2.34.スレイズ・コースレット
旅の道中での野宿……。
修行でやった野宿とあんまり変わらなかった。
まぁ基礎知識をウチカゲお爺ちゃんに教わってたということもあって、何事もなく普通に終わってしまったのでなんだか寂しい。
ていうかアマリアズが手慣れ過ぎてる。
そんなこんなで一夜を過ごし、僕たちはついにガロット王国の検問所まで来ることができていた。
ガロット王国には様々な種族がいて、近づくにつれて獣人を多く見ることができた。
多種多様な種族を招き入れるこの国は獣人たちにとっても通いやすく、そして住みやすい場所であるらしい。
そうケンラさんが教えてくれた。
というか……。
ガロット王国、すっごい大きい。
城壁のてっぺんを見上げるのには、体をのけぞらせなければならない程だ。
沢山の攻城兵器が壁の中にあるらしく、砲門らしき場所も見て取れた。
検問所の前まで来れば、壁の分厚さも見ることができる。
五メートルほどの厚みがあるらしく、ちょっとやそっとじゃ崩れることはなさそうだ。
あ、でも鬼の力なら簡単に壊せちゃうかも。
ウチカゲお爺ちゃんにかかればそれくらい簡単っぽいな。
「身分証明書と通行料をお願いします」
ようやく僕たちの出番が来たようで、御者のケンラさんにガロット王国の兵士さんが槍を持って近づいてきた。
ほ、他の国の装備って初めて見るかも!
すごい、全身を鉄で覆ってる……。
前鬼の里の防具は全身は覆わないから動きやすいんだろうけど……この人よく動けるなぁ。
「前鬼の里の者です。今日はスレイズ様にお会いするため参じました」
「スレイズ国王様に……?」
「ここは、私が顔素出した方がよさそうだな」
「おお!!? う、ウチカゲ様!?」
驚いた声を上げたのはガロット王国の兵士だった。
どうやらウチカゲお爺ちゃんのことを知っているらしい。
本当に顔が広いんだなぁ……。
すると兵士がびしっと背を伸ばし、敬礼をした。
「これは失礼いたしました!」
「良い。して、通っても良いか?」
「あ、通行料だけはお願いします」
「うむ。ケンラ」
「はい」
予め用意していたお金を兵士へと手渡し、僕たちはガロット王国の中へと馬車を進めた。
大通りは様々な商店街や出店が建ち並んでおり、入国してきた人々を歓迎している。
僕たちもその通りを通り、いい匂いや面白そうな店、武器屋などを通り過ぎながら目的地へと向かった。
僕は初めて見るものばかりで落ち着けなかった。
全部が全部面白そうなもので、ここに来た目的を忘れてしまいそうだ。
だ、だけど今回はアマリアズのことだからね……。
ここは……我慢……!
「はははは、あとで見て回りましょうね」
「いいんですか!?」
「まぁもとよりそのつもりでここには来ましたからね。ですがまずはアマリアズ君のことを優先しましょう」
「はい!」
やったあ~!
じゃあそれまでは大人しくしておこう……!
楽しみだなぁ!
