7.5.方針決定
今この場所に集まっているのは……。
応錬さん、鳳炎さん、リゼさんとウチカゲお爺ちゃん。
あとは僕とアマリアズ、そしてアシェラさんだ。
アシェラさんはあれからここに引き取られて様子を見ている最中なのだけど、今のところ特に問題はなさそう。
鬼たちもよくしてくれているみたいだし、生活に困ってはいないらしい。
今回アシェラさんをここに呼んだのは、天使の拠点に潜入するにあたって、聞いておきたいことが幾つかあるかららしい。
そして潜入するメンバーが……。
「俺と、鳳炎、そして悪魔のアブスだな」
「さ、三人で大丈夫なんですか!?」
「ん? ん~、まぁ何とかなるだろ。できる限り情報持って帰らないといけないし、少し隠密行動はしなければならないが最終的にその施設は破壊する」
さらっと言ってるけど、それ結構すごい事なんですよ応錬さん……?
普通出来ないですからね……?
この三名で調査、破壊に向かうのには理由があり、そもそも拠点が空に浮いているため自由に飛ぶことができる人物を選んだらしい。
応錬さんの場合は機動力は高くないが飛ぶことはできる。
だが攻撃面で優れているので攻撃されたとしても特に問題はないとの事だ。
弱点を火力でカバーするつもりらしい。
それに、今天使の拠点を把握しているのは応錬さんだけ。
なのでどうしても行かなければならないみたいだ。
「ま、心配すんなって」
「あんたのことだから心配なんてしてないわよ」
「おいおい俺たち擬似技能が作られてる拠点に向かうことになるんだぞ~? 絶対技能持ちの天使もいるだろうからちったぁ心配してくれよ」
「規格外は黙ってなさい」
「はい」
まぁ、確かに何とかなるだろうけどね……。
「隠密行動って言ってたけど、忍び込む算段とか付いてるの?」
アマリアズが応錬にそう言った。
確かに調査するにあたって隠密行動は重要だ。
情報を手に入れることができなければ意味はない。
のだが……申し訳ないけどどうにも応錬さんと鳳炎さんが隠密行動が得意だとは思えない……。
だって応錬さん白いし鳳炎さんは赤いもん!
まだアブスさんの方が適任な気がする……。
「フッフッフッフ、侮ってもらっては困るなアマリアズ」
「大丈夫なの?」
「よし、じゃあ証明しよう」
そう言った応錬だったが、結局その場から一切動かない。
誰もが訝しむ中、ウチカゲお爺ちゃんだけが感心したように感嘆の息を漏らす。
今ので何か起こったのだろうか?
「……ん? まだ?」
「アマリアズの『空間把握』にも引っ掛からぬようだな」
「え?」
アマリアズが首をかしげると、その場にいたはずの応練が霞のように霧散した。
それに驚いていると、アマリアズの頭をがっじがっしと応練は乱暴に撫でる。
「はははは、『暗殺者』っていう技能があってな。これが以外と便利なんだな」
「わあああ!? びっくりした!」
「そ、それかぁ……」
応錬さんは僕とアマリアズの後ろにいつの間にか移動していた。
アマリアズはその技能に見覚えがあったみたいだけど……『空間把握』もかいくぐって僕の気配感知も発動しなかったんだよなぁ……。
普通に凄い技能なのでは?
でも確かに、これなら侵入は容易そう……。
心配していたわけじゃないけど、やっぱり応錬さんの格好って凄く目立つからなぁ……。
「鳳炎さんは……?」
「私は隠密系技能を持っていない。だから破壊を担当することになるな」
「合図は俺が作った水の塊が破裂したら、でいいだろ?」
「姫様に作っていたあれか。ああ、それで問題ない。さて……」
鳳炎さんがアシェラさんに向きなおる。
ここからは侵入に関して気を付けなければならないことを洗い出す必要があった。
それを洗い出すうえでやはり重要な役割を持っているのは、彼女だ。
「君は、一時期囚われていたのだったな?」
「あ、はい……」
「もう一度、君が見た景色を教えてくれるだろうか? 天使の容姿、彼らの役割、守衛の数だったり内部構造だったり……。あればあるだけありがたい」
「わ、分かりました」
アシェラさんは記憶を辿りながら、ぽつぽつと説明してくれた。
以前話してくれた施設の内容と、四六時中聞こえてくる苦悶の声に加え、自分を担当していた天使、薬物の種類、実験台に使われていた人間の特徴などを教えてくれた。
施設はそれなりに大きい物であるということは分かっていたが、細部を把握することはできなかったとの事。
窓から見える景色は雲が下にあり、施設を囲うように網目状の結界が展開されているらしい。
それがどのような役割を持っているかは分からないし、アシェラがそこを出た時の記憶は一切ない様だ。
気付いたら、応錬たちに捕まっていたらしい。
「君の最後の記憶はどこかな?」
「えと……眠った……だけです……。寝て起きたら……地上に」
「寝ている間に何か技能を使ったか、それとも記憶を消したかの二つか?」
「記憶を消すメリットってあるのか?」
「もし擬似技能を付与した人間が、施設の出入りの方法を知るのを防ぐため」
「なるほど~?」
寝ている間に技能を使ったってのが一番可能性としては高いと思うけど、記憶を消すメリットも確かにあるなぁ……。
そういう細かいことをしっかり天使がこなしていたから、今まで悪魔もあいつらの存在を見つけられなかったのかもしれないし。
すると、ウチカゲお爺ちゃんが咳払いをする。
「では、動く者はすぐにでも動きましょう。アブスには私から連絡を付けておきます。して応錬様、施設の結界はいかがなさるおつもりで?」
「そこは任せとけって~! 考えてあるから!」
「……」
「なんだよ」
「「不安ですな」だ」
「ちったあ信じろよな!?」
なんで応錬さんこんなに信用ないんだ……?
ちょっと面白かったけど。
アマリアズの方を見てみるが、やっぱり笑ってない。
なーんで応錬さんを前にするとちょっと不機嫌になるのかな。
まぁいいけど。
アマリアズが小さく手を上げる。
「ねぇウチカゲさん」
「なんだ?」
「残された私たちはどうするの?」
「ガロット王国の手助けをする」
「「「「ガロット王国の?」」」」




