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【完結】霊亀の息子は硬度最高  作者: 真打
第六章 霊亀・零漸
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6.17.再会


 僕は応錬さんとアマリアズと一緒に、お父さんが走っていった方向へと歩いていた。

 向こうもこちらに近づいてきてくれていたので、合流自体はすぐにできた。


「フフッ。楽しそうだな、あいつ」

「ですねぇ」


 応錬さんの言葉に、僕は頷く。

 あそこまで楽しそうな顔をしているお母さんは、初めて見たかもしれない。

 ずーっと僕を一人で育ててくれてたんだもんな。


 少し遠くで、零漸がカルナを持ち上げて楽しそうに回っている。

 どちらも心底楽しそうで、周りに人がいる事などすっかり忘れている様だ。

 零漸は眠っていたので、再開までに感じた時間は、そう長くはないだろう。

 しかしカルナは、十七年ぶりの再会となる。

 いつもは静かな彼女が満面の笑みを浮かべて笑っているのは、この十七年間寄り添って手助けしていたウチカゲでも、初めて見る光景だった。


 ウチカゲはこちらに近づいてきて、応錬の隣に立って、その二人を見守る。


「私は、別れこそ多く経験してきましたが、こうして再び出会う様な喜びは、見たことがありませんでしたな」

「ああ、そうなの? ……そういえば、ウチカゲってずっと独り身だったのか?」

「いいえ? 伴侶はおりましたぞ」

「まぁそりゃそうか。だけどさすがにお前みたいに四百年は付き合ってくれなかったか」

「それはそうですな」


 それ以降口を閉ざした応錬に、ウチカゲは首を傾げた。


「おや、相手の事などは聞かぬのですな」

「まぁ気にはなるけどさ。そこまで突っ込みたくはないし……」

「アレナです」

「……………………!? ええええええええ!!!?」

「さすがに鬼の子は人間が生むには難しいので、子は作りませんでしたが」

「ぬえええええええええええ!?」


 とんでもない声量で叫び散らす。

 それを煩そうに片耳を塞いで耐えていたアマリアズは、ふと宥漸の方を見た。

 遠目から満足そうに見えているだけ。

 それでいいのだろうか?


「……見ているだけで楽しい?」

「邪魔しちゃ駄目でしょ?」

「まぁそうかもね」


 さすがにあの中に入っていく勇気はないかなぁ。

 だけど、ああして見ているとお母さんがあそこまで気を許せる人なんだなってわかる。

 やっぱりあの人が、お父さんなんだろうな。


 すると、後ろから少し暖かい風が吹いてきた。

 振り向いてみれば鳳炎がこちらに降り立ってこようとしている。

 ふわりと着地した瞬間、リゼもこちらに戻って来たようで近くで停止する。


「わぁ! なになに? 良い雰囲気じゃない?」

「君のせいで台無しではあるがな」

「なんでよ!」

「ああいうのを見て茶化すのはおっさんなのだ」

「おっ……!? なにおおおお!?」


 鳳炎さんの言う事、なんとなく分かるなぁ。

 鬼の里の結婚式とかでも、そういう鬼結構いた気がする。

 面白かったけど、当事者からしたら恥ずかしいったらありはしなかったと思う。


 すると鳳炎が、僕の方を見た。

 首を傾げ、肩に手を置く。


「おおい、零漸!」

「はははは! お? 鳳炎じゃないっすかー!」

「そろそろこいつに目を向けてみたらどうだ?」

「わああああああ!? ちょ、鳳炎さん!?」

「ん? なんだ?」

「まままま、まだ心の準備が……」


 リゼが鳳炎の頭を引っぱたく。


「あだっ!?」

「なんでそういうところデリカシーないのよ貴方!」

「おい今氷で殴ったろ!?」

「口答えするな!」

「がっ!」


 そんな二人を見ていた零漸が、カルナの顔を見る。

 首を傾げているからに、まだよくわかっていないのだろう。

 それもそうかもしれない、とカルナは笑いながら、悪戯気に笑った。


「誰か分からない?」

「え? ……? え? え!?」


 少し時間がかかったようだが、次第に理解し、最後には確信したらしい。

 驚愕の表情を浮かべ、カルナと宥漸を交互に見る。


「本当に!?」

「本当よ」


 カルナから手を離し、ゆっくりとした足取りでこちらに向かってくる。

 アマリアズに肘で小突かれ、行くようにと急かされた。

 どぎまぎしながら前に出て、ついに対面する。


「えーっと……」

「……」


 静かな沈黙が訪れた。

 どう声を掛ければいいのか、やはり分からない。

 だが彼が父親であるということは、もう自分の中で確信となっていた。

 なにか、なにか話したいが……やはり、言葉が出てこない。


 それは零漸も同じだったようで、いざ息子を目の前にして尻込みしてしまった。

 困ったように手を動かしていたが、最後にはカルナの方に目線を向けた。

 宥漸は、応錬の方に目を向ける。


「か、カルナぁ……」

「応錬さん」


 そこで助けを求めるなよ、と応錬は苦笑いを零す。

 カルナも困ったように笑っていた。


「「どう接したらいいか分からない……」」

「てめぇらやっぱり親子だよ!! ったく世話が焼けんなマジで!」


 ずんずんと進んできた応援が、二人の頭を掴む。

 二人の首を脇で挟み、笑いながら軽く首を絞めた。


「おう零漸! まずは名前呼んでやれよ!」

「ああ、そうっすね!? 宥漸! えっと、覚えてるかな……?」

「さ、さすがに覚えてないです」

「宥漸? 敬語じゃなくていいんだぜ? 父親だからな」

「あ、そっか。てかあの応錬さん……気持ち悪いんですけど」

「やかましいわ慣れろ」


 『防御貫通』のせいで、肌が触れる感触がありありと伝わってきていた。

 慣れないので、やはり気持ちが悪い。

 だが零漸は平然としている様だ。


「よし、じゃああとはいいな!」


 バンッと背中を叩きながら二人を放す。

 押されてよろめき、僕はお父さんに支えてもらった。

 立ち直って見上げてみれば、彼は笑顔でこちらに微笑んでいた。


「いやぁ……大きくなったな……! 俺が知ってるのは、これくらいの時だったけど……」

「豆じゃん……。小さすぎない?」

「はははは、確かに。いやぁ……はは、我が子と話せる時が来るとは……思っていなかったなぁ……!」

「ちょちょ、お父さん泣かないで?」

「うわああああお父さんて初めて呼ばれたかもしれん!!」

「泣かないで!?」


 見事に涙腺が崩壊してしまったらしく、号泣しはじめてしまった。

 それを何とかなだめようとして、更に悪化させる。


 その様子が可笑しくて、周りの人たちは笑っていた。

 だがなんにせよ、親子の絆は少なからず、これでしっかりと結びついてことだろう。

 しばらくはゆっくりできるはずなので、焦らずに歩んでもらえればいい。


「ふふふふ、さて、皆様方。そろそろ前鬼の里へ戻りましょう」

「ああ、そうだな。天使も撤退したみたいだし、少しゆっくりしようか」

「さんせ~い」


 天使もいなくなったのであれば、ここにいる必要はもうないだろう。

 周辺は既にボロボロだが……。

 今は気にしないでおこう。


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[良い点] 想像通りの親子の会話
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