それから少し馬車を走らせると、再び城壁が現れた。
ここから先は一般の馬車を走らせることはできないようだったので、近くに馬を預けて徒歩で向かうことになった。
そしてここからでも見える大きなお城へと、僕たちは歩いていく。
お城は前鬼城とはまったく違う造りをしていた。
とんがり屋根が多く、丸い屋根も何個か見える。
木材ではなく石材を主に使用しているらしいのだが、寒そうなイメージはまったくない。
むしろ白い石材はお城をより一層強調させている様だった。
お城への門を堂々と通り、近くにいた兵士たちに話しをする。
彼らは慌てた様子で走りまわり、ウチカゲお爺ちゃんが来たということを知らせに行ってしまったようだ。
「……ふむ、やはり一言あった方が良かっただろうか?」
「あの、ウチカゲ様。それが普通です」
「まぁよかろう。あやつがいつでも来いと言ったのだからな」
「それでいいのぉ……?」
すると、兵士が戻って来て案内をしてくれた。
大きな庭を通り、通り過ぎる使用人や兵士に挨拶をしながら城の中へと入り、中にあるものすべてが大きいことに驚きながらこれまた大きい廊下を歩いていく。
しばらくすると目的地へと辿り着いたようで、兵士がノックをした。
「スレイズ様、ウチカゲ様がお越しになられました」
「なにぃ!!?」
中からこれでもかという程大きな声が聞こえた後『ちょっと待ってろ!』と指示を出してバタバタと動きはじめたようだ。
ウチカゲお爺さんの顔を見てみると、少し呆れたように息を吐いたが、その後小さく笑っていた。
「入れ」
「……」
先ほどとはうって変わった声が中から聞こえてきた。
兵士はようやく扉を開け、僕たちを中へと招き入れてくれる。
中は豪華とはいかない少し落ち着いた空間だった。
王族にしては珍しい落ち着いた部屋を好むスレイズは他の貴族や公爵の人たちに何度か注意されているがまったく聞く耳を持たないらしい。
多くの書物が棚に並べられており、色の濃い年季の入った木の机の上には書類が少し乗っかっていた。
机の前に座っている男性が、僕たちが入ってきたと同時に立ち上がる。
中性的な顔立ちをしている男性ではあったが、少しだけ力強い青い瞳を有していた。
茶色い髪はまっすぐで後ろ髪が少し長い。
服装も部屋に合った落ち着いた服であり、藍色の生地に金色のボタンが幾つかついているだけのものだ。
手には白い手袋をしており、パッと見ただけでは彼がこの国の国王とは誰も思わないだろう。
「やぁ、久しぶりだねウチカゲ」
「二年ぶりか。スレイズは相も変わらず、他の者たちを困らせているようだな?」
「ふふふふ、それはウチカゲのせいでもある。あのようなシンプルだというのに美しい家屋、部屋、それにぴったりと合った服……そんなものを見せられてしまえば、魅せられるのは当然のことだと思わないか?」
「少なくとも私はこの国の部屋模様の様式は気に入らん」
「私もだ。よしよし、兵士諸君は退出せよ」
「「はっ」」
兵士はそう言われると、部屋を後にして扉を閉める。
二人の兵士が完全に部屋を離れたことを確認したところで、スレイズが大きなため息をついて机に座った。
「おいおいウチカゲぇ。来るなら来るって行ってくれよなぁ」
「いつでも来いと言ったのはお前ではないか」
「いやそうだけどぉ~~」
「「「……」」」
僕とアマリアズは顔を見合わせた。
ケンラさんも少し困った顔をしている。
な、何だろうこの人……。
さっきと違ってとても砕けて喋るようになったんだけど……なんで?
「ああ、初めましての人が多いな。俺はこの国の国王、スレイズ・コースレットだ。よろしくな子供たち、そして……君はケンラだったか?」
「名を覚えてくださり光栄にございます。此度はウチカゲ様の護衛兼子供たちの護衛を任されて馳せ参じました」
「ウチカゲには護衛はいらないだろ~っはははは。それでそれで、君たちは?」
「宥漸です」
「アマリアズ」
「ユーゼンにアマリアズか。よろしくな」
んっ?
なんか名前の発音がちょっと違う気がする……。
聞き間違えたのかな?
「それで? 俺に子供たちを合わせて何を企んでんだ?」
「人聞きが悪いぞスレイズ。まぁ頼みごとをするのに違いないが」
「四代目国王アスレ・コースレット様の時からのご友人だ。なんでも頼むといいぞ」
スレイズさんがそういうと、ウチカゲお爺ちゃんが腕組をした。
そして難しい顔をしていることに気付き、ようやくスレイズさんもこれは面倒な話かもしれないと思って顔を引き締める。
「……おいウチカゲ。何を持ってきやがった」
「技能を所持する者が狙われている」
「……まじかよ」




