2.9.次のステップ
今日は昨日より少しだけ離れた場所に降ろされた。
日に日に距離が伸びていくと考えると、少しだけ気が遠くなりそうだ。
まだ周囲の気配が感じ取れない。
感じ取れる気配も今のところないし、この森から僕は本当に前鬼城に帰ることができるのだろうか?
……想像がつかない……!
そういえば、ウチカゲお爺ちゃんにアマリアズの叔父さんのことを聞いてみたけど何も知らなかったみたい。
まぁ自分のことを元神様って言う人をそう簡単に忘れるはずがないし、本当に知らないんだろうな。
でも『どうしてそんな話を?』って聞かれた時はちょっと危なかった……。
アマリアズのことはその時言っていなかったからセーフだったけど、危うくアマリアズのことを感づかれそうになっちゃったんだよね。
隠し事って難しいなぁ。
「おーい? アーマリーアズ~! いるー?」
「いるよー」
ぴょこっと出てきたアマリアズは、すぐに僕の方へと歩いてきてくれた。
うん、気配もばっちり捉えてる。
アマリアズはまだ出会って数日だけど、修行を手伝ってくれているからか気配を強く感じ取れるんだよね。
だから呼ぶ前からどこにいるかは分かってた。
「さて、じゃあ次のステップに移ろうか!」
「え? 昨日と同じことをしなくてもいいの?」
「あれだけ薄い殺気を感じ取れたんだ。もう同じことはしなくてもいいよ。次やることは危険な気配を感じ取る修行ね」
「危険な気配?」
「これ」
そう言って、アマリアズは手を合わせた。
すると風が発生し、何かが手の中に集結していく。
「あっ。それって魚獲る時に使った技?」
「正解~!」
「……ちょっと待って? それを今から……どう、するの?」
「投げる」
「……なにに向かって?」
「決まってるじゃん!」
急に体全身に危険信号が流れ、今すぐその場所から逃げろと言っている。
咄嗟に横に飛ぶと、顔の真横を何かが通り過ぎた。
しばらくすると、後方で小さな破裂音が響く。
音のした方向とアマリアズを交互に見やる。
破裂音の大きさからして魚を獲った時に使用した『空気圧縮』より威力は弱めに設定されているようではあるが、音を聞けば危険だということがすぐに分かった。
あれに当たれば、恐らく吹き飛ばされるだろう。
「ちょっ!? ちょちょちょちょちょっ!!?」
「あ、避けた。なーんだ、もう感覚掴めてるじゃん!」
「え!? そ、そうなの!?」
「じゃあ今日はその精度を上げていこう!」
「うえっ!?」
アマリアズの両手に『空気圧縮』が既に握られている。
これは威力の小さい爆弾だ。
当たったとしてもなんともないだろうが、あんなので吹き飛ばされるのは嫌だ!
すると危険な気配が真正面からやってくる。
横に飛んで回避すると、再び同じ方向から危険な気配が飛んできた。
爆拳を使って空を飛び、危なげながらも何とか遠くの方に着地してアマリアズを見る。
パパァンッ!!
僕が避けた方向から破裂音が二度響いた。
ちょ、ちょっと待って?
今日はこれを一日中やるつもりなの!!?
ってもう次の用意してるじゃん逃げろおおおお!!
「ほぐっ!?」
ダッシュで逃げようとしたが、そこで木にぶつかって跳ね返された。
なんともないが、これによって攻撃されやすくなってしまった。
コトッと何か硬いものが僕の近くで止まる。
それが何かは、たとえ目が見えていなくても理解することができた。
パァンッ!!
「おわああああ!!」
空気圧縮が爆発し、僕を簡単に吹き飛ばす。
木や根っこにぶつかりながら転がってようやく勢いと落とし、最後に低木に突っ込んでようやく止まった。
小さい破裂の筈なのになんか威力が凄いんだけど!!
なにあれ!?
確かアマリアズは『空気圧縮』とか言ってたよね!?
なんであんなのぽんぽん投げられるの!!
ていうか周りの地形が分かんないから僕めっちゃ不利じゃん!
さっきも木にぶつかったし!
いやこれ無理だって絶対に避け切れないって!!
「もー!! ウチカゲお爺ちゃんもアマリアズもなんでこんな修行ばっかさせるんだよー!!」
「次行くよー」
「わああああああ!!」
いつの間にか近づいてきていたアマリアズは、容赦なく『空気圧縮』を投擲する。
周辺がどうなっているかまったく分からないけど、今は逃げるしかない。
すぐに低木から抜け出して全力で走ると、変な気配を感じた。
それはアマリアズも同じだったようで、攻撃の手をぴたりと止めてその気配の方へと目を向ける。
ズンッ、ズズッ……。
ズンッ、ズズズッ……。
獣、魔物は総じて足音を限りなく減らして歩くのが一般的だ。
それは自分よりも強い生物から身を守るために必要なこと。
隠れる技術というのが彼らは非常に上手い。
しかし、今こちらに敵意を持って近づいてきている獣はそうではなかった。
自らの存在を強調するように足音を立てて歩き、体の重さで足が地面に少しだけ沈んでいる。
目が見えない僕でも、その獣……もしくは魔物が発している気配は良く感じ取ることができた。
あれは殺気だ。
昨日散々アマリアズと修行してきた殺気の感触と同一だった。
だがアマリアズの殺気とは種類がまるで違う。
ぞわりとした気配ではなく、体に張り付くような気持ち悪さと若干の悪寒が襲ってきていた。
それにより、足が非常に重い。
今対峙している存在は、こちらをただの“食料”としか見ていない。
そのような気配が、伝わってきた。
「わぁお……。なんでこんな所にいるんだよ……」
「あ、アマリアズ……。あれはなに?」
「魔族領の魔物だよ。ベチヌっていうね」
ベチヌと呼ばれた魔物は、自分の名前に反応するかのように鳴いた。
「キュアアア……」




