2.32.ガロット王国
今日は前鬼城二の丸御殿が少し騒がしい。
正面に馬車が止まっており、ウチカゲお爺ちゃんの家臣である鬼さんがぱたぱたと動き回っている。
一人は馬の世話を、一人は馬車に荷物を詰め込み、一人は地図を広げて首を傾げていた。
そのほかの鬼さんはウチカゲお爺ちゃんの周りに集まって何か抗議している最中だ。
どうやらウチカゲお爺ちゃん一人で向かわせることを断固として反対しているらしい……。
ウチカゲお爺ちゃんだと大丈夫だと思うんだけどなぁ。
でもまぁ……このお城のリーダーだもんね。
心配するのは分かる。
そんな様子を僕とお母さん、アマリアズは少し遠目に見ていた。
ちなみにお母さんにはアマリアズをすでに紹介し、今日ガロット王国へ行くことも伝えている。
初めは驚いていたけど、ウチカゲお爺ちゃんが一緒に来てくれるってことを伝えると安心したようで、ガロット王国へ行く許可を出してくれた。
まぁ初めての旅……になるのかな?
今までずっと前鬼の里ので生活していたもんなぁ。
他の国に行くのは初めてだからちょっと不安ではあるけど、それよりも楽しみが勝っているかな!
楽しみ楽しみ!!
「なんかー、説得するの難しそうだね。あれ」
「今回ガロット王国へ行くのは、アマリアズ君。貴方のために行くのだから、感謝しないと駄目よ」
「ううぅ……行きたくない……!」
「お母さんたちにしっかり挨拶してきなさい」
「はぁい……」
アマリアズはガックシと肩を落とし、大きなため息をついた。
お母さんに紹介した時、アマリアズがお母さんに会いたくないっていう話もしたんだよね。
そしたらお母さん、凄い真面目な顔になって説得してた。
ちょっとびっくりしたけど無事にアマリアズを説得できたようだったので一安心。
まぁなんにせよ、アマリアズのお母さんに話をして、アマリアズは前鬼城に住まわせることを説得しに行くことになった。
許可を出しやすくさせるために……少し卑怯ではあるけれど、ウチカゲお爺ちゃんの知り合いであるガロット王国の国王様、スレイズ・コースレットっていう人に協力を仰ぐみたい。
……ってこれから国王様に会うのか!
多分言い方が違うだけでウチカゲお爺ちゃんと同じ立場の人だよね。
国のリーダー、かな?
そんな偉い人に会っても大丈夫なのかなぁ?
「お母さん。スレイズって人、どんな人なの?」
「私よりウチカゲの方が詳しいわ。移動中暇だろうし、そこで聞いてみるといいわ」
「分かった。あ、お母さんは来ないの?」
「うん。ウチカゲがいるなら大丈夫でしょ。アマリアズ君のことよろしくね」
「大丈夫、絶対に連れていく」
「その確固たる意志はなんなの」
そんな会話をしていると、ようやく一人の鬼が僕とアマリアズを呼んだ。
お母さんに『行ってくる』と言ってから二人で馬車の場所へと走っていく。
すると、一人の鬼がウチカゲお爺ちゃんの隣りに居た。
彼は狐のような細い目をしており、髪の毛の色も狐っぽい。
珍しい黄色い角で先端が少し丸くなっているのが特徴的だ。
腰に鍔のない日本刀を携えており、身軽そうな和服を着ており、たっつけ袴がよく似合う。
どうやらウチカゲお爺ちゃんは説得に失敗したらしい。
この鬼が同行する様だ。
「……えーと、誰ですか?」
「はは、そういえば話すのは初めてですよね。自分はケンラです。今回ガロット王国に行くのに同行させていただくことになりました」
「必要ないというのに……」
「駄目ですよウチカゲ様。ウチカゲ様はともかく、宥漸君とアマリアズ君はまだ子供です。慣れない土地へ向かうのに、ウチカゲ様だけではお二人を見れないでしょう」
「問題はない」
「ではスレイズ様と会う時、ウチカゲ様だけが通ることを許されたらどうするんですか?」
「そのようなことはない」
「可能性の話です。大体ですね……」
そこからくどくどとケンラさんはウチカゲお爺ちゃんに説教じみた話をし続けた。
えっとこれは……どうしたらいいんだろう。
アマリアズと顔を見合わせてみるが、やっぱり打つ手なしって感じだよね。
すると困ったようにしながら一人の鬼さんが話しかけてくれた。
「宥漸君、ごめんね。急に若いのが同行することになって」
「えっと……僕初めて会うんですけどどんな人なんですか?」
「一言で言えば、家臣の中では一番強い。ウチカゲ様と共にライキ様っていう昔の城主様に仕えていた鬼の子孫なんだ。ま、詳しくは道中で聞いたらいいんじゃないかな。暇つぶしになるよ」
「分かりました。聞いてみますね!」
へぇー、なんかすごい人が一緒に来てくれることになったってことでいいのかな!
なんかあの武器かっこいいなぁあれ!
あ、でも前鬼の里の武器って切れ味が凄いから危ないんだった……。
僕なら見ても大丈夫かな?
ウチカゲお爺ちゃんに止められそうだけど。
しばらくするとケンラの話が終わったらしい。
彼は御者をする為に馬車へと乗り込み、外にいた僕たちに声をかける。
「では行きましょう! 自分が御者を務めます」
「行こ! アマリアズ!」
「はぁー……。わかったよぉ……」
渋々アマリアズは馬車に乗ったので、僕もそれに続いて乗り込んだ。
ウチカゲお爺ちゃんはいつの間にか乗っており、少し不機嫌そうだった。
なんでちょっと不機嫌なんだろう?
まぁいっか。
すると馬車が動き出した。
初めてのプチ旅……楽しみだなぁ!




