7.11.効かない攻撃
ダチアとイウボラが一気に翼を広げる。
一つ風を掴んで羽ばたけば、即座に最高速度に到達して急激に接近した。
だが速いのはやはりダチアだ。
ダイスで強化した速度は今も健在であり、瞬きの間に天使の正面に接近する。
先ほどはなぜか攻撃が効かなかった。
今回もそうかもしれないが、検証してみなければわからない。
なのでそのまま長剣を振り下ろし、斬撃を繰り出す。
だが、天使は避ける素振りすら見せなかった。
ダチアは目にも留めず、後ろから来ているイウボラにのみ視線を向けている。
ガンッ!!
ダチアの長剣は見事に天使の肩に直撃した。
だがやはり、斬れなかった。
「てめぇ、なにしやがった……」
「──脅威を減らしたまでです」
素早い動きで片腕を引いた後、空気を殴るようにして掌底を繰り出す。
するとダチアに空気の塊が襲ってきたようで、ドンッ!! という音と衝撃波が生じた。
その勢いに抗うことはできず、遠くの方にバランスを崩しながら飛んで行ってしまう。
翼を動かして何とか体勢を立て直し、天使、アルテッツを見てみればイウボラと格闘戦を行っていた。
「……接触が条件ではない……? もしくは冷却時間がある?」
先ほどアルテッツが使った『万物硬化』は、海を硬質化させた。
更にイウボラもその攻撃を受け、動くことができずに海の中に沈んだ。
これで『万物硬化』の能力は大体分かったが、発動条件が未だによく分かっていない。
接触すれば生物でも硬質化させることができるとは思っていたのだが、格闘戦を繰り広げている時点でそれはなさそうだ。
もし触れるだけで生物にも使えるならば、イウボラは既に動けなくされているだろう。
となればあとは発動条件がシビアなのか、それともクールタイムがあるかのどれかだ。
もちろんわざと使っていないという可能性も残っているが……。
なんにせよ、あのまま格闘戦を続けているのは良くない。
それはイウボラも分かっているはずだ。
だがそれでもイウボラが接近戦を挑み続けるのは……それこそが彼が最も得意とする技だからである。
「『肉塊変化』」
「がっ!?」
拳を繰り出した瞬間、腕から幾本もの鋭い触手のようなものが飛び出し、それがすべてアルテッツに突き刺さった。
今までこれを使わなかったのは、油断させるため。
特別な変形術を所持していると思わせないために、しばらく格闘戦を繰り広げたのだ。
硬質化させる可能性もあったので賭けではあったが、こうして成功したので良しとしよう、とイウボラは不敵に笑う。
「何回か死んでもいいんだったな。じゃあ何度でも死ねるように包んでやる」
イウボラの腕がデロリと溶け、白い肉塊が質量を無視して増幅する。
それはアルテッツをバグッとくらい、一定間隔を置いて収縮していく。
明らかに人の形を保てない程に収縮した肉塊はそのままになり、イウボラの肉体と切り離す。
新たに生やした腕で少し大きめのボールとなった肉塊を持ち、ぽんぽんと手で弄んだ。
「大天使も大したことないな」
「──そう思いますか」
「……は?」
バッと後ろを見やれば、そこにはアルテッツがいた。
すぐに手に持っていた肉塊をばらしてみれば、肉塊どころか血液もこぼれ出てこない。
元からそこにはなにもいなかった。
その感覚すらも、錯覚したかのように思えてくる。
アルテッツは満足そうに首を回し、コキリと音を鳴らす。
「──これで、三つ」
「なんなんだ……あの野郎……」
何度か死んでも問題ないというのは分かっていた。
だからああして拘束したのに、それが無に帰したのだ。
どういう技能なのだろう。
蘇る為の技能だということは分かっているが、死体を消して再構築したように思える。
明らかに普通の技能ではないし、これをこの戦いの中で解明するのは不可能に近そうだ。
アルテッツが、空洞になっている双眸をこちらに向けた。
ケタケタと肩を揺らして不気味に笑い、手に一本の光の針を作り出してこちらに針先を向ける。
イウボラは、何か嫌な予感がした。
チュンッ。
「ゲッ……」
細い光が、イウボラを貫通する。
だがその傷は一瞬で埋まり、何事もなかったかのように元通りになった。
それを見てアルテッツが首を傾げる。
「──不死身?」
「お互い様のようだな」
死なない二人。
それは、お互いの技能がそうさせているようだった。




