす。
それでもしばらく体が動いていたが、次第に動きを鈍くして最後にはピクリとも動かなくなった。
「……はぁ~……お、感覚が戻ってきた」
そうか、倒さないと感覚って戻ってこないんだ。
じゃあなんにせよ倒さなきゃいけない相手だったんだなぁ。
面倒くさい魔法、結構魔物持ってるよねー……。
よし、じゃあとりあえずこれ持って帰りますかぁ~。
……なんか荷物増えたな……。




