7.4.リゼとの会話
「で、どうしたんですか、リゼさん」
「暇だったから様子を見にね。まったく零漸の奴、息子と再会できたって言うのにすーぐにどっか行っちゃうんだから」
「あははは……。お父さんはああいう感じなんですか?」
「んーそうねぇ……」
リゼは腕を組んで考え込む。
昔のことを思い出しているようだが、ピンとくる思い出があまり無いらしかった。
他人を正しく評価するのは難しいことだが、リゼはできる限りの正確に零漸のことを宥漸に伝えたいようだ。
しばらく考え込んだところで、目を開ける。
「人をほったらかすような奴ではなかったわね。今みたいに」
「用事があると言って何処かに行っちゃいましたけど……」
「よーうーじぃー? 起きたばっかで用事なんてあるわけないじゃない!」
「ですよね~」
頬を膨らませてご立腹になっているようだが、すぐにスンっとその表情を落とす。
どうしたんだろう、と首を傾げているとクスリと笑った。
「でも、あいつが隠れて何かしてる時、どれも悪い事にはつながらなかったわね」
「そうなんですか?」
「ええ。ウチカゲが若かった頃に私たちは強大な敵を倒したんだけど、そのあと応錬が眠っちゃったんだよね。まぁそれで戦争とか起きたりしていろいろ大変だったんだけど……」
「お、応錬さんが眠ると戦争が起きるんですか?」
「違う違う。私たち人間に危険視されるようになっちゃったのよね。その原因は応錬なんだけど~」
応錬さん何したんだ……?
あれ、だけど原因が応錬さんならウチカゲお爺ちゃんももっと当たり強くていいと思うけど……そんなことないよね。
何か他に理由があったのかな。
「えーっと、詳しく聞いてもいいですか?」
「応錬の技能、『応龍の決定』。これ、簡単に言えば願いを一つ何でも叶える代わりに、代償として何か悪いことが一つ起きるの。強大な敵を倒す代わりに、私たちは人間から敵対視されるようになっちゃったのよね」
「理不尽ですね、それ……」
「私もその記憶は残ってる。でもあいつはそんなこと絶対にしないし、記憶と戦いの記憶に誤差がある。だからこれは違うって信じられたのよね」
じゃあ応錬さんたちは仲間に恵まれてたってことなのかな。
そうじゃなきゃ、今協力なんてできてないだろうし、ウチカゲお爺ちゃんも助けに行こうなんて言わないもんね。
でもそれは、全部天使のせいなのかな?
「……天使がしようとしてることって、応錬さんたちと何か関係があるんですかね」
「え? ううーん、それはどうだろう」
まだ分からない事ばかりではあるが、可能性はありそうな話だ。
応錬さんたちが昔倒したっていう大きな敵。
それは天使と関わりを持っていただろうし、その敵がやろうとしていたことを再現しようとしているのかもしれない。
もしそうだとしたら、やっぱり天使は捨て置けない存在だよね。
なにより、あいつは僕が倒したいし。
「あら? 貴方もそんな顔するのね」
「え?」
「昔の零漸によ~く似てるわ~。私たちのせいで戦争が起きてた時だったかしら。応錬はまだ寝てて、人間側の要求に本当に怒りを覚えてたみたいなのよね~。カルナさんが止めなかったら一人で殴り込みに行きそうな勢いだったし」
まぁあいつなら一人で何とかなっただろうけど、と最後に呆れた様子でぼそりと呟いた。
零漸は宥漸と同じく非常に防御力が高く、並大抵の攻撃では攻撃を受けたことにすら気付かない程だ。
いくら技能を持っている人間たちだからといっても、零漸に勝てる人間は本当にごくごく僅かしかいないだろう。
一人で戦況を覆す力を持っているこの四人。
人間たちが恐れる理由も、分かる気がする。
応錬さんは多くの技能を持っていて戦闘の幅がとても広いし、鳳炎さんは不死身であり、更に絶炎という技能を持っている。
これが当たったら勝ちというなんとも卑怯な技能なので相手からすれば厄介極まりないだろう。
リゼさんは……範囲攻撃が得意っぽかった。
大軍相手には猛威を振るうと思う。
で、お父さんは……僕と同じく硬い。
数千人を相手にしても一人で仲間の盾になれるんだから、相手からすれば堪ったものではないと思う。
僕もそのうちに入るのかもしれないけど……。
「で……この子は一体何をしてるの?」
リゼは畳に寝転がって微動だにしないアマリアズを見た。
僕も何をしているかは分からない。
「アマリアズ~」
「……」
「どうしたの?」
「宥漸君、めっちゃいい所に気付いたね」
「え?」
「……ん? どういうことかしら?」
ガバッとアマリアズが立ち上がる。
そしてすぐにその場をうろうろしながら何か思案をし続けている様だ。
僕……なにかそれっぽいこと言ったっけ……?
リゼさんの顔を見て首を傾げてみるが、彼女も分からないようで、さぁ? と小さく手を広げた。
とはいえ、アマリアズが何かに気付いたんだったら、それは正しい憶測の可能性が高い。
大体のことを知ってるし、僕よりも頭がいいんだから大丈夫でしょ。
ちょっと心配ではあるけど……。
「おお~い、皆いるかぁ~?」
「応錬様は『操り霞』で誰がどこにいるか分かっておいででしょうに」
「人のプライベートまで分かっちまうからこういう所では使わねぇようにしてんだよ。おっ、ここか」
応錬さんとウチカゲお爺ちゃんが一緒に歩いてきて、顔を覗かせた。
「まとまったから情報の共有すっぞ~。場所ここでいいか?」
「僕は大丈夫です。お父さんどっか行っちゃいましたけど」
「あ、そうなの? まぁあいつはいいや。主要人物だけ集めて、聞いてない奴らにはウチカゲから連絡してやってくれ」
「承知いたしました。では他の者を呼んでまいりましょう」
「おう」
そうしてしばらくした後にここに集められたのは、鳳炎とアシェラだった。




