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【完結】霊亀の息子は硬度最高  作者: 真打
第二章 友達と修行
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2.3.目隠し修行


 前が何も見えない。

 手探りで周囲の状況を掴もうとするが、そんなものはまったくもって役に立たなかった。


 すり足で動いて根っこや土の小さな起伏に注意する。

 これなら足元は問題ないのだが、歩いていると木の枝に顔を思いっきりぶつけてしまったらしい。

 枝が折れる音がした。

 手で木の位置を探し出し、安全を確保してまたすり足で動く。

 そしてまた枝にぶつかる。


「むぅ」


 ウチカゲお爺ちゃんはどうやってこの状況で周囲を見ることができるのだろうか。

 昔やっていた修行というのだから、多分目隠しをしても動くことができるのだろう。

 まったく何も見えない状況で何を見ているのかな……。


 とりあえず今日は目隠し修行初日ということで、『闇媒体』による攻撃は飛んでこないことになっている。

 ……てことは少ししたら攻撃を加えてくるってことだよね。

 もうこれから嫌な予感しかしないんだけど。


 ていうか本当に何も見えない!

 手探りで敵の攻撃を回避するって無理があるでしょ!

 本当にこれどうしたらいいの?

 なんでウチカゲお爺ちゃんはこんな修行してたの!?


「宥漸。手で探るな。気配を感じ取れ」

「気配?」

「この世にあるすべてのものには気配が存在する。生物にはもちろんのこと、足元に転がっている小石、大地に根を張っている樹木、枝の先から落ちる枯葉にも、気配がある」

「……それを感じ取れって事?」

「然り」

「無理」


 音、じゃないんだもんね。

 気配だもんね。

 それが何かまるで解ってないんだけど……。


 とりあえず立ち止まって見て、周囲の音を聞いてみる。

 今はこれしか周りを確認する術がない。


 ……風で木の葉が揺れる音しか聞こえない。

 ウチカゲお爺ちゃんも喋ってないからどこにいるか分からないし、動物も近くにいないみたい。

 んーーーー……この修行意味あるのかなぁ……。


 しばらく適当に散策してみることにする。

 まず気配が何かよく分かっていないので、それを探し出すために動き続ける。

 歩いている内に何か気付くことがあるかもしれない。

 幸い僕は硬しい、何かあっても問題はないはず。


 そして根っこに躓いて盛大にすっ転ぶ。


「むぅ!!」

「慣れるまで時間が必要だ。一週間、その状態で過ごしてもらう」

「一週間!? ご、ご飯食べる時もってこと!?」

「左様。視覚情報を遮断しての生活は難しいが、慣れればどうってことはない。宥漸であればすぐに何か掴めるはずだ。では私は一度帰る」

「ええええええ!!?」


 それは聞いてない!

 おいていかないでよちょっと!


「待って待って!! 置いていくの!?」

「ここは五年間宥漸が修行をしてきた場所だ。意識していなくても、体が地形を覚えている。今日の修行はその状態で前鬼城まで帰ってくる事。日が暮れる前に戻ってくれば合格。次のステップに移る。戻ってこれなければ私が迎えにこよう。その代わり、明日は距離を延ばして修行を再開する」

「ぬええええ!?」

「では、励め」


 シュンッという音が聞こえ、ウチカゲお爺ちゃんがこの場から居なくなった。

 本当に置いて行ってしまったらしい。

 そんなことある!?


 ていうか今何時かもわからないんだけど!!

 日が暮れるまでって大体どれくらい!?

 今太陽どこ!?

 ちょっとウチカゲお爺ちゃんこの修行本当にめちゃくちゃだよぉ!!


「うわああああん! 絶対無理じゃん! 明日距離延ばされるの確定じゃん!! ぬうううう取れない……! どれだけ硬く結びつけたの!!」


 何とか目隠しを外せないか試してみるが、一向に外れる様子はなかった。

 これは厄介なことになった……。

 どうやって帰ればいいんだよぉ……。

 帰り道も分からないのに!


 な、何か使える技能とかないかな?

 えーっと、今僕が使える技能をまずは思い出していこう……。


 まずは『爆拳』。

 僕が一番得意とする技能なんだけど、これを使っても前鬼城には帰れないと思う。

 次に『ツタ縄』。

 周囲にあるツタを操る技能だね。

 相手を捕まえることができる技能ではあるんだけど、使い方次第で僕も移動できそう。

 さっき初めて使ったし、これはあとで実験してみようかな。

 見えてなきゃ無理だけどね!!


 次に『剛拳』。

 これは無意識に使っている技能だってウチカゲお爺ちゃんが言ってた。

 腕の力が強くなる技能だったかな。

 普通、地面に人が埋まったら自力では脱出できないんだって。

 鬼さんたちには及ばないけど、普通の人よりも強い力を出せているのだとか。


 ……。

 うん、今僕はこれだけしか技能を持っていない。

 帰る為に使えそうな技能が一個もなああああい!!

 五年間修行してきたのにこれだけしか増えなかったんだもんなぁ!

 ……技能ってどうやって増やすんだろう。

 分かんないや。


「うう……まずは方角を知らないと……。今どっちを向いているか分かんないと帰れない……」


 太陽の位置も何も見えないのだ。

 もし方角が分かる道具があったとしても、目が見えていなければ何もできない……。


 ……はっ!!

 太陽の方角なら大体分かるかも!


 思い立ったが吉日!

 僕はすぐに『ツタ縄』を使用して自分の体に巻き付ける。

 自分の位置は分かっているので、『ツタ縄』は簡単に呼び寄せることができた。

 そして木の上へと運んでもらう。

 目が見えなくても、ツタを辿っていけばそこに木がある。

 上の方へ運んでもらえば太陽の光が僕に当たるはず。

 それで太陽の位置は大体分かる!


「……ん~~~~……。だいたい真上、かな?」

「おおー、よく分かったね」

「うわああああ!!?」

「あっ」


 急に声を掛けられて、僕は肩を跳ね上げて驚いた。

 その瞬間ツタが緩み、足場にしていた枝から落っこちていく。

 枝に何度か引っ掛かり、回転しながら落下して根っこに体を打ち付ける。

 また転がって地面に寝転がり、上体だけを起こした。


「……誰?」


 知らない声に、首を傾げたのだった。


